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寝床のはなし

朝、目覚める。

掛け布団を縦半分に折り、剥き出しになった身体を横にしてから起こし、掛け布団を戻し、寝床から出て、障子を開けて、廊下を歩き、玄関の扉を開けようとする。私の家の玄関の鍵はロック式であるのに、今朝はなぜか錠前式になっている。扉には見慣れない金具が埋め込まれ、幅十センチ程もある重たそうな南京錠には、緑色の塗装がしてある。塗装の刷毛跡の凹凸が残り、雑な塗り方だと思う。南京錠に触れると、ひんやりとしている。違う、と思う。夢である。

朝、目覚める。掛け布団を縦半分に折り、剥き出しになった身体を横にしてから起こし、掛け布団を戻し、床から出て、障子を開けて、廊下を歩き、窓を開ける。窓の向こうにある庭には、まるで、山水画のようなゴツゴツした大きな岩が幾つも有る。岩は一つで私の半身くらいの高さとそれと同じくらいの奥行きをもち、良く見るとそれぞれが無二のマーブル状の模様を纏っている。形に適した面を底にして、不規則だが正確に転がっている。また夢だ、と思う。

朝目覚める。掛け布団を縦半分に折り、剥き出しになった身体を横に、起こし、掛け布団を戻し、寝床から出て、障子を開けて、廊下を歩くとギシギシと軋む。足裏の感触に違和感を感じ、床を見る。無垢板の廊下には、つぎはぎの妙に目の詰まった灰色の絨毯が敷き詰められている。つぎはぎの端部分はカサカサとめくれ上がり、経年で焼けている。ひどく不潔な感じがする。夢だ、と思う。

目覚める。掛け布団を縦に、剥き出しになった身体を横に、起こそうとすると、身体が動かない。頭の中が起きていて身体が眠っているのだ。起き上がりたくても起き上がらない感覚を繰り返すうちに、目前が少しずつ薄暗くなっていく。それは、段々に、身体の上に、何か重いものが乗っている感覚に変わる。ああ、夢だと思う。

目覚めずに、眠いと思っている。眠い眠いと思い、眠っている。眠いという感覚だけがあり、他に何も感じられない。緑の南京錠も、大きなマーブルの岩も、日焼けした絨毯も、薄暗い影さえも、見ることができない。私は一人、寝床に横たわっている。夢だと気づかないまま、眠っている。







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