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Aokid"大石田AIR滞在を振り返る。"

5月23日から6月3日かけて山形県は大石田町に滞在。大石田AIR (Artist in residence)にて"井上ひさしぶり"で作品を発表するために参加。上記の写真は最上川を撮影。

作品について

公園が併設される役場に隣接した劇場と図書館、公民館的な機能をあわせ持った市民が活用出来る施設”虹のプラザ”で上演作品の制作と発表を行い、また車で2時間ほど離れた街の川西町フレンドリープラザでも発表するというのが今回の大石田AIR滞在の目的。
上演作品のテーマは大きくは川西町出身の作家”井上ひさし”についてで、新潟からはNEphRiTEカンパニーが参加し、彼らは井上ひさしの死後に発見された戯曲”馬”の創作に取り組み、私は”ひさしと書斎”という川西町フレンドリープラザに鎌倉からそのままの形で移し設置された井上ひさしが実際に使っていた書斎をテーマに取り組みました。

作品の制作はこのもらったテーマよりも先にこれまでの活動として自身がダンサーでありながら自作に他のダンサーに参加してもらって一緒に取り組んだ経験がほとんどなく、避けてきたことでもあったので本題に入る前から自分にとって新しい展開を迎えることになると思っていました。
今回は大石田AIRのコーディネーターでもある大橋武司さんと久保田舞さんという、数年前から個人的には知り合いでありながらももちろん一緒に何か作ったこととかはない2人。ドキドキしながら制作が始まりました。
初日、自分が考えていることを共有し、始めるのに随分緊張したが徐々にその日やることやその時に思いついたことを試していくことに慣れていき、思ったよりも制作は早く進みました。
面白いが難しいと感じていたのは上記にも書いたようにダンサー2人といかにして舞台で踊り合えるかということのもう一方にどうやってこの抽象的なテーマも付き合わせて上演としてクリアできるか、ということでした。
結果的にうまく行き切ったとは思いませんが多少は自分が本に対する考えとダンスというか身体に対する考えの互いに似ている部分が上演の中で現れていったように思います。

作品の中にはまた大石田や川西町、山形県を車で行き記する時の窓から見える景色や滞在先近辺の目や手で触れる近さの地形や環境の両方を振付にし、取り入れていくこと、少しずつ読書を通して知る井上ひさしとの時間そのものを取り込もうとトライしました。
あるいはフレンドリープラザで”井上ひさし”を研究する井上恒さん(偶然にも同じ名前の)から聞いた話や実際にフレンドリープラザにある書斎や図書館で我々の身体や考えが受けるインスピレーション、あるいは2つの劇場の機構や、虹のプラザの社会福祉協議会に展示されてあった利用者による紙で手作りされた鉄道模型のオブジェなどが創作のヒントとして次第に集まっていき、創作のかけらが集まってはノートの上で会議するような制作の形をなしていき、それをまた実際の3人の身体で舞台で行うことで現れる形を定着させていく方向でいったん落ち着きました。
個人的にはやっとダンサーに振付を渡し、それが作品の中の終わりのシーンで一足先に袖幕にはけて横から様子を見守ることを通して見ることがなんとも嬉しい時間となりました。

大石田 AIRの取り組みについて

まず初日に驚いたのが虹のプラザに着き案内してもらうなり、大橋さん久保田さん職員のまりんさんと一緒に役場にチケットを手売りし歩くことに。役場に行くと、各部署の机のかたまりの島ごとに、にやにやしながら言葉を交わしたのち職員の人が買ってくれたり、買わなかったりしながらまた話し、また別の部署へ練り歩いていく。この光景にはほんとに驚いた。役場と劇場が確かに同じ職員たちが働いているとは言え、こうも地続きでコミュニケーション可能なのか、というような印象を受けました。そこで二、三言話されているのもたぶん大事で手売り自体が観客を作り、育てているというようなことを思いました。都会のインフラの中で人気でもないのにSNSなどでの宣伝に頼って、手売りする発想なかったのでこの泥臭さは見習いないと焦る気持ちで思いました。
月に一度劇場近くの温泉を掃除するタイミングで行われる「温泉コンサート」にも地元の人がたくさん入っていて、そこでまた週末に迫った公演の宣伝もしっかりしていきました。
初めて開催することになっていた井上ひさしの出身地である川西町フレンドリープラザではワークショップをしたものの予約に影響は出ていなくて不安だったものの蓋を開けてみれば当日予約をしていなかった人もたくさん来てくれて、最終的には大石田と合わせて両方で160人もの人に見てもらえました。
それだけの功績ではもちろんないけど、ワークショップを行った甲斐があると強く思いました。川西町の方では上演後の質問タイムで当てられた高校生が、ワークショップでやったことと上演でやったことがつながって感じられた、というようなことを言っていてまさに作品を見ることと実際に身体を動かしたりワークショップすることが繋がると思ってやっている部分があるので嬉しかった。
個人的には大石田でも一度ワークショップの機会を作れたら、もう少し市民の方と交流も出来、なおかつ作品への理解やフィードバックをもらえたかもしれないと思いました。

また地域おこし協力隊という枠組で大橋さんと久保田さんが働いているということでほかの分野の協力隊の方とも話す機会があり、そのことも重要なことのように思いました。たとえば僕が泊めてもらった民泊として今後貸し出される場所では、その宿主で協力隊の末石さんから街の景色について教えてもらうことが出来たり、やられている仕事の内容についての話を聞いたりもできました。時には末石さんの趣味だという中国茶をひたすらいただきながら。

ダンス制作のレジデンスではありましたが、協力隊の人や、虹のプラザや川西町フレンドリープラザの劇場の人や図書館の人、あるいは温泉コンサートというイベントの作られ方を近くで覗くことなどを通して、滞在が多様な経験を作る時間になっていきました。


観光


蕎麦屋を中心に食事は連れていってもらいました。大きなスーパーではそこまで物価の違いは感じられなかったけど山形産の鶏肉は安かったかも。おすすめされた蕎麦屋のクオリティがどこも高く、個性と上品さを持った店内装飾でまた味は素晴らしく、驚きました。
温泉にも連れていってもらい絶景だったり、ただのんびり出来る環境が整っていたり、どこもそれなりに静かであることも身体や精神の癒しでありました。銀山温泉も素晴らしかったです。温泉街の街並みでは二百年ほど時間を巻き戻すような感じがあり、さらに山に足を踏み入れるとより前の時代へ遡っていくように感じられました。
大石田の街は高低差のある地形の中で、厳しい冬を迎えるからこそ春を大事にする、という協力隊の末石さんから聞いた話のとおり、それぞれ家周りの庭的な展開が小さくも創意工夫にとんでいて目がそれを追うことに楽しさを覚えました。また小中学校などの意匠にも時代を感じさせるその時の流行りなどが現れているとのことで、それもまた見ていて時代を感じさせる強さがありました。
最上川は広く大きく流れていて、それを緑の山脈が囲っていてある日なんかは、白い雲が青空の中でさらに溢れるようにあってその山の緑を凌駕するほ
ど圧倒的に白く広範囲に覆っている景色がすごかったです。

その他のこと

川西町フレンドリープラザでのワークショップは40名以上の人が2回のワークショップに分けて参加してくれました。
高校のダンス部の子も多く、へんてこ体操に対しても溢れるパワーを炸裂させてくれたし、それにも負けない工夫や取り組みが市民の様々な世代からも感じられ、それが同じ舞台の上で展開し相互影響し合うことが面白く素晴らしかったです。
またフレンドリープラザのスタッフの方がこぞって体を使って参加し表現してくれた姿はとても熱く、館長はワークに関して独自の強めの工夫が現れているのも良かったですし、何よりスタッフの方がそういった姿勢を見せてくれるのはワークショップする側としてはとても嬉しいことでした。

井上ひさしや彼の書斎について色々教えてくれた図書館、書斎を担当する井上恒さん。この研究者である井上恒さん自体の考えなどにも触れることが出来たのも大きく、なんとか卓越ながらも”井上ひさし初心者”でもちょっとはダンスで応答したいという風に考えていたので公演を終えて、ひさしさんからもコメントをもらえて安心しました。

新潟のNEphRiTEカンパニー。彼らは観客として見に来ていた温泉コンサートの最中でも公演のあとでも率先してロビーですぐに踊り出して観客に参加の仕方を軽やかに示すみたいな姿勢で、とてもダンサーとして素晴らしい態度だと感銘を受けました。このようなダンサーの姿勢が増えると踊りが未来に広がっていくように思います。
彼らが営む新潟の宿泊できる劇場スロープハウスにもぜひ行ってみたいと思います。

井上ひさしに関しては「ひょっこりひょうたん島」と「子どもに伝える日本国憲法」の本の人のイメージくらいしか持っていない中、小説などを読むところから始まっていきました。最初はそれでもあんまり接点を見つけられませんでした。ある時、子供達に向けてしゃべっている番組の録画を見て、彼が人に対してどのように接するのか興味深く思いました。そこから段々と本を通して興味も進んで少しずつ詳細が見えてきて、文章が簡単に書かれているかのようだけど引き出されているものが圧倒的に違う、言葉と言葉が互いに血を通わせて呼び合うような動物的な駆動を感じる、そんな感想などを今は持ちました。
言葉への関心というところから面白さが次第に増して感じられるようになっていっています、もう少し井上ひさしさんを楽しんでみようと思います。
個人的な話ですが昨年の制作が秋田で「あときとた」だった。今回は井上で「い」で始まる。
そして木への関心があって、本、体となっていく。
かなり大きい意味でのその連続を楽しんで接続させ続けようと思います。
ありがとうございました。

2024年6月29日 Aokid


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