薄氷の訪れ 続編3




一瞬の
会話という会話もしていないが


この瞬間的やりとりが
二人にとっての
大きな一歩となる




下校時間


いつも通り
一人で帰る香苗を見かけた正晴は
声をかける



「今日はノートありがとうな。」


「意外と佐々木くんっておっちょこちょいなのね。」




正晴は少し戸惑いながらも
照れくさそうにする



それもそうだ
正晴はすでに香苗に対して
好意をもってしまっているのだから


これまで
女といものを
自分のものにし
口を開けば
行動すれば
寄ってくるものだと
これまでの経験の中で
そう自覚していたのだから


そんな自信満々の
正晴に対して
なんの興味を示さない
女が
唯一この香苗だけなのだから



正晴にとっては
信じがたい存在なのだ



それは正晴にとって
気にしたくなくとも
無意識に気になってしまうのだ



正晴は言う


「少し近くまで一緒に帰らないか」


なんとも
甘酸っぱい言葉だろうか


1人の男が
異性に対して勇気を出した言葉

誘い文句


香苗は


「今日はみんなと帰らなくていいの。私なんかよりもみんなと帰った方が楽しんじゃないの。」



少し棘があるようにも感じるが


香苗も
興味がない訳ではないのだ



ただ
今までに
そういった経験がない分
どういったふうに振る舞うのが
正解が分からないのだ…。




「今日は…うん、大丈夫。」


正晴の回答に



「そうなんだ。じゃ帰ろっか…。」


と香苗は返す



なんとも
ぎこちのない関係の中に
ひっそりと潜む
これからの期待が含まれた会話なのだろうか



二人は
なんともたわいもない会話をしながら
駅の方まで歩いて行く



駅に着き
お互い
対向車線のホーム


そこで
お互いに電車を来るのを待つ…



何を問いかけ飛ばす訳でもなく



ただ、お互いの目線が合い
時折、目線をズラし



まるで付き合いたてのカップルの
照れ隠しのように…



すると先に
香苗の方から電車がやってくる



そして
反対側の
正晴のホームから
電車がくる香苗に対して



「あ、明日!また!一緒に帰らないか!!」と


声を上げ
香苗に言うものの


電車の音とともに
その声は掻き消されるのだ


電車の中から


香苗は

「なに!!!?」と言った
アクションを起こすが


正晴は手を振り
香苗の姿を見送るのだ



またもや
正晴は胸を落とすのだ



なぜなら
こんなにも
胸が躍り
自分の言葉一つ一つが
香苗に対して
緊張しているからだ…




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