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読書ノート | おいしいごはんが食べられますように

作品名 : おいしいごはんが食べられますように
著者名 : 高瀬隼子
読了日 : 2022年7月31日

本当はここに井上荒野『生皮ーあるセクシャルハラスメントの光景』について載せるつもりだったんだけど、ハラスメント糾弾社会になってきている現在、この作品が受け付けているのは絶賛のみのような気がして、結局、下書きのまま放置して、別の作品の感想で上書きしてしまった。どこかを具体的に批判したかった訳ではないんだけど、同調圧力を感じてしまったのだ。

高瀬隼子の『おいしいごはんが食べられますように』は2022年上半期の芥川賞受賞作品で、上記のような空気を息苦しく感じている、普段気を遣われない人間の心の内側を丁寧に描いた作品だ。
周りがフォローしまくらないと生きていけない芦川という女性の、丁寧な食事圧力モンスターっぷりに笑ってしまうのだけど、この作品の特によかった点は、上辺だけでも配慮しようとする会社とは異なる視点・彼女の家族を出してきた点と、芦川と真逆な立場の押尾タイプが生成される過程と、それでも多くの男性が芦川タイプを配偶者として選ぶ現実をきっちり描いたところだと思う。たとえ押尾タイプが配偶者として選ばれたとしても、夫になる男は芦川タイプと浮気して、押尾タイプは毅然と離婚しシングルマザーを選ぶという、この作品とは違う世界線の小説はいっぱいあるから。押尾が高校時にチアリーディングをやっていた理由と本音が、世の中が不公平に回ってしまう根幹としてあると思った。

話を『生皮』という作品に戻すと、(自ら望んで)枕営業でのし上がっていく女性なんか、この世にいないような描き方だったのが、気になってしまった。あまりにも善と悪を二分化してしまうと、最適解を言わなければと圧力を感じるんだよね。

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