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色と光をデザインする編 【ライブ写真の撮り方】最高の推しを最高の写真にする方法 #5

●色と光と構図、本シリーズの総決算回

 長らくお付き合いいただきありがとうございます。ここまでの膨大なクソ長文でやってきたシリーズのいわば総決算回です。とその前にライブ写真、特にアイドルライブ写真の「色」をどう考えるのか?ちょっと難しい話から始めます。

●カラーライトと色の恒常性問題

 たとえば、郵便ポストがあるとしますね。昼のポストと夜のポスト、それぞれの写真があるとします。この時にそれぞれのポストからカラースポイトで赤色をピックアップしたら当然ですがそれは同じ赤ではありません。

 ですが双方の写真を見て「あれ?ポストの色って変わったのか?」と思うでしょうか?たぶん思わないはずです。いたらちょっと…引きます。

 これはポストという決まった色のものだから、というのもありますが、実は人間は日常の中で目にする様々なものが光の強さや、あるいはそれこそカラーライトで照らされていたとしても、その影響を受けず同じ色であるのか、色そのものが変わったのかを見極める能力があります

 朝昼晩、天候や照明、あらゆる状況でカラーコード的には明らかに違う色なのにそんな風に感じて生きてる人はいない。これを色の恒常性と言います。よく考えるとすごい能力ですよねこれ。

 ライブにおいても同様で実際には様々な色の光が演者を照らし、肌色は大きく違うにも関わらず、観客は本来の肌色を脳内で補完しながらなんの違和感もなく鑑賞しているはずです。これは動画においても同様でしょう。

 しかしながらある程度、連続しているものとしてみている時には人間の色彩恒常性維持機能はかなり強く働きますが、写真のように一部だけを切り出した場合には話が別です。

 撮影者本人、あるいはその現場にいた人、同じアーティストをよく見ている人はある程度それが機能しますが、そうでない人が客観的に見た場合、それは単純に肌色が美しくない写真に見える(肌色じゃないように見えるという意味ではなく)可能性が高まります

 ゆえに、特にアイドルを撮影する場合には色の恒常性が保たれるバランスの色調の写真をまず基本とすることが非常に重要になるわけです。

↑写真の良し悪しとは別の次元の話だがこういうのばかりでは演者を魅力を伝え切ることはできない。

●肌色から遠い色ほど美しく見えない

 肌色と反対色関係にある青や紫、あるいは緑といった色彩が肌を全面的に覆ってしまってる場合。あるいはそうでなくてもそれらの色と肌が混色状態になっている場合。これらは一般的にあまり美しくは見えません。見えないのでゾンビとかピッコロ大魔王とかそういう存在の肌色として使われています。

 現像時に寒色系にホワイトバランスを調整することと、最初から青い光が当たっていることは全く別なのです。これらの色の光は明るさ自体も抑えられてしまうため、暗さも相まってメリハリのない写真になってしまうことも少なくないです。

特にブルーライトはその暗さゆえに肌がオレンジ色に転びやすく、あまり綺麗な写真にはならないでしょう。

 こうしたカラーライトが強く展開している時間の写真は頑張って撮影しても、なかなか良い写真にハマることは難しいです。もちろん、自分が行ったライブの記録としては十分意味があるのですが、重点的に狙って撮っても良い結果を得られにくいということです。

 それでもその瞬間にいい表情や良い構図が撮れることは少なくないのですが、そうした場合は現像時に限りなく補正したりして恒常性維持機能が発動するバランスまで調整することで救済できることもあります。いわゆる色かぶり補正というものです。

方法としては…

●補正した色と補色方向に色合いやホワイトバランスを倒してみる
●思いっきり暖色に倒す
●自然な彩度・彩度を落として色味の存在感を抑えて慣らす(唇だけ彩度を戻すことで肌の彩度を下げても自然に見える裏技もあります)
●Lrの「混色」から色域別に彩度や輝度を落とす


 当然これらで全て対応できるわけではなく、より細かくレタッチをかけることで回避できる場合はありますがよほどでない限り、その時間は有効ではないでしょうし、もちろん色被りしてるからダメな写真ということではありません。

 ライブの情景写真としては全然ありでしょう。何を目標に撮るか、と深く関わりますが、被写体の魅力を最大化して伝える、という観点からするとベストにはなりにくい、ということですね。

 ただしそうしたライティングも大前提としてグループの雰囲気や曲調に合わせて調整されているもの、そうした文脈が広く共有されている人たちに向けて発信したり、インパクトのある写真に仕上げるという意図を持ってやる中ではこうした色調ももちろんアリです。

写真の良し悪しとは別次元の話であることは再度強調しておきたいところですね。

 もっとも有効な救済手段はモノクロ写真にしてしまうこと。これならば、表情や雰囲気だけを抽出した写真になります。

↑モノクロ化することで色被りは無視して写真そのものに写ってる表情だけ伝えることができる。

↑ライブ自体の熱量を伝える意味でもそもそも暖色系にチューニングするのは相性はいい。紫や燻んだブルーなどパッとしない色調のときは暖色系に。肌色に近い色は違和感を感じにくい。

↑色被りの中でもレッドライトは肌色に近いこともあって、恒常性が破綻しにくい。

↑こういうわけのわからん光はいっそ堂々とバキバキに発色させてみるのも一つ。ただこれもレッドライトの存在が大きい。

●ライティングを構図に積極的に取り込む

 写真における「ライティングを写す」という行為には2種類あります。一つは光源そのものを写す。もう一つは光源が作る光芒を写す。いずれもしっかり立てるには現像処理などで手をかけてあげる必要がありますが、とはいえ最初から画面に入っていなければ意味はありません。

 光源は一定の規則性をもって存在しますし、光芒は直線的で画面をダイナミックに見せてくれます。
 
 これらを意識的に構図に取り込むにはシャッターを切るときに、そこに光があることを意識していなくてはなりません。いえば簡単ですが、実際は撮ってると被写体に集中しがちで見えてないことが多いものです。

 光源、光芒と被写体が一つのフレームの中で意味をもって並ぶ時、バストアップの写真であっても非常に美しくドラマティックな写真とすることができます。先にも書いたように情感は色と色彩に宿ります。光を画面に取り込むことはそれだけで非日常レベルをあげられるのです。
 
 そのためにはある程度、ステージのライトの位置を把握しておく必要があります。どのくらいの光量があり、どのくらいの数があるのか。またどのような画角にすれば取り込めるのか。
 
 当然、ライトの多くは天井付近にありますので、これを画角に取り込むにはある程度の広角が必要、というのも間違いではないですがズームのアップ写真でもきっちり入れる方法があります。それはちょっとかがんで煽り気味で撮ることです。

 かがんで怒る人はいないのでマナー的にも優しいですね。ものすごいガラガラだったら座っちゃうまである…まあこれはへんに目立つので勧めませんが。これにより、通常では入らない上方の光を画角に取り込みます。
 
 ライブ写真で撮影者がコントロールできるのはカメラと自分の姿勢だけです。上下左右、ちょっと動くだけでも光のレイアウトへの影響は大きい。フレームは全身で動かします
  
 光芒に関していうとある程度のサイズのライブハウスに関してはミストの量にもよりますね。これが多すぎるとそもそも撮れないので難しいのですが、ほどほどにコントロールされている箱は良い箱です。

 ここでチェックしてほしいのはミストの噴射口です。噴射した瞬間は部分的に濃いミスト領域ができ、光芒が映えやすく、かつミスト自体のゆらぎがあるので背景に動きが出ます。

 光芒を立てる現像の方法、レイアウトの構図の考え方は#1と#2参照してください。

 ライティングを含む、背景をレイアウトに取り込むことを覚えると写真は俄然楽しくなります。ライブは一期一会と言いますがそれでも同じグループで数を重ねていけば同じような写真ばかりになってしまう、そんな時に有効な手段ではあります。

 しかしながら背景面積が増えればメインの被写体である演者の姿は小さくなっていく。ライブフォトに期待される機能として「肉眼よりも寄って見える」という部分のウエイトは大きいため、情景により過ぎた写真はSNSの掲出サイズでは目立ちにくいというのはあります。バランスよく撮り分けるのが(応援をゴールとするなら)望ましいと言えるでしょう。

↑逆光を背に逆三角形上の光芒を取り込むことで引いて撮った被写体にフォーカスする。

↑被写体の腕のラインと光芒のラインが重なる瞬間を狙う。全体としては対角線状にエネルギーなラインを描きつつ、背中から抜ける光によって動きを強調する。

↑逆光を狙うとリング状のフレアが出ることを逆手にとって被写体を囲うような光に…って部分は偶然ですが被写体とマイクの上部に大小の光源が入るようにレイアウト。

↑光の道へ向かうようなレイアウト。後ろ姿でもドラマティックなイメージを託すことができる。

↑被写体の視線とバックライトの配置を同期。歌が届く先に光を置くことで情感を強化する。

↑背中に光を背負った形。あえて被写体を中心から外して取り込んだ。地下のライブハウスは光を追い、光を背負うそんな戦場だ。

↑光芒のちょうど隙間に被写体を配置。シャドー部分に被写体がいることで存在感を意識させる。

↑光源に向かう後ろ姿。ライブの一シーンに過ぎないが演者の未来を暗示するように。

↑光源を完全に被写体で被せて漏れる光を後光効果に。三角形状の光が顔へと視線を誘導する。

↑被写体の動きと光芒をシンクロ。全体で迫力のある画面を作る。

↑頭上に星座状にお椀型で囲む。星や星座に見立てて撮るのも面白い。

↑歌と光のシンクロ。光は常に何かに見立ててみる。視線だったり歌だったりのエネルギーの流れをビジュアル化する意識でレイアウトするとは画面全体がパワフルに。

●補色や反対色を意識して光の色を立てる

 どちらかというと現像時の話です。背景をブルー系に落とした時に、どこまで落とすか。自然な肌色に止めることが第一の基準ですがそれ以外にもベースの基調カラーと補色関係にある色が残るような調整をする、とポイントが際立った写真になります。

 シンプルな例でいえば、金髪に近い髪色の子であれば髪色の印象はしっかり残して調色する。そうすると画面の中で補色関係の色彩が残り、鮮やかな印象を与えます。色調を全部同系統に揃えれば良い、というわけではなく、反対色をきちんと残すのも大事です。

↑背景の光に青みをつけつつ、ピンク髪が立つポイントを狙う。対称的な色を配置することで主題カラーを強調。

↑こういうライティングだったと言わればそうだが現像あるあるとしては実際のライティングのカラーとは全然違うというのはよくあること。赤と青のバランスは調整で大きく変えられるので全体バランスよくなるように調整。

↑髪のグリーンとレッドバックが程よくなるバランスを目指して色域ごとに微調整。

●色調を制御することで主題が明確な写真にする

写真の基本は一番伝えたい要素を絞り、そこに目がいくようにすることが大事です。基本的には構図のコントロールがその第一歩ですが色調のコントロールでも要素を絞ることができます。

 たとえば伝えたい主題が人物である場合、人物以外の要素とコントラストをつけることで目立つようにするテクニックがあります。

 人間の肌色は暖色です。全体を寒色に振っても根本的には暖色であること自体は変わりません。背景から暖色要素を抜くことで人物の肌色の背景に対するコントラストがあがり、目が人物に自然と集中できるようになります。もちろん伝えたい主題の目的によってはこれが常にベストとは限りません。

 また黒レベルをあげて曖昧な光を低減すること。これも画面全体を引き締めて主題に集中させる効果が期待できます

↑現像編でも使った写真。色味だけの影響ではないがフラットな写真から人物に目が行きやすい形にした調整。

●まとめ

 現場で光を見てショットの瞬間を狙うこと、意図的に入れた光を最大化するために現像処理をすること、この両輪を行えばきっと情感ある写真を作れます。

 そうしたことが誰でも行える(たとえスマホでも)ような時代になったことと、インスタなどの写真投稿型SNSの隆盛は無縁ではないでしょう。「インスタ映え」などと言う言葉ができて久しいですが、実体験を疎かにして(頼んだ飯を食わないとか)写真を優先する姿勢はともかくとして、伝わる写真に仕立てる技術として決して侮れる要素は一つもないと思ってます。

もちろん好みはそれぞれですが、「誰に」「何を」「伝えたい」のか?撮るべき要点を明確にする過程には、整理された光と色が織りなす情感は欠かせません。

 ライブ写真ほど様々な光を一気に体験できるジャンルは多くはないです。被写体の魅力にたくさん酔いつつも、空間を照らし出す光と色についてもぜひ楽しんでいただきたいです!

次回は「なぜ最後なんだ?機材選びの心意気編!」

https://note.com/aokumacamera/m/me947fe14f660

Special Thanks

最高の瞬間をくれた、ステージの上の貴女たちに。

カミヤサキ(GANG PARADE)
ユメノユア(GANG PARADE)
ヤママチミキ(GANG PARADE)
ココ・パーティン・ココ(GANG PARADE)
月ノウサギ(GANG PARADE)
ハルナ・バッ・チーン(ex.GANG PARADE)
アヤ・エイトプリンス(ex.GANG PARADE)
星熊南巫(我儘ラキア)
榎本りょう(WILL-O' )
桐乃みゆ(WILL-O' )
小森うずら(WILL-O' )
YOSHIDA SODA (ex.HAMIDASYSTEM)
MITSUI AMEBA (ex.HAMIDASYSTEM)
HASEGAWA BEET (ex.HAMIDASYSTEM)
KOYAMA FLAME (ex.HAMIDASYSTEM)
AMEBA(クロスノエシス)
FLAME(クロスノエシス)
LAKE(クロスノエシス)
小田彩美(魔界)
瑳里(ex.NECRONOMIDOL)
月日(RAY)





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