見出し画像

難病者のトリセツ 自治体難病者アンケートへの回答〔前編〕

住んでいる自治体から、「障害者基礎調査」というアンケートが来ました。これは無作為抽出で送られて来るもので、何年かに一度、地域障害者計画を策定するにあたり一斉に行われる調査とのことです。
とても長く、一つずつのあいまいな質問の意味を考えて回答するのでちょっと面倒なのですが、真面目に回答してみました。というのも難病を発症して約10年経ちますが、このアンケートが来たのは初めてです。日々感じることはたくさんあるのですが、その言い先もありませんでした。
けっこうよく書けた気がするので、2回に分けて、その一部をここに書いてみようと思います。

まずはアンケート用紙を読み始めました。私は、どうやら「難病者」というカテゴリーに分類されているようです。私は約10年前に膠原病系の難病を発症し、その結果足にマヒが残りました。したがって身体障害者手帳を持っていますが、難病が原因で身障手帳を取った場合には、「身体障害者」ではなく「難病者」に分類されるのでしょうか。
ふむふむ。では難病者としての意見を述べてみることにしましょう。

統計の基礎項目である年齢や病名、家計等の項目は迷うことなくバッチリ回答できました。

迷い始めたのは、本文の質問からです。質問が想定している場面が思い浮かばなかったり、そもそも私に当てはまらず、ピッタリの答えがなかったりでした。

Q.あなたは、ふだんの生活の中で必要とする介助、援助を受けていると思いますか?

「必要な援助」ってどんなことを指しているのだろう?そして誰による援助?私はなんとか自分でやっているわけで、援助は受けていないのだけれど、どう答えよう?難病者は援助が必要と決めてかかっている質問のため、答えにくいのでしょうね。
まあ何か不自由なわけではないし、困っていないという意味で「受けていると思う」と仕方なくしました。

Q.仕事をする上での不安や不満がありますか?

これは労働条件等の課題を抽出するための項目と思われます。まずは「収入」「仕事の(病気による)困難さ」「勤務時間」等の項目が並んでいます。
私は働いている期間に難病を発症しました。障害者雇用として就職した訳ではないので、業務は健常者と変わりません。難病や身体障害を負った後では、必要に応じて会社に通勤時間、勤務時間の配慮や、負担が大きい業務の軽減を申し出てもよかったのかもしれません。しかし、私にとっては初めてことであり、そんな選択肢があることも思い浮かびませんでした。とにかくなんとか職場復帰しよう、職場の業務に適応しよう、支障がないように見せようと精いっぱいだったと思います。
質問の「不安」については、選択肢に合うものがなかったので、「その他」として「病状悪化による離職の可能性」とだけ書きました。

Q.職場に求める環境は?

「自分の病状に合わせた働き方ができること」「事業主や職場の人たちが、難病者の雇用について十分理解していること」を選択しました。
ただ、本当にこれを実行するのは難しいと思います。というのも、病状は日常的に不安定であり、傾向は自分でもわからない部分が多いからです。同じ病名であっても、症状や症状を悪化させる条件はそれぞれまったく異なります。また、私にとっては初めての体験だから、わからないのは当然なのです。
会社や職場に伝えようとすれば、「突然具合が悪くなることがあります。その原因は正確にはわかりませんが、たぶん疲れやストレスや睡眠不足だと思います」「どれくらい重くなるのか、どのくらいの期間で回復するのかは、自分でもよくわかりません」のようになる。周囲は、どう配慮すればいいのか、まったくわかりませんよね。
私の会社は、障害については理解のある組織ですが、それでも私の病状が正確に理解されているかというと怪しく、何度か通勤時間や交通機関等の配慮を申し出ています。疲れやストレスについてはまったく考慮されず、復帰直後は新規事業の立ち上げを指示されました。疲れやストレスは数字では表せないものだから、でも私の病気の主な原因はストレスにあるのです。

Q.外出の際に困っていることはありますか?

一般社会に関する質問です。
私の場合、足のマヒのため車移動が多くなります。身体障害では歩行障害(上肢・下肢障害)等により、手帳の級数により、警察署に申告することで「駐車禁止指定除外章標」が交付されます。よく車のウインドーに置かれている「歩行困難者使用中」の札です。
あの札は「駐車禁止規制(場所・時間等)」から除外するものであって、駐停車禁止場所での駐停車は通常と同じように違反となります。また、法定駐車禁止場所への駐車も禁止されています。
違反を避け、周囲への迷惑を考慮する場合に、最も有効な章標の使い方は、路上パーキング枠の使用料金が減免されることではないでしょうか。ただ、都内は設置場所がとても限られており、一般の車が停まっていることも多いのが現状です。駐車場で言えば、都立・国立施設の駐車場は障害者手帳の提示で無料となるため、利用の際には有効活用されています。

質問に対しては「車を駐車する所が少ない」と書きました。
そして「その他」として、「歩行がゆっくりで不安定のため、迷惑そうな顔をされる」「コンサート等で皆が立ち上がるとステージが見えない」と書きました。ずいぶんとピンポイントなニーズですね。「一般社会の理解」というテーマと、「立ち上がれていない人」に気づける気配りなのかなと思います。

Q.今後行いたい活動は何ですか?

このあたりから、この質問を作った人は、難病についてあまり知らないのかもしれない、と感じ始めました。
この質問は意味がよくわかりませんね。健常者にこんな質問をするでしょうか?

回答欄には「文化芸術活動」「スポーツ・レク」「旅行」等の選択肢が並んでいます。
活動をしていないことを前提にして、今後の活動を問われていることに違和感がありました。活動をしていないのではなく、不便ながらもなんとか活動に参加しようとしています。また、「行いたい」といきう希望は「行える」という可能性があるから言えるもので、絶対にできないことは「行いたい」とは言えないのが現実です。そういうシビアな選択の現実を考慮していない質問だと思いました。
私は、「その他」として「疾病についての個人的執筆や発信(ブログ等)」と回答しましたが、難病者のニーズの全体像把握の参考にはならない回答でしょうね。

Q.その活動に参加するために必要な支援は何ですか?

これも意味がよくわからない問いでした。例えば、上下肢体幹マヒの人が「サーフィンをしたい」とか「登山したい」と希望した場合、誰がそれを叶えてくれるのでしょうか。「必要な支援が存在しないからできない」という選択肢があってもいいのではないかと思います。

私の場合、希望を執筆活動と書いたので、その関連で書こうとすれば「その他」として「図書館が居住エリアから遠い」と書くしかありませんでした。

Q.健康管理や医療についての困ったり不便に感じたことは?

「近所に診てくれる医師がいない」「専門的な治療を行う医療機関がない」「医療費の負担が大きい」に〇をしました。そもそも治療方法がないのが難病なのだから、治療を行う医療機関がある訳ないのですけどね。
医者ではなく、食事や運動やメンタルなどの相談に乗ってくれる伴走者のような人がいたらいいなと思います。一人でやるには、わからないことがおおすぎます。そして、一人で気持ちを前向きに保って、一生リハビリを続けていくのは、とても大変なことです。同じ症状、同じ病気の人と分かち合ったり、栄養士や保健師やカウンセラーなどが定期的に面談をしてくれたら心強いなと思います。

⇒〔後編〕

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
文:©青海 陽 2019

 

読んでいただき、ありがとうございます!☺ かつての私のように途方に暮れている難病や心筋梗塞の人の道しるべになればと、書き始めました。 始めたら、闘病記のほかにも書きたいことがたくさん生まれてきました。 「マガジン」から入ると、テーマ別に読めます(ぜんぶ無料です)🍀