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怪物だーーーれだ。

是枝裕和監督の映画『怪物』を観てきた。

終盤、エンドロールが流れるまでの10分間くらいだったか、ここまで泣くとは思えなかったくらいに泣いた。126分という尺の間、刻一刻と変化していったこの映画の表情に見事心を動かされたからに他ならない。

購入したパンフレットによると、坂元裕二氏による脚本がこの映画の制作において大きな起点になったそうで、同冊子に原作のクレジットはないようだけれど、坂元氏が原作を担ったと言っても差し支えないのではないだろうか。本当に素晴らしかった。

坂本龍一氏による音楽も、この映画にある種の生命力を与えていたように思う。途中途中で流れる"20220207"は、坂本氏が生前最後に発表したアルバム『12』からの抜粋だが、この映画のために用意された"Monster 1"、"Monster 2"にとどまらず、全ての劇伴がこの映画のために用意されたのではと思えるくらいに映画にはまっていた。

劇中、映画を観る前にぼんやりと想像していた世界とは全く異なる方向の世界に徐々に誘われていくのだけど、序盤のあの何とも言えない感覚が時間と共に少しずつある感情へと変化していったあの感触こそ、『怪物』という映画から得られた尊い副作用だったように思う。

その感情とは何なのか。それを思い起こし、その先を想像し、あわよくばそれと共に生きていく。…そう思い至ると、この映画を1人でも多くの日本人に観て欲しいという気持ちが力強く芽生える。

1人の人間から見たこの世の中や人の姿がもしも怪物に思えたなら、それはその対象物のある一面だけを凝視することに固執し続けているがゆえの錯覚かも知れない。

心だけでも豊かに生きるためには、枠の外へ想像力を膨らませてみる。

自分が出会ってきた怪物も実は怪物ではなかったのかもと、自分もあの時誰かの怪物だったのかもと、そして今も、自分は誰かの怪物なのかも知れないと、思えなくもない。

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