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わたし的そうじぜん

庭掃除をする。 

何も考えず、行えば行った様になる。
あらゆる出来事が遠ざかって、正確に一人きりになっていく。

手入れの行き届かない庭なので、その度に大層になる。硬い竹箒で外側から履くと、驚く程の量の枯葉が集まる。夢中で葉を集めていると真っ赤な南天の実が突然目の前で揺れる。どうしても引き抜けない草の根を掘り起こすと、まるで水に映った世界がそのまま奥にあるように、地上と変わらず根が伸び続けている。土を掘り起こしてフカフカにすれば、ツグミかヒタキかが飛んできて、柵の上に器用にとまり、様子を窺っている。地中から掘り返された獲物が出るのを待っているのだ。

ふと我に返ると、とっくに陽は陰り、暮れが進んでいる。目が慣れていなければ、とても掃除が出来る明るさは無い。
腰も、手足も、痛い。
汗ばんだ全身が乾きながら冷え始めている。
急いで片付けて、家に入る。

風呂をわかし、全身を洗い、湯船にもぐる。
なんとなくソワソワしている。
すっかり温まった体に褞袍を羽織り、冷えた廊下から、その様になった、出来立ての、未だ、よそよそしい、庭を眺める。
月が出れば、高い位置にきた頃に、もう一度外に出る。月を見上げるふりをして、周りの広くなった空間を楽しむ。身体が冷えるので名残惜しそうに布団に入って、眠る。
片付けた箒はそのままに、仕舞い忘れたちりとりも、一晩中動かない。

朝起きると、よそよそしかった庭はすこしだけ馴染んでいる。

ソワソワした気持ちはもう無い。

いつもの暮らしに戻っていく。



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