飾りじゃないの 【ルールを知らないオーナメント】
「飾りじゃないのよ あちきは ha han」
どこから見てもオーナメントであるその人形は、クリスマスイヴの深夜、ツリーに飾られた仲間たちに向けて、自慢の歌を聞かせている。
「あちきは泣いたことがない」
嘘だ。
人形は、一昨年離れ離れになったオーナメントを想った。
「ほんとの恋をしていない」
一生、ないかもね。
人形の目は潤んだ。
「きれいなだけならいいけど……」
もうだいぶ古くなった自分の、禿げかけたペイントが悲しい。
「ちょっと悲しすぎるのよ あちきは ho ho ho……」
気がつけば、オーナメント仲間は寝息をたてていた。
今年も一人。
ふと顔を上げると、曇った窓に揺れる赤い影。
鈴の音がリズムを刻む。聞こえて来たのは歌の続き。
「ラララ ララララ ララララ ha han」
人形は合唱に合わせて激しく体を揺らした。
すると人形はツリーの枝から落下し、陶器の体は砕けた。
人形は満足だった。
「ね、もう飾りじゃないでしょ、あちきは 。ハハハ……」
[完]
今週もよろしくお願いします。
メリークリスマス ha han°・*:.。.☆
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