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憧れの食虫植物

今日の私はご機嫌だ。何故なら昔からの小さな夢が今朝叶ったからだ。

今朝私は新鮮な卵を買うために朝市へと向かった。私の街の朝市は毎週木曜日の朝に、家から徒歩20分ほどの広場で開かれる。
カンカンの陽射しに照らされながら広場へ行き、いつも通り10個の卵を買って即帰路についた。

来た道を10個の卵を抱えて、目玉焼きにするかオムライスを作るかに卵を漬けるか…など考えて歩いていると、間違えて6月まで住んでいた前の家の方向に来てしまった。暑さのせいでボーッとしてるな、と自覚しつつ今の家の方へ戻ろうと思うと、ふと花屋の前で足を止めた。

以前この花屋の前を通ったとき、もう閉まっている店の外から大きなウツボカズラの鉢を見つけたのだ。
光沢のある長い葉の先にはウツボカズラの特徴である変な形の赤茶色い袋がぶら下がっている。
その不思議な美しさに魅せられたが、閉まった店の前で何もすることは出来なかった。

今朝私が足を止めた時、既にその店のウィンドウにウツボカズラの姿はなかった。仕方がない、珍しい植物だしもう売れてしまったのだろう。しかし、なんだか気になってしまったので店に入って店員さんにウツボカズラの行方を聞いてみた。すると、なんと店の奥からあの日のウツボカズラを持ってきてくれたのだ。
心なしかあの日みたものよりも大きくなっている気がしたその変な植物は、間近でみると形や色、すべてがなんとも言えない、言葉で言い表せない程魅力的でつい魅入ってしまった。
店員さんがウツボカズラの袋を傾けると、虫が既に数匹閉じ込められている。なんとも生々しい光景だったが、植物とは思えない生命力を感じた私は完全に一目惚れ状態だった。
しかも15ユーロと思ったよりの低価格、私は即決でそのウツボカズラを購入した。
簡単に育て方を説明してもらい、袋もなしでそのまま鉢を手に持って家へ帰った。珍しい植物を持って帰る道はなんとも言えない、幸せな気分でスキップでも始めてしまいそうだった。

家へ着くとまずウツボカズラを置いておくのに丁度良い、日の当たりすぎない温かい場所を探した。東南アジアに分布する植物なので暑さには強いが直接的な日差しには弱いので、温かく日が当たる屋内、というなんともワガママな環境を要求されたのだが幸運なことに私の新居には屋根つきのテラススペースがあるのでそこならこの条件を満たした環境で育てることが出来る。

鉢を窓にかけて、改めて観察…

袋のなかには少量の液体が入っていてその中には死んだ虫が浮かんでいる。たまたま私が大きな袋を覗いたとき、まだ液体に落ちていない、小さな虫が袋のなかで飛んでいた。不思議なことに虫は出口の近くにはたどり着けるのに外に出ることが出来ない。袋の入り口が波になっていてそこに足がかからないのか滑って落ちてしまうのだ。10分後くらいにもう一度覗くと、もう虫は消化液に落ち息絶えていた。
もうひとつ不思議なのは、袋の中の液を匂ってみたがなんの匂いもしなかったことだ。虫を引き寄せるものだからきっと甘い香りでもするのだろうと思っていたが、匂いはない。人間が感じられない匂いを虫は感じるのだろうか。

ウツボカズラの袋を日の光に当てて見てみると、まるで血管が通っているような色と模様で植物なのに人間の内蔵のようにも見えるグロテスクさがある。

こんな近くで食虫植物をみたことがなかったので舐め回すように観察をした。ネットで見ると他にも色んな種類のウツボカズラがあって大きな種類のものはネズミやカエルまで袋に閉じ込めて食べてしまうらしい。ほかにもウツボカズラのなかに生米を入れて炊くレシピなんかもあって興味深い。私のウツボカズラも、袋になりかけの小さな蕾のようなものがついているのだが、生まれたての袋にはじめから入っている消化液は飲むことも出来るらしい。現地では野生のウツボカズラの消化液を飲み水として飲んでいるとか。私も新たな袋が出来たら是非飲んでみたい。

子供の頃から植物に興味はありつつ、家の植物はいつも枯らしてしまってきたので今回のウツボカズラは愛を込めてじっくりと育てていきたいと思っている。

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