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雨の匂い

降り始める前から気配を感じる。

もわっとした湿気を含んだ生暖かい空気が鼻を刺激する。

雨の匂いだ。

もうすぐ雨が降る。




電車に揺られていると、何やら外が騒がしい。

窓の向こう側を見ると、ひどい土砂降りだった。

さっきまで晴れていたのが嘘のような雨模様。

入道雲がもくもくと湧き立ち、雷の音が遠くで轟く。夕立やにわか雨は夏の風物詩として語られるのは、こういうことが珍しいことではないとうことを意味している。



目的の駅についても、雨の勢いは衰えを知らない。

僕は諦めて駅の売店で傘を買うことにした。

ホームから改札へ向かう人の流れを断ち切る長蛇の列の最後尾に連なった。




ハチ公前出口から渋谷の街の様子を伺う。

路面は打ち付ける雨が激しく跳ね返り、横断歩道は水没して水の流れができていた。 覚悟を決めて、傘を開く。

屋根の外に飛び出すとズボンがバケツをひっくり返したように集中放火を浴び、横断歩道を流れる川を渡るためにレザーサンダルが水没した。




目的地を目前に立ち塞がる信号と、待ち時間にも容赦なく傘を打ち付ける雨。

濡れたズボンの裾から染み込んだ水が毛細管現象で徐々にポケットの中の革財布に迫っていく。

全身びしょ濡れになるのに、そう時間はかからないだろう。




信号が青になると傘を閉じて走り出した。

もう雨に濡れても構わなかった。

とにかくお腹が減っていた。

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