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『石の花』記事③  青騎士コミックス『石の花』では素敵な帯コメントをいただきました

1月に1~3巻、そして2月19日に4巻、5巻(完結巻)が刊行されます青騎士コミックス『石の花』。

1~3巻では各巻に著名な漫画家から帯にコメントをいただきました。

1巻は浦沢直樹さん、2巻は幸村誠さん、3巻は安彦良和さんです。素敵なコメントくださったお三方、ありがとうございました。

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そして2巻の幸村誠さんのコメント、実は本来はもっと長い文章があるんです。スペースの関係で帯には全文掲載できませんでしたが、どうしても多くの方々に読んでいただきたい。『石の花』という作品と坂口尚さんへの気持ちのこもった熱い文章です。幸村誠さんにお願いをして許可をいただきましたので、ここに公開させていただきます。

「石の花」の単行本が再び刊行されるに際し、私に帯書きをご依頼くださいましたこと、たいへん光栄です。ありがとうございます。同時に、いったいこれはどういう事態だ、ボクなどが「石の花」に言葉を添えるなんてことが許されるのか!?とも思い戦慄しております。ともあれ、できる限り、「石の花」について拙文を書いてみたいと思います。この文章の中から帯書きになりそうな部分を抜粋してお使いいただけますでしょうか。申し訳ございません、ごく短文で的確に何かを言い表すということが苦手なのです。よろしくお願いいたします。

この文章を書く前に改めて「石の花」を読み返して気づきました。ボクがあまりにも強く「石の花」に影響を受けているということを。高校生の頃に「あっかんべぇ一休」を読んで以来、坂口尚作品のような漫画を描きたいとたしかに思い続けてきました。そうは言っても似すぎてはいけない、と気をつけていたつもりでしたが、それでもこんなにも似るものか。でもボクのせいじゃないんだ!ボク悪くない!それだけ坂口尚作品が強い影響力を持っているということなのです。拙作「ヴィンランド・サガ」はその証明です。
十代の頃に「あっかんべぇ一休」「VERSION」そして「石の花」の順に触れました。三作とも明らかに、まだ子供のボク、苦労知らずの生意気な高校生には理解の及ばないテーマでした。しかし同時に「きっとこの坂口尚先生の本は何度も読み返さなくてはいけないんだ」と感じました。なにか、ある。なにか、ボクの知らない大事なことがこの世にはあって、この漫画はそれについて描いているに違いない。高校生だったボクはそう感じたのです。それを理解できるようになるまで、折々に坂口尚作品を読み返そう。そう決めて、以来約三十年。またこの機に「石の花」を読み返しました。若いころと今とで少しは読み方が変わっているだろうかと期待しながら。
・・・・・わからなーい!!あいかわらずわからない!!強制収容所でフィーが見たもの、ラーナが「ほんとうの未来」と呼んだビジョン、それが、45歳になった今もわからないのです。ボクはこれを理解したいのです。ほんとうの未来って何!?ほんとうの?
ナチス政権下のドイツ軍のユーゴ侵攻によって強制収容所へ送られた人々。身に着けたものは何もかも剝ぎ取られ、番号で呼ばれ、重労働を課せられ、虐待され、わずかな食事をどう楽しむか以外の関心を失った人々。死以外、未来に何もない人々。そんな、何もかも失い追い詰められた人々の中の一人二人が、美しい夕陽を見て、美しい夕陽を超える何かを感じたのです。いったいそれは何なのか。どうやらここにこそ、坂口先生が読者に最も伝えたいことが隠されているに違いない。それだけはなんとなーくわかるのです。そしてそれがとてもとても人間に大切なことなのだろうということも。
この点においては「あっかんべぇ一休」「VERSION」にも「石の花」と似た部分があると感じます。坂口尚先生が様々なモチーフで何回も表現しようとしていらっしゃる「なにか」。何回も挑戦するくらい、描き表すのが難しい「なにか」。ボクなどはそれが何かわかっていないのに、坂口先生の作品への情熱、真摯な創作姿勢からそれが大切なことなんだろうと察することができます。「これほどの描き手がこれほど一生懸命取り組んでいることなのだから、よほどのことなんだな」と。
この度の復刊で「石の花」がたくさんの方に読まれることを願っています。「石の花」友達がいないんですボク。ぜひ誰かと「あれどういうことだと思う?ラーナの言ったやつ」って話をしてみたい。ボクより若い方達が読んでどう感じるのか知りたい。
長い時間をかけて何回も読み直す必要のある「石の花」を復刊させてくださってありがとうございます。我が家が火事になって単行本が燃えてしまってもまた買い直すことができます。ありがたい。どうか「石の花」のような作品が絶えることなく、埋もれることなく、50年100年と新規読者を獲得し続けていってほしいと願っています。ボクひとりだけが「わからない!わからない!」と悩み転げまわるのはいやなので。
以上です。

『石の花』の持つメッセージの奥深さが感じられる熱い文章でした。坂口尚さんの表現した「なにか」を読者のみなさんにも感じていただきたく思っています。

そしてもうすぐ刊行の4巻では手塚治虫さんの生前のコメントを掲載させていただきました。

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いただきました各コメントがそれぞれがそれぞれに『石の花』の特徴を描きだしています。それに合わせて1巻は「描線の美しさ」、2巻は「メッセージの奥深さ」、3巻「歴史的な意義」、4巻は「作品の持つ詩情」をテーマに帯文全体を書いていますので、その違いも楽しんでもらえると嬉しく思います。