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南紀熊野ジオパークは見所満載でスケール壮大でした!/訪問レポート

割引あり

「大地の成り立ちと熊野信仰」に関心のある仲間たちと、南紀熊野ジオパークを3日間ほど旅してきました。いやぁ、楽しかったし、学びが深かった。雄大なスケールと見所が満載の南紀熊野を満喫しました。以下、簡単にレポートします。

JR白浜駅で集合

大阪から朝1番に出る特急くろしおは朝10:10にJR白浜駅に到着します。東京からは羽田空港→白浜空港が朝9時着なので、各地から集合しやすいタイミングですね。今回は埼玉、愛知、島根、兵庫あたりから集合の旅仲間。駅で「3日間、よろしくお願いします〜」と挨拶したあと、レンタカーを借りてさっそく白浜の有名スポット「円月島」へ。普通の観光なら写真をとっておしまい!のスポットですが、今回は「大地の成り立ち」という切り口があります。なので「あれはどういう成り立ち?」「なんであういうカタチになっているの?」というのを一つ一つ調べたり、ガイドさんに伺ったりしながら深める旅となりました。

白浜を代表する観光名所の「円月島」その成り立ちを知ると、今のうちに見ておきたくなる

成り立ちを知りながらの熊野旅

ちなみに島全体は「砂岩」をうすく挟む「れき岩」という種類の堆積岩 。砂岩のところは深い窪みになりやすく(塩類風化)、これがもとでタテに亀裂ができて穴があいたようです。もうしばらくすると、2つの島に分かれてしまうのでしょうか。すると観光名所じゃなくなっちゃうのかな、という余計な心配をしつつ、次の訪問地、千畳敷へ。

青い空、青い海に、縞模様の大地。さすが千畳敷という広さです

こちらも大変有名な場所で、たくさんの観光客が写真をとって喜んでいました。こちらは砂が堆積してできた「砂岩」がメインの地質です。砂粒より大きい小石(れきが堆積するとれき岩、もっと細かい泥が堆積すると泥岩)。堆積岩を覚えると、岩石をガン見しはじめます。千畳敷は、ダイナミックな地形がどーんと広がり、太平洋の波が打ち付けてきます。天気もよくて、気持ちいい!

地元スーパーでめいめいお弁当やおにぎりを買って、ガイドさんとの集合地点「スサミトラベルカウンターFRONT110」を目指します。ここは、元警察署の建物をリノベしてできた観光案内所&コワーキング・スペースみたいなところ。SUPのレンタルやキャンプを楽しむ拠点にもなっています。今回は屋上でお弁当を食べました。建物には牢屋っぽいやつも残っていて、収監写真も撮れます(笑)

拘置所に入ると天を仰ぎたくなるのは、なぜだろう。絶望的な気持ちになる閉鎖音、がちゃん

初日、海ぞいをご案内いただいたのはジオ・ガイドの神保さん。今回は大人気ジオ・サイトである「フェニックス褶曲」を見に行くべく、すさみ観光協会に申し込んでいたのでした。こちらのポイントはガイドさん同行でしかいけないポイントなので要予約です。ご予約は以下。 ↓ 申請書類や同意書も必要です。

安全のためのヘルメットを渡され、注意事項を聞いた上で、現地へGo。あいにく台風の余波で波が強く、奥のほうまではいけませんでしたが、大陸プレートと海洋プレートのせめぎあいの結果できた褶曲(しゅうきょく=圧力によってできる大地の しわ のようなもの)のしくみを知ることができ、大変勉強になりました。大地がひん曲がるほどの力が働いている地球です。

南紀熊野ジオパークの立ち上げ期から活躍するジオガイドの神保さん。お話し丁寧で、安心して聞ける

すごいネーミングのジオサイト

続いて向かったのが、ネーミングからしてヤバそうな「サラシ首層」。こちらは泥が堆積してできた泥岩(でいがん)の層に、丸い首のような岩石が残っている不思議な光景。潮の満ち引きのタイミングでは、海に沢山のサラシ首が見られるようです。うーん、なんか怖い。

石はころがっているのではなく、大地から生えている。サラシ首に見えるかなぁ

南紀熊野は本州最南端に位置する暖かい場所。なので、浜辺にはたくさんのサンゴが打ち上げられています。これらのサンゴを活かして消石灰をつくり、漆喰(しっくい)という建材に活用するという産業がかつて盛んになり、サンゴ御殿が建つほどだったそうです。

弘法大師が一晩でつくった!?橋杭岩

直線上に立ち上がってくるマグマを感じる人気スポット・橋杭岩。道の駅が隣接していて休憩しやすい

ここまで見てきた「堆積岩」と違ってこちらは「火成岩」という火山由来の岩になります。1400万年前の大噴火によって地中深くから上がってきたマグマが、地層を突き抜けるように上がってきて、冷えて固まった岩たち。火成岩のなかでも地底深くゆっくり冷えた花崗岩(御影石と呼ばれたりする)や、地上近くで急に冷えた流紋岩などが有名です。橋杭岩は流紋岩ですね。弘法大師が一晩で作ったとも伝えられるこの巨石たちは、地質学的には、噴火のマグマによって出来たそうです。

スケールがバグる

地質の話を聞いていて、ときどき分からなくなるのが、時代のスケールです。「こちらの地層は約5000万年前で、すぐこちらの地層は1600万年前のものです。なので、こっちは比較的新しいほうの最近の地層ですね。まぁ最近の子ですわ」え!、1600万年前って、最近なの? とスケールがバグります。
ちなみに日本一の富士山はもっと新しい山で1万年前に今のカタチになってきたそうです。富士山で、おぎゃあ!な赤ちゃんクラスかぁ。核廃棄物の保管の目安で10万年とか言われるが、富士山クラスの地形変化が出来てもおかしくない時間スケールのお話しなのね、と考えたり。

国道沿いのカーブを曲がると急に出てくる奇岩・蜂の巣岩。穴ぼこが迫力あります

奇岩・巨岩がつぎつぎ登場

初日の最後の訪問地は、浦神にある蜂の巣岩。一面穴ぼこだらけのこの岩も、1400万年前に起きた大噴火のなごり。あまりに大きな噴火だったので、巨大なカルデラが出来ました。そのいちばん端っこにあたるところらしいです。火山由来の火砕岩という種類の岩で、岩石に含まれる塩分のかげんで風化して、タフォニという穴がたくさんできた岩石になります。有名な古座川の一枚岩、牡丹岩、虫喰岩なども同じ大噴火のあとにできたもの。地図を見ると、きれいにカルデラの円形状に配置されています。

熊野カルデラの話はかなり壮大で、この大噴火の影響で地球の気温が下がったというぐらい

初日のお宿はペンション・ゆうさん。捕鯨のまち・太地町らしい郷土食材をたっぷりつかった晩ご飯は絶品でした。考えてみれば、太地町が捕鯨のまちになったのも、大地の成り立ちの影響です。見張り場になる高台とクジラを追い込める湾のある地形が、まちの基幹産業を育み、歴史や文化をつくってきたとも言えます。翌朝は、太地町にある灯明崎と梶取崎の間をお散歩!気持ちよい朝を迎えます。今日は暑くなる予感。

太地町は変化に富んだ地形でお散歩するととても楽しい

クオリティの高いジオガイドさんたち


お宿でチェックアウトを終えたら2日目にお世話になるジオガイドさんと合流です。南紀熊野ジオパークは広大な面積なので、一人のガイドで全面積をカバーするのではなく、担当エリアがそれぞれにあるようです。2日目にお願いしたガイドの橋口さんは、トークが上手な明るいお方。地質のガイドをしながらも、地元の「もちほり」いわゆる餅投げで餅を拾うのが上手なおばあちゃんのモノマネなどをしながら、わいわい進んでいきます。

弁天島から鉄塔の左、かすかに見える那智の滝。あそこまでいくぞ

はじめに訪れたのが那智勝浦町にある弁天島。こちらから日本一の高さを誇る那智の滝を見ることができます。このあたりの地質は泥ダイアピル岩体というまったく聞き慣れないタイプのもので、なんでも地下深くの泥や砂の地層が、液状化し、上の厚い地層を突き破って上昇してきたとのこと。海から見える那智の滝に向かって車を走らせます。

地学用語は意味不明なものも多い。ダイアピル、ダイアピルと復唱しながら覚える

やってきたのは大門坂パーキング。ここから熊野古道の終着地点である那智の滝を目指します。大門坂に敷かれているのは、基本的には砂岩。ただ、もともとあった岩石の上下をひっくりかえして、丈夫な面を上にしているようです。滝に近づくにつれ、火山由来の流紋岩の敷石が増えてきます。そう、那智の滝は、火山由来の固い流紋岩と、水で浸食されやすい砂岩・泥岩が中心の堆積岩の境目に生じたのです。那智の滝に限らず、多くの熊野の聖地が、1400万年前の大噴火のなごりとして存在していることを教えていただきました。

み熊野の 聖地は火山の 名残かな

帰りの車で5・7・5で歌詠みもしました

大門坂から那智大社・青岸渡寺・那智の滝というルート。僕自身は、もう何十回も歩いているのですが、ガイドがいいと、全く違った体験になります。とっても面白かったし、もっと熊野が好きになりました。橋口さんのお話しはメイン・テーマに沿いながらも、周辺のこぼれ話も楽しくて、ついお願いした時間をオーバーしてあれこれ聞いてしまいました。背中にしょったリュックからいろいろ解説ファイルを出してきて、詳細に教えてくださるシーンが多く、大変ありがたかったです。那智の火まつりの話が印象的だったので、今度、タイミング合わせて見に行こうっと。

那智の牛王宝印を解説するジオガイド橋口さん。カラス文字で「那智」と書いてあるのが読めた!

最終日は「筏師の道」を歩く

2泊3日の旅も最終日。現地スタッフのみおちゃんに朝ご飯で郷土料理の茶がゆをつくってもらい、お昼ご飯用に、皆でめはり寿司を握ってからのスタート。最終日は「筏師の道」を歩きます。僕の実家はおじいさんの代から林業と製材業をやっていました。祖父から「昔は山から丸太を出すのに、トラックではなくて筏をつかっていた。たくさんの筏が北山川・熊野川から下ってきて、新宮に集結し、川口あたりや対岸の鵜殿で製材所がたくさん出来た。うちもその一つだ。」という話を聞いていました。たくさん連なる筏を運んだ筏師さんが、上流の北山村などに帰る道。それが「筏師の道」です。

「筏師の道」は世界遺産・熊野古道の中辺路などと違ってメジャーな観光スポットではありませんが、地形を活かした産業がかつて、ものすごく栄えていたんだということを感じる素晴らしいエリアでした。

最終日をご担当いただいたジオガイドの平野さん。めちゃめちゃトークが面白くずっと笑ってました

このあたりは、熊野でもとくに古く7000万年前の地層、竜神付加体(りゅうじんふかたい)で出来ているそうです。付加体?なにそれ? と聞き慣れない方もいると思います。大陸プレートに海洋プレートが潜り込むときに、2 つのプレートの境界で大地震を起こしながら、海洋プレートのうえにある堆積物を、元ある大地に付け加える感じで陸地が出来ていったタイプのものらしく、今回のツアーで何度も出てきたキーワードでした。よし、覚えたぞ、付加体。

基本的に紀伊半島の大半の土地は付加体でできています。このあたり、詳しく知りたい方は南紀熊野ジオパークのWEBサイトを見てみましょう。え、文章を読んでも頭に入らないタイプの人はいますか? 実は僕もそうなんです。そういう人はジオガイドさんのトークを聞くとばっちりわかります。どうぞステキなガイドさんと出会ってください。手作りのクッション模型などをつかってわかりやすく解説してくれました。

南紀熊野ジオパークのWEBサイトより引用。どんどん付け加わるので、南のほうが新しい付加体。紫色の竜神付加体はかなりの古参ということがわかる

で、その「筏師の道」ぞいには、かつて栄えた山中の村々の痕跡がたくさんあったりします。昔は物流の基本が川。なので、川沿いは高速道路沿いのようなもので、宿もあれば商店もあり賭博場も神社もありました。このあたりには「玉石信仰」というのがあって、白くて丸い石を神さまに見立てて信仰していたようです。医療機関が発達していなかったエリアでもあり、病気や出産のたびに、不思議な力が宿って出来たと思われる玉石に手を合わせ、その力にあやかっていたのかもしれません。

筏師の道のそばにある玉石を祀る神社跡。荘厳な佇まいに心打たれた。いつまでも美しく残ってほしい

旅の最後は、熊野本宮大社を訪れてフィニッシュ。3日間かなり歩いたので、足もぱんぱんです。湯峯温泉で体を温めて帰宅することにしました。温泉もまた「大地の成り立ちと熊野信仰」を象徴する存在です。

なかでも湯峯温泉は、熊野本宮大社の近くにあり、たくさんの熊野詣をした方々を1000年以上にわたって癒やし続けている聖地中の聖地。江戸時代につくられた温泉番付では「別格扱い」で勧進元として位置づけられています。世界で唯一、入浴できる世界遺産としても知られています。大地の成り立ちから由来する温泉で、ほっこり体を温めて3日間の旅が終わりました。


今回、3日間の熊野ジオツアーを企画する上で全面的にアドバイス頂いた後誠介先生の著書「熊野謎解きめぐり 大地がつくりだした聖地」には、熊野には温泉が湧く場所が400箇所以上ある、ということが記されています。後先生のお話は、以前、みんなの森のサロンで2時間たっぷり伺いました。こちらのアーカイブを見ておくと、かなり理解は深まると思います(そして防災意識も高まる)。動画も本も、熊野旅の予習をしたい人にはかなりオススメ。


南紀熊野ジオパーク、オススメの廻り方

というわけで3日間にわたって訪問した南紀熊野ジオパークなのですが、実は2泊3日かけても、廻れたスポットは全体の1/10にも満たないです。他にも気になるジオサイトがたくさん! なので、もし、じっくり廻りたい方は、以下のポイントを押さえておきましょう。

1,たっぷり時間をとるのがオススメ
→熊野は行くだけでかなりの時間がかかります。「ちょっと日帰りでいってくる」には、かなり無理があるところ。宿をおさえて、できればレンタカーなども手配して、たっぷり・じっくり廻りましょう。少なくとも1泊2日、できれば連泊して、ゆっくりお楽しみ下さい。

2,ジオ・ガイドさんにお願いしよう
→大地の成り立ちや、歴史、その土地の人々との関連は、ふらっと行って案内板を見ただけでは、ちょっとわかりにくいこともあります。かなり面白いポイントなのに素通りする観光客もたくさん見てきました。南紀熊野ジオパークのジオ・ガイドさんは、きちんとした研修も受けているプロのガイド。今回出会ったジオ・ガイドさんは、いずれも人柄もトークも素晴らしく、お支払いする価値のあるお金だと感じました。以下のサイトから申し込むとエリアごとに適切な方を紹介してもらえます。お名前を伝えれば指名もできるっぽいです。


3,足回りはしっかりと

→ジオサイトのなかには車で横付けできるものもありますが、やはりそれなりに山道や、石段や、海沿いのゴロゴロしたところを歩く必要が出てきます。訪れたい場所に応じた足廻りの装備をしておきましょう。僕は今回、地下足袋とトレッキングシューズを併用しました。また、普段からちょっと歩いておいたほうがいいですね。エスカレーターではなくて階段をチョイスする、など。足廻りを鍛えておくと、見に行けるジオサイトは増えてきます。

4,地元食材を食べてみよう
→熊野には、めはり寿司やサンマ寿司、茶がゆに鮎など、地域を感じる食事がいろいろあります。マグロの無人販売所があったり、産直市場があったり。あちこち寄って、色んな食材を試してください。僕は車に調味料と簡単な食事セットを常につんでいて、直売所などで買った食材をカットして醤油かけて楽しんでいます。
新宮市や田辺市にある産直市場「よってって」とかは、地元食材調達には特にオススメ。地元の方がつくったお寿司やお弁当、野菜や果物を味わいながら旅するのは格別です。お魚もけっこうありますよ。

大地の成り立ちと熊野信仰

で、メインのテーマである「大地の成り立ちと熊野信仰」については、いろいろ分かったことがあります。一つは当時の中心地、京都から見たときの位置づけ。観音浄土があるとされる南方にある熊野。浄土に行きたい、来世も幸せでいたいと思う気持ちが熊野信仰を深めていったのだと思います。
そして、訪れてみたら、立ち現れる巨岩や奇岩、壮大な自然風景。これらの存在を神としてとらえ、信仰の対象とするなかで、人々は自然を畏れ、謙虚に生きる道を学んだのかもしれません。実際に旅をして、巨石や滝に触れる中で、あなたもどうぞ、熊野の大地を感じてみて下さい。

石段を登り切って出会える神倉神社のゴトビキ岩。熊野権現が降り立っただけある存在感

長いレポートを最後までご覧頂きありがとうございました。シェア・コメントともに歓迎です。いつかいっしょに熊野めぐりをしたい方は、どうぞ声をかけてください。次の旅のタイミングでお知らせします。今のところ2024年4月23−25日に「南方熊楠」をテーマに開催予定です。

お世話になった皆様、一緒に旅してくれた仲間達、どうもありがとうございました!

この記事、基本的に無料ですが「もっと知りたい」「実際どういうルートで回ったのか?」などという方のために以下、回った場所をGoogleマイMapで有料公開しています。ご自身で回りたい方はどうぞ参考にされてください。カンパ代わりに購入くださるのも、大いにうれしいです。次の旅の肥やしにします。

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