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本『なるほどの対話』(2008年の感想文を読み返してみる)

病気や障害のことばかり書いていると、「そうじゃない私がいるんだけどな」と、本当の私とのズレを感じます。

私のnoteの記事が病気ばかりになったのは、Twitterの使い方の反省からでした。Twitterに闘病アカウントを作ったのに、音楽やラーメンのことばかり書いているかも。
それでnoteに病気のことを書いて、Twitterにリンクを貼るようにしました。そうしたら、今度はnoteが病気のことばかりに。バランスが難しい…。

それで、以前の文章を少し引用して、病気前の私がどんなことを考えていたのかを振り返ってみようと思います。
今回は2008年の読書日記です。

本『なるほどの対話』

吉本ばななと心理学者河合隼雄の対談。お互いを信頼して尊敬しあっているのがとてもよく伝わる対談で、二人に「出会えてよかったですねー」と声をかけたくなるような対談です。
青年期や子供の頃の感受性、老い、社会、日本や外国、創造のこと等、ありとあらゆることについて、二人で話しています。

吉本ばななは、あとがきの中で、自分の拙い言葉づかいを反省して赤面しています。でも、私は彼女の言葉のもつ響きが、一番印象に残りました。

今回は、鉛筆でマークしながら読みました。自分がどんな所に線を引くのかにも興味がありました。
私は、感覚的に響くような言葉、イメージが広がる言葉に感応しているようです。無意識にそんな言葉を探しながら読んでいることに、気づきました。いくつか抜き書きしてみましたが、文脈から取り出してしまうと、彼女の言葉が死んでしまうように感じたので、引用はやめておきます。

対談の雰囲気はとてもなごやかです。でも、青年や社会について丁寧に話していくと、二人の感受性が敏感なだけに、子供のおかれている辛さを言い当ててしまいます。それで、気持ちが塞いでいく感じになってしまいます。何で今の日本はこんなになってしまったのかな、と思います。


この対談を通して、吉本ばななの小さい頃のことや、小説に対する姿勢を、私は初めて知りました。
彼女は恵まれた家庭で、温かい家族や友人に囲まれてきたのだと思っていました。実際は「生きにくさ」の中で生きてきたといいます。自身も認めている「空気を感覚として記憶する力」と、「小さい時から決めていた小説家になることだけ」を頼りにして、生きてきたそうです。
彼女は、敏感で、正直で、きれいな感性を持っています。そんな彼女の言葉が、敏感な子どもたちや、気持ちが辛くなってしまった大人たちに響くのは、書く苦しみの中で、繊細な言葉を紡ぐからなのかもしれません。

2008年



吉本ばななの小説やエッセイが好きで、高校生の時から20代にかけて、たくさん読んでいました。お金がなかったので、古本屋を回って文庫本を探して読んでいました。だから、彼女の本の題名を見ると、古本屋の薄暗い店内や紙の匂いを思い出します。
高校の時に彼女の小説『白河夜船』を読んで、私にも記憶がある「夜の空気」を、感覚的な言葉で言い当てていることに驚きました。感覚の記憶を、言葉にして拾い上げてくれる感じです。あの感じを知っている人がいるんだ、よく言葉にしてくれた、そう思います。
『なるほどの対話』の中で、「空気を感覚として記憶する力」と自身を言い表していたことで、彼女が感覚を書ける理由を知りました。
私の中にある、幼い頃のあたたかい、でも切ない記憶、形にならない焦燥を抱えていた頃の懐かしい感覚。そんなものを思い出させてくれるから、私は吉本ばななが好きなのだと思います。

一方で、私は河合隼雄の本も、自然に何冊も読んでいました。意識はしていなかったのですが、本棚を見ると、彼の文庫本が10冊くらいはあるようです。
私が彼の本の中で探しているのは、私の幼い頃の感覚を表してくれる言葉ではないかと思います。私の幼少時の育ち方に、何か課題があった訳ではありません。幼い頃の記憶への憧憬のような感覚です。
これは、写真を撮る時も同じです。例えるならば、敏感だった幼い頃に見た夕やけの色、明け方の青い時間。今、目に触れる風景を、そんな記憶に照らして感じることこそが、私の「琴線に触れる感覚」なのだと思います。

今回は、たまたま(本当は出会うべくしてなのでしょう)出会った二人の対談に触れることができました。私が感覚的に好きな二人ですから、その語られる言葉の広がりや響きは、私の気持ちに触れるものばかりだったのだと思います。




文・写真:©2008 青海 陽
「なるほどの対話」 河合隼雄 吉本ばなな 新潮文庫 2002

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