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自動化の落とし穴

今回はXで連投した内容をまとめ直したものです。

自動倉庫と聞くとどの様なイメージをお持ちでしょうか?

人件費が削減できる、保管効率が良くなる、作業が効率的になる!と期待する人が多いと思います。

ところがここには大きな落とし穴がありますので、ぜひ物流に関わる方には読んで頂きたい内容です。

自動倉庫とは


今回のイメージが合うように自動倉庫とはどの様なものか解説します。

自動倉庫システムは、原料の載ったパレット、部品の入ったコンテナ、製品の段ボールケースなど様々な荷物を、クレーンやシャトル台車が棚に自動で運び、保管し、仕分けする、コンピュータ管理された倉庫のことです。
引用元

出典:ダイフクHPより
スタッカークレーン式の自動倉庫(ダイフクHPより)

自動倉庫の導入


自動倉庫の導入時の動機は保管場所の不足です。保管効率だけを計算すると自動倉庫に費用対効果がある様に思えてしまいます。

ところが導入してみて最初に気がつくのは搬出時間が遅い点です。保管効率だけで試算しているので想定していた搬入、搬出時間で荷捌きが出来ないと判明し、やむなく回転率の低い在庫の保管に割当てせざるを得なくなります。

それでラックを満載に出来ればまだ良いですが、そもそもこの様な投資を行う会社であれば回転率の改善は既に図っている筈で、見事に無用の長物になる訳です(経験者です...)

自動倉庫の能力


自動倉庫の能力を数字で解説すると

例えば1日1000件の出荷と納入がある倉庫の場合

必要能力は1000件/日の搬出人です。

これを定時内に終わらせるとして
1000件÷8H÷60m=2.08件/m
60s÷2.08回=28.8s/回

1回あたり29秒程度で出し入れが必要な訳です。ラックの数によりますが、これはかなり非現実的な数字です。もしコンテナの戻しがあるなら更に半分の14秒以下で動く必要があります。

その為ピッカーの台数を増やす訳ですが、ピッカーが1分/回程度の能力とすると
ピッカー数:60s÷14s=4.28機

これで8時間フルに動き続けると考えるとかなり無理があり、2-3割程度の余裕を見る必要があります。このケースなら6機程必要な訳です。
年間計画ではメンテナンスのダウンタイムも考慮が必要です。

自動倉庫の種類にもよりますがピッカーが多ければ多い程、保管効率は落ちていきます。当然投資額も増えていきます。

しかもピッカーが6台なら完全自動にしない限り、作業者は6人は最低必要で更に管理者も
必要で7人体制です。自動倉庫に7人が必要になる計算です。

思い描いていた数字にならないことが良く分かると思います。

コスト負担


ここで自動倉庫のコスト負担をサンプルで確認しましょう。

100件/日の場合
 100件÷8H÷60m=0.208件/m
 60s÷0.208回=288.46s/回
 288.46s/回÷2往復=144.23s/回
 60s÷144.23s/回=0.416基=1基

原価償却
 3000万円/基÷10年÷12月=25万円/月とすると

1件当たりの減価償却費
①100件の場合
 100件/日x稼働日22日=2200件/月
 25万円/月÷2200件/月=113円/件

②10000件の場合
 10000件/日x稼働日22日=220000件/月
 25万円/月 ×6基÷220000件/月=68円/件

となります。おおよそ倍の差が出てしまいます。つまり小規模だと減価償却や維持管理費の負担が大きくなります。このケースだと100件では少な過ぎます。最低200件は必要になる計算です。

ただしこれだと1基しか設置しませんのでバックアップがありません。

2基維持するには400件程度の搬出入が必要になってきます。

そんなに無いよ・・・という声が聞こえてきそうですがこれが現実です。

自動化には相当量の貨物が必要という事です。

ただ最近の機器はコストダウンも進んできていますので、これからは再検討出来ると思います。諦めずトライが必要です。

悩みはスピード


やはりスピードが自動倉庫の共通の悩みです。自動倉庫は一見効率よく見えるのですが、前述の通り余程でないと効果が出ないです。これに投資するなら面積と人を増やした方が安く作業性も良かったりします。

人の場合だと台車を持って移動するので移動距離が意外と少ないのに対しピッカーが1ピックの度に毎回移動するのがネックなワケです。もう少しイノベーションが必要なのかも知れません。

倉庫停止


自動倉庫でお手上げになる事態が必ず発生します。それは故障です。

安全のために自動倉庫の中には基本的に人が入れません。保管効率を上げるため高所に保管されています。人の足場もありませんので停止したらマニュアルでの取り出しは困難です。

つまり故障するとそのラックからは一切の搬出入が出来なくなります。

連続運転しないと意味がありませんので、かなり酷使されハードが劣化するのは避けられないのです。これを避けるためには定期点検を計画的に実施する必要があります。

このため貨物の保管も分散保管して搬出入ストップに備えないといけません。故障を経験すると段々と使い勝手が…と思い始める人が増えてきます。

ソフトのダウンも想定されます。こうすると全てのラックから取り出しが出来ません。これも中々避けられない事態です。

また停電でも倉庫は停止します。これも避けられない事象です。通常倉庫は停電でもリフトのライト等を使って搬出入は可能ですが自動倉庫はこれが出来ません。予備電源も用意は出来ますが費用対効果を減らす訳ですので事前の導入は難しいでしょう。
(顧客からの求償で踏み切らざるを得なくなるというのはありそうですが…)

故障とソフトのトラブル、停電等で年間の稼働時間は低めに見積もる必要があるでしょう。こうして費用対効果はどんどん下がっていきます。

効率化された設計が故にバックアップ手段の確保が難しいという弱点があります。

まとめ


物流の無人化も人手不足がありますので、今後普及が進むと思いますが、機能の差はあれど基本的には自動倉庫と同じです。

インプットとアウトプットを定義して捌ける能力のある機器の選定が必要です。自動化をすれば安易に改善されると油断しないようにしたいものです。(システム入れれば業務が改善されるという幻想に近い気がします)

是非、効果的かつ実用的な自動化を目指して導入を進めて下さい。

以上、今回はここまで。
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