見出し画像

構図ってなんだ編 【ライブ写真の撮り方】最高の推しを最高の写真にする方法 #2

●初心者には機材に依存した話は意味がない

 第2回は「構図ってなんだ」編。なんだかややこしそうですね。やっぱり写真というモノへの向き合い方が変わったのが「構図」という概念だったので渾身で書きました。何しろこれ、自分がはじめた頃、誰も教えてくれなかったので。

 このシリーズは基本的に、自分がカメラ始めた時に「なんで誰も教えてくれなかったんだ?」といううらみつらみで構成しています。

 今はもう少しいろんな記事があるかもしれませんが、自分がカメコ始めた時の入門記事といえばそのほとんどが「機材」の話でした。やれフルサイズ、やれ大三元。そしてその設定の話。実際のところ最も質問が多いのもこのテーマなので需要があるのだと思います。

 とはいえ、細かい設定なんて同じ機材で同じ環境ならそのままパクれますけどそうでなかったらままならない。高価な機材を初心者にいきなり勧めるのはカメラおじさんの悪い癖でしかないし、買ったところで特にライブハウスの環境はそれぞれですから、最後は場数って話でもあります。

 結局のところ「写真」そのものをちゃんと解説しているテキストってのはほとんどない。

 写真が上手い人とそうでない人、何が違うのか?

 「機材ではなく愛」とか言ってみんな誤魔化してしまいます。これもまた仕方ないのです。ライブ写真は撮影者が意図的にできることが限られている。推しの魅力が9割。

 でも残り1割は機材の差だけなのだろうか?愛の差なんだろうか?

っていうか愛ってなんだ?

 この文章のターゲットは推しを持っているライブカメコさんであり、愛はみんなあるはず。だから違いは「愛」だけではない。ではセンスか?それでは話が終わってしまう。ここからが本題です。写真の良し悪しを左右する要素残り1割をめぐる撮影者の悪足掻き。

●センスがないから理屈で考えた構図の話

 僕には「絵的センス」はありません。絵も描けないですし、感性とか愛みたいなものでさらっと上手くできるタイプではありません。しかし一方で写真は別に手を動かして何かを描くものではないし、所詮は限られたスクウェアの中に何をどう配置するか、というそれだけの作業に過ぎない。

 非常にリミテッドな表現手段だからこそ、誰でも「センスがいい風」になる方法があるのでないか?その一つが現像であり、そして今回の主題である「構図」の考え方です。美術の道に進めば必ず出会う概念「構図」。

 そもそも「構図」って一体なんなんだ?それを理屈で理解する試みからまず始めました。

「写真=構図と言い切って過言ではない」

 とよく言われますよね。上手くなりたければ構図!そこで多くの人が「構図解説本」を買ってみたりすると思います。だいたいは見本帳のようになっていて、日の丸構図、対角線構図、額縁構図、三角構図などの都合の良いサンプル写真が載っており、グリッドが惹かれ、なるほどこういうもんかという感じになる構成となっています。

 しかし、我々はライブカメコです。被写体は我々の意図とは無関係に動き回る上、撮影者の位置やカメラの構え方すら思うままにはなりません。構図のお手本のような見事な樹木の写真を見せられたとて、推しは木じゃねーんだ、というしかない。気楽でいいよな木は!です。ポージングやフレーミングを自由に指示できるポートレートも同様です。

 それ以上に…これらの本を見て十数種類の構図のお手本を見せられてまず思うのは「写真って窮屈でつまらないんだなー」じゃないでしょうか?

その原因は……

そもそも「なんのために構図が必要なのか」があまり解説されないから。

 見本帳の構図というのはあくまでわかりやすいサンプルの一つにすぎません。型に押し込めば星型のクッキーが焼けちゃうよ、と言ってるにすぎない。そもそも「構図ってなんだろう?」「なんでこの通りのやるのが良い写真なんだろう?」それに対してあまり語られることはありません。なんのためにやるのかわからないまま丸暗記して現場で対応できる訳がない。

 これほど普遍的に言われる概念、必ず理由があるはず。そこで無い知恵を絞り、様々な本を読み解き、端的に自分は下記のように定義しました。

●「構図」とは「人為的な意図」を写真に持ち込む手法

 写真というのは極言すれば、四角形で特定の風景を切り取る行為です。ただそれだけの作業です。切り取られる対象の風景そのものは、そのようにセッティングした物を除けば撮影者のために用意されたものではない。当たり前です。

 そう。フレームを外したその向こう側にあるのはただただ無軌道で自然に任せたカオスなのです。このカオスの一部を切り取ることで、我々はそれを記録に残し、そしてその一枚を見る者になんらかの意図を伝えようと試みます。

「本当は誰の意図も存在しないものに意図を感じさせるもの」、それが構図とは何か?という問いへの答えになります。では「意図を感じさせる」にはどうしたらいいのでしょうか?

●人間は幾何学的な物に人為的な意図の介在を感じる


 南極で、長方形の氷山が発見されたニュースがありました。


 この画像を見た人がまず思うことはなんでしょうか?宇宙人の仕業か?あるいは米軍の秘密施設か?何者かがなんらかの意図をもって製作したものだと思うでしょう。ミステリーサークルのように。しかし、本件の答えとしてはこれは完全に自然現象です。神秘ですね。

 ここで大事なことは、神秘的な氷山の謎ではなく、結果的に自然現象だったとしても「整った長方形」に対して人間は、どこか人為的だと感じるということです。

 よく考えると不思議です。結晶や数学など自然的に発生する幾何学的なものはいくらでもあり、むしろそれこそが世界の根底だったりするのに、人間は不意にそうした物を見せられた時それを「人為的」だと感じる。

 それは長い歴史の中で世界の根底を為す整然とした概念に人間が挑み、再現しようと試みてきた結果なのかもしれません。美術しかり、数式しかり。あるいは逆に太古には自然界の中にそうした幾何学的な痕跡を見つけることを「神の啓示」のように捉えた時代もあったでしょう。故にそれを「美」とも呼びます。

 カオスの中に何者かの意図を感じる本能。

 「構図」はそれを利用し「本来意図のないものに意図を託す」ために編み出された手法だということ。すなわち、写真の中の構成要素に整然とした幾何学的な一定の法則を感じる時(あるいは「あえて」それを外す時)、人間はそこに無意識に撮影者の人為的な意図を見出します。

 そしてその意図を感じるがゆえに、それを考えようとしてその写真に引き込まれていく。それが「魅力的な写真」と言われるものに繋がる第一歩なのです。そしてそれは、特段卓越したセンスがなくとも、誰でも取り入れることができるはず。

 だって、田んぼに丸いミステリーサークルを作る、四角い氷山を作るなんて、技術や手間を無視すれば「センスがなくても同じ物は再現できる」はずですよね。

●「良い写真」は偶発的だが「ちゃんとした写真」は量産できる

 さて、ここで話を戻します。ライブ写真における「良い写真」の定義はなんでしょう。難しい問題です。推しの魅力的な表情の瞬間を捉えたもの、そのライブでだけあった出来事の瞬間などなど様々ですが、いずれもそれが撮れるかどうかは偶然性に左右されます。

 このような素晴らしいシャッターチャンスをモノにできた時、それはきっと構図理論も機材も越えた反響を得ることができるでしょう。しかし毎度、運頼みでは「撮れない」ことのほうが多く、趣味としてのモチベの維持は難しくなるかもしれないですよね。

 ですが特別なシャッターチャンスでなくても、構図が整理されていて撮影者の意図が伝わりやすい「ちゃんとした写真」をコンスタントに撮ることができれば、大当たりでなくても常に人に見てもらいやすいものを継続することができます。

 もちろん、機材そのものを使いこなす、というのもその大事な要素ですが、それ以上に「構図意識のある写真」であることが、それを可能にする近道なのです。

●「構図」にはめ込むのではなく「構図の要素」を画角の中に見つけてみよう


 そろそろややこしくなってきたのでまとめましょう。

・構図とは人為的な意図を伝えるために必要なもの
 ・人間は単純で幾何学的なものにそれを見出す
 ・意図が明確な写真は特別な瞬間でなくても目を引く

 何1つ想い通りにはならぬライブカメコは千変万化する現場の中で、最初から型通りの構図を狙って撮ることはできない。しかし型の意味を理解し、フレームの中で自由に動く被写体から構図要素を見つけてレイアウトを考えれば限りなく同じような効果を期待できるはず。それが今回の記事の主題です。

 ではやってみましょう。

 まずは写真の中に幾何学的な法則をいかに入れられるか、が整った構図の写真にする第一歩です。

 具体的にはフレームの中に下記をいかにいれられるか。センスに頼らない構図論のスタートです。

A
・垂直線
・対角線
・平行線
・斜線(三角形)

これらの線が写真の構成要素(背景含む)にどれだけ作れるか。

B
・中心点とフレームを分割(9分割)した時に、分割線の交差点である4つの点、この5点のいずれかに強調したいポイントが配置されているか。

 この4点は中心に次いでグリッドが引かれなくても人間が無意識に法則性を感じやすく、意識が向きやすい点と言われてます。

 細かく言えば、真円だったり、弧形だったり、黄金比だっり、数学の教科書に出てくる図形概念であればなんでもいいのですが初心者むけに「最もシンプルな概念」で説明します。

●ライブ写真は「マイクの角度」をまず整える
 現像の時にお世話になった写真で解説します。マイクの重要性です。


 この写真、非常にシンプルに見えるのですが、意識的に取り込んでいる幾何学ラインがこれだけあります。

 偶然だろ?と思われるかもしれませんが、そうではなく。こうなるように実は後でクロップしてミリ単位で微調整しています。

①マイクの角度を基準とした対角線ライン

 実はライブ写真において、もっとも「人工的な物体」はマイクです。バンドであれば楽器がそうです。マイクの角度というのは写真の中で想像以上に大きな存在感があります。というよりもそれがあるからライブの写真だとわかる、という点からすれば実質、主題要素の一つだと思います。

 そして対角線もまたフレームをど真ん中からぶったぎる、非常にパワフルで写真をエネルギッシュに見せるライン。ど真ん中を対角線に横切るなんてことは人為的でなければ都合よくなりませんから、マイク一本の角度一つで、この写真が撮影者によってコントロールされたものであることを無意識に印象付けています。

何はなくともまずマイクを見ろ、これは結構覚えておいて損ないです。黒バックを対角線でぶった切るマイクに、空間を切り裂くようなエモーションを込めました。

②上辺中央からマイクを持つ腕、バックの他メンバーの腕を繋ぐ二等辺三角形ライン。

三角形は安定した印象を与えます。ピラミッドに代表されるように安定した土台と高く伸びるこの図形は古来より、バランスの象徴とも言われてきました。中心に三角形ラインを意識することで、エモーショナルながら安定した歌唱を印象付けています。

 ただし、見るとわかる通り、本来は左側に全体を寄せて三角形内に体をおさめたほうがより安定するのですが、少し位置をズラすことで彼女らしい前のめりな印象を強めています。

 この辺は好みとかセンスになるのですが、一本筋の通った幾何学ラインが通ってれば他はあえてズラすことで「自然さ」を伝えられます。「構図=人為」「不規則=自然(ライブ)」と定義するなら、ライブ写真の構図というのは常にこの「締める」「崩す」のバランスの上で成立するものかもしれません。

③マイクの対角線上方の光芒による対角線平行ライン

④逆向き対角線

 この辺は本当に結果論ですが、これがあったので光芒を強調する現像処理をかけています。被写体頭部を頂点として覆うような光芒は美しかったので。「平行」というのも極めて人為的な存在であり、意図するところを強調する効果があります。

⑤マイクの中心に分割線の交差点

 中心の口元から伸びるマイクの中心に交差点をあわせることで歌声に主題があることを印象付けています。

  このようにグリッドを引くと一定の狙いでこの写真の角度や画角を調整してる、ように見えたらいいな…と思いつつ、さらにわかりやすくするためによりシンプルな例を。


↑これのポイントも「マイク」です。ここではマイクが完全に水平になるようにかなり細かくあわせています。当たり前ですが、写真を構成する直線の中でもっとも強力なのは写真をトリミングするフレームそのものです。

 このフレームに対して平行な線は当然非常に強い印象を与えます。この写真ではさらに分割線ともきっちりあわせることでその意味合いをさらに強めています。ちなみにフレームに対する平行線の効果はフレームに近いほど増し、力強い印象になります。

 ここでマイクの水平にこだわった理由は、被写体のまっすぐな目線と同期するから。全体として真正面を見据えて歌う姿を印象付けるのにマイクをまっすぐ突き出す構図にしました。さらに腕と背中の平行、下辺フレーム中心を頂点とした逆三角形など、幾何学要素も見極めて瞬間を押さえています。

 ここで大事なことは、マイクは水平ですが背景を見ればわかる通り、この写真そのものは別に水平ではない、ということ。実際の地面に対して水平かどうかよりも写っている構成要素をどういう法則で置くべきかを優先しています。

 我々は被写体にポージングの指示も、動きの静止の要請もできませんし、自分自身の位置さえも自由にはできない。カメラのフレームだけが唯一コントロールできる武器です。斜め写真を気にする方も多いですが、地面に対しての水平にこだわりすぎることは、その武器さえも制約してしまうリスクもあります。

 人物には徹底的な平行ラインでレイアウトをし、背景は結果論的にあまり意味を持たない非水平。そもそも斜線自体がエネルギッシュで動きを感じさせる物でもありますから、前述したライブ写真における「締める」「崩す」のバランスを考える時、結果的には動きのある写真に見える、そんな効果もあります。


↑ここまでくるとなんとなく見えてくるのでは?と思いますがこちらも。対角線マイク、頭部を頂点とした三角形と腕で作る三角形の二重構造。抜群の安定感の一枚です。

●腕、目線、体の軸、あらゆるところに幾何学は見いだせる

↑歌う姿、踊る姿の中には無数に幾何学が発生します。マイクそのもの、腕そのものだけでなく、目線や腕と腕の隙間の空間など様々な場所に見てとれます。これらを最大限見つけ出し、フレームの中にレイアウトすることで、その写真が持つ意味が大きく出てきます。

●「背景」を活用する
 ドアップの写真を除けば、写真の面積の内、背景が占める割合は極めて大きいと言えます。ここまでの考え方を背景にも活用することで写真全体をまとまった印象にできます。


↑これはLOFTのロゴを生かした例、ロゴの角度が対角線に乗るようにしつつ、肩は水平にしています。画面全体は斜線を描きながら、被写体自体は正面に意識を向けている、角度のコントラストを意識した写真です。


↑あとの章である「光」の捉え方編で詳しく解説しますが、そもそもライブハウスの背景で一番主張が強いのは「ライティング」です。そもそも直線的な物ですからこれを構図に取り込めば、写真の見栄えは大きく変わります。

●集団になっても考え方は同じ

↑集団写真になっても考え方は同じです、リレーをするように線を繋ぐイメージで構図を組むとまとまった雰囲気が出せると思います。広角になるほど見出す幾何学模様は増えるので、その中でどこを選択して強調するか、撮影者の意図が試されていきます。

 ということで、理屈っぽい前置きが長くなった上に言葉にするほど複雑怪奇になってしまうのでこの辺でまとめます。

●まとめ

 ライブという思い通りにならない被写体を「構図」概念に落としこみ、「ちゃんとして見える」写真に落とし込む方法。

●主題要素を中心、もしくは9分割の交差点に据える
●被写体の中で最も印象が強い直線ライン(マイク、腕、体、背景、ライティングの光芒、背景)を見つける
●それがフレームの中で幾何学的な意味を持つように精密に配置して画角を決めることに集中する
●斜線(エネルギッシュ)、水平・垂直(安定感)、三角形(バランスの良さ)、など線の質によって得られる効果を意識する
●現場で決めきれなかった場合はクロップや回転によって微調整を行い、かぎりなく精度をあげる
●主題となる要素に関係のない要素(見切れてしまった他メンバーなど)もクロップで削り要素を整理する

を基本とします。これらをある程度満たした写真にした上でさらにあえて主題をズラした位置に置いたりするとそこに違和感が生まれ、観るものの興味を惹きつける写真を作ることもできます。

 たとえば、ホラー映画では登場人物を主題要素を置くべきポイントからズラして配置した構図を取ることがあります。観客の眼は無意識に人物の後ろの空間に意識が行き、何か恐ろしいものが背後から迫る恐怖を感じます。これもそうした効果の一つです。そのあたりからセンスが物を言う世界になるのかもしれません。

 ライブ写真には一般的な写真教本における構図丸暗記型は必ずしも通用しません。しませんが、その意味と効果を理解し、必要なポイントをおさえることで、漫然と撮った写真ではなく、撮影者の意図がより伝わる写真にすることができます。

 それだけではめちゃくちゃいい写真になるわけではありませんが、安定してそこそこの撮れ高を出せるようにはなるはず。

 しかも、この効力はたとえ機材がスマホであったとしても有効です。ちょっとした一手間で、機材に依存せず、あらゆる環境で撮れ高をあげられる上に一切お金がかからない。当たり前ですが有効なのは「ライブ写真」に対してだけではないですし、きっと写真が変わります。

 理屈っぽい話だったかもしれませんが、推しの魅力は誰が撮っても変わらずそこにあるもの、より伝わるようにすることしかライブカメコにできることはありません。そんな一工夫の一つとしてもらえたら嬉しいです。

 最後に。理屈っぽい話をしたので、「現場で意識しなきゃ」というという声も頂きました。でも僕のモットーは現場では出来るだけ何も考えずにライブを楽しむことです。構図も色味も明るさも後でも直せるし作れます。どうかライブ楽しんでください。それが一番いい写真に繋がると思います。

 次回は、そうは言っても少しは機材のことを知りたい。そして撮可とは言え、何かと嫌われるカメコ。少しでも叩かれる確率を減らすnote描き下ろし記事、準備とマナー編を予定しています。


この記事が参加している募集

カメラのたのしみ方

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?