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「思いつく力」と「形にする力」 /ファシリテーション一日一話 23

出張族の楽しみのひとつは、その土地の美味しいご飯や地酒を頂けること。土地の人に案内してもらった小さな店のクオリティの高さに唸ったことは、幾度もある。このたびも山形県の鶴岡市に向かい、庄内エリアの食のクオリティの高さに驚く旅であった。旬のタケノコも、魚介も、山菜も、米や水、地酒に至るまで、その品質が高く敬服した。さすがユネスコ食文化創造都市。

たらふく頂き、ふと帰宅の途となると、家族の顔が思い浮かぶ。自分ばかり美味い飯を食った後ろめたさもあってか、何か美味なる土産を探すのだが、これがなかなか難しい。帰りの空港に手頃なものがあるだろうと思って寄ってみるが、期待したような地元の土産がなく、惜しい気持ちになる出張先も多い。

心強いお土産物屋さん

そんななか、山形には清川屋さんという土地に根ざした土産物屋があり、心強い。およそ他県では見られないような、個性あふれる山形の品々がずらりと並ぶ。店員さんにきくと「この浅漬けの元が意外と好評で、私も家で使ってます。タコとあえても美味です」とか「お好みを伺うと、日本酒だったらこれが近いと思います」「このお菓子はオリジナル商品でだだちゃ豆をつかって美味しくしあげてます」などと具体的に教えてくれて、つい嬉しくなって買ってしまう。

縁あって、この清川屋さんのスタッフ研修をお手伝いすることになった。働く100名近くの皆さんの声をきく機会を得た。お菓子を開発したり、工場で生産したり、パンを焼いたり、県内の土産物を仕入れて売ったり、空港や大型モールの店舗で販売したり、季節によってはサクランボの販売と発送に大忙しだったりと、関わりは様々ながら、話し合うと和気藹々とした一体感のある会社。ただ、たくさんの支店に分かれて働くので、なかなか顔を見てゆっくり話す機会などを持ちにくく、お互いのことを知る時間を持てたらなぁというお話しも頂いた。そこで、ファシリテーションの研修をかねながら、スタッフ同士がおしゃべりできる時間をたっぷりとることにした。部署を超え、役割を超えて皆で「問い」を出し合って話し合う時間は、楽しげであった。
「新商品を開発するなら、どんなのがいい?」「社員旅行にいくならどこに行きたい?」「お客様と会話をはずませるコツは?」「お休みはとりやすい?とりたい」「新しい事業部を立ち上げるとしたら何をする?」「清川屋のファンを増やすために何ができる!?」などといったテーマを出し合って、話し合う。全員交替でファシリテーターや、板書役や、タイムキーパーをつとめ、研鑽した。

社内ラジオという仕組み

お昼時になって、あるスタッフが「一緒にお食事をしていいですか」と声をかけてくださった。前回、たしか3月に訪問したときに「なかなか顔を見て話す時間がないのなら、社員同士のお互いの様子を知るために、社内ラジオみたいなのをやってみては?」と僕が提案したことを、すでに実行に移したよ、という報告であった。はやい!

ある店舗で働くスタッフの苦労話や、今の職場に至るまでの変遷をインタビューした社内限定のラジオは、聞きやすく、上手に編集されていて、その人となりを味わうのに充分な内容であった。次は菓子製造の〇〇さん、その次は通販担当の△△さんなど、とリレーしてゆくらしい。お互いのことをより深く知ることで、お互いのことを思って働きやすくなる。この社内ラジオ、得意そうな若手スタッフに、どん!とお任せしたところ、かなりのクオリティのラジオに仕上がってきたそうだ。力のあるスタッフがいるなぁ。というか、どん!とお任せするほうもすごい。僕はスタッフ間の信頼を感じた。

実のところ、こういう思いつきを言うのは得意なほうだ。あちこちにいっては、好き放題アイデアを振りまいて歩いている。でも、それを形にするのは、また違う力が必要だ。社内ラジオひとつをとっても、企画、調整、インタビュー、収録、編集、音源アップ、周知、リスナーからの反応の分析や改善と、かなりの手間がかかるものだ。こうやって、思いつきでもらったアイデアや提案を、ちゃんと形にできる力を持つ人や会社は、本当に素晴らしい。実行力ある会社は好きだ。というか、僕は、自分が話した思いつきを、ちゃんと形にしてもらえて、うれしかったんだと思う。

私も、思いつきなら話せるんだけどなー、と言う友人の顔が何人か思い浮かぶ。実のところ「思いつく力」と「形にする力」、その両方ともが大切だ。会議や話し合いを通じて、双方に敬意を持って、幸せに交わり合える場をつくれたらいいな。

2024/5/29 庄内空港の待合室にて


後日談


庄内に住む友人と晩ご飯を食べていたら、現地に住まう女性が「清川屋さんとお仕事? だったらいミ・キュイ食べなきゃ!あれがサイコーなのよ。レンジで7秒でとろける……」と、熱くオススメ頂いた。研修中に無理をいって、入手いただき、帰宅して開封してみると、とても上品なチョコレートケーキが。夜遅く迎えてくれた、娘も妻もその美味しさに喜んでくれて、とても、とてもうれしかった。この価格でこのクオリティのものを提供できるのが、本当にすごいと思う。工場部門の方、店舗の方、通販の方、発送担当の方などの顔を思い浮かべながら頂いた。あぁ、あの人が開発したんだろうな、この人が梱包してくれたのかな、と。ありがとうございました。通販でも買えるので、みなさんもぜひご賞味を。正直かなり、オススメです。



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