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かぶの菜飯

スーパーに行くと蕪がない。蕪のあったその辺りには半分に切られた大根がポツンポツンと申し訳なさそうに立っている。
ああ、無い、と声に出して、先週まで蕪のあったその辺りをぐるりと周り、無い、と今度は声に出さず思った。今年は終わってしまったのだ。

菜飯の正式な作り方は知らない。
米を炊いているうちに、沸騰した湯に蕪の葉をざぶりと入れたら、すぐザルに上げて、水にさらす。軽く茹でた蕪の葉は鮮やかな緑になる。最小限の塩を加えて、水を絞り、ザクザクと端から切っていく。堅い芯の方は少しだけ細かく、柔らかい葉の部分はざっくりと。葉のものの硬い部分はとても美味しい。味付けは薄めに食感を強くが私の好みである。
白磁の碗に、切った蕪の葉を入れて、静かにしていると、そのうちに米が炊きあがる。炊き立ての白米を混ぜ、そこに蕪の葉を混ぜ、煎り胡麻を、米の炊き加減に合わせて成るべく沢山を入れる。さくさく、くるりと混ぜ続けると当たり前のように菜飯ができあがっている。
出来立てを早速飯碗によそい、汁も無く、それだけで一膳食べてしまう。作った者だけの秘密である。

そんな蕪も今年はどうやら終わってしまった。
私はショッピングカートを押し、あちこちくるくる回りながら、鮮魚売り場にたどり着く、鯛がきれいだよ、という声がするので、ふと見ると値打ちで、ああ、骨を取るのが面倒だと言いながら、すかさず蕪の分の空いてしまった籠のスペースに鯛を入れ、こいつは鯛めしにしてやろうと、口には出さないような言い回しで思っている。






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