見出し画像

読書ノート | 東京プリズン

作品名 : 東京プリズン
著者名 : 赤坂真理
読了日 : 2022年4月15日

スッキリした、という読後感だった。
日本で暮らしていて誰しもが感じている閉塞感や日本人共通の思考回路が、十代半ばでアメリカ北東部に留学させられた(母親の意向によるものらしい)作者の体験記を通じて炙り出され、最後の主人公のスピーチによって余すところなく解明されていく。いま、NHKの『100分de名著』でハイデガーが取り上げられているけれど、ハイデガーが投げかけたことを日本人だけに限定するならば、天皇制と戦争責任に向き合うことが「本来性」を取り戻す鍵なのだ。
多和田葉子など海外在住の日本人作家を読むのは好きな方だけど、赤坂さんの著書はどうして今まで読んでこなかったのだろう? 現代日本人の思考回路を紐解くならば、日本を一時支配下に置いたアメリカで、しかも人格形成される過程で教育を受けた人の説得力は凄まじく、早く出会っておくべき作家だった。

作品は、主人公がアメリカの学校に編入しているところからはじまる。そこではあまり馴染んでおらず落ちこぼれで、進級の条件として出されたディベートのテーマが「昭和天皇に戦争責任があるかないか」というもの。十代半ばにそれをさせるアメリカの教育にまず驚かされるし、現在の日本の学校でそんなことをさせようものなら、保護者が学校に乗り込んでくるだろう。過剰に上から押さえつける教育がいけないとなると、過剰に子どもに寄り添い過保護にシフトしてしまう日本。日本ではそうなることの理由も、この本を読むとわかってくる。日本の教育があえて現代史に踏み込む前に時間切れで受験を迎える戦後の教育制度そのものに原因があったのだ。核心をつくことを避ける国民性は、教育によって作られた? その核心、中心は「天皇制」であり、そこにジェンダー論も混ぜて紐解いていく描き方には賛否両論ありそうだけど、私は得心が行きました。
母親や実家の記憶、ベトナム人の双生児の話が白昼夢のように挿入されるのだけど、一見話の筋に関係なさそうなものもラストのディベート中、主人公が思考する材料になっていく。主人公=作者=日本人という視点人物の置き方が巧みだなとも感じた。作品全体の謎は、私たち日本人が抱えている閉塞感そのものだったりするので、主人公が一つ一つ言葉として発していくだけで肩のこりがほぐれていくみたいだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?