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STAN.デザインのひみつ(プロダクトデザイン編)

そもそもの始まり編からの続きです。


TENT治田 炊飯ジャーや電動ポット、ホットプレートなどの製品って、僕たちが幼い頃から親しんできたものですよね。

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そういうものに対して「ハイテクで最先端の煌びやかさ」みたいなのは、正直、個人的には、あまり必要ないかなと思うんです。


種市さん たしかに、僕もそう思います。


TENT治田 たとえばフライパンとか鉄鍋、木ベラとかの「道具」らしいものって、キッチンにそのまま出しておいても嫌じゃないじゃないですか。絵になるというか。

そういう道具らしい存在感のものができないかなと思ったのが、着想のきっかけではあります。


TENT青木 その頃「道具らしさってなんだろう」ってTENTみんなで話し合いまして、ひとまずメインの機能が一目でわかること=道具らしい佇まいなんじゃないかっていう話になりました。

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TENT青木 そこから各自でアイデアを展開した結果、「加熱する形」「保温する形」「配膳する形」という方向性が浮かび上がりました。

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TENT治田 最終的な案として選ばれたのが「配膳する形」としての、このUTSUWA(うつわ)案ですね。食卓に置かれた時の佇まいから着想した形です。

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TENT治田 土鍋や茶碗って底面に釉薬がない素地の場所がありますよね。それに倣って、接地面の素材感が切り替わっていることで置くことに配慮した形にできるんじゃないかと思いまして。

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種市さん だから色が切り替わっているんですね。ちなみに、上に広がっている形状については、何かあるんですか?


TENT治田 炊飯ジャーっていうと、中に何かを封入したような丸っこい形状が当たり前とされていたんですけど、今回は「うつわ」であることを優先したかったので、お茶碗や食器にもあるような上部に向かって広がる形を採用しています。

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TENT治田 実際、下部で加熱し上部で操作パネルや料理へアクセスするという行為の流れがあるので、この上部に向かって広がる形状は感覚的にも納得がいくなあと思っています。


TENT青木 ちなみに、今回、シリーズ全体を通して、一周回って画期的だなと思う箇所があるんですけど、ここについても質問していいですか?


TENT治田 一周回ってですか。どこだろう?どうぞ。


TENT青木 「デザイナーがデザインしたスタイリッシュな家電」とかっていうと、操作パネルの印刷文字を英語にしたり、小さくしたりしがちですよね。


堀本さん たしかにそういった家電は多いかもしれないです。ZUTTOシリーズでも、ボタンをアイコンで表記していました。


TENT青木 一方で今回のSTAN.シリーズは、象印さんの通常の製品と同じく大きな文字で、日本語表記が入っている。ここはどんな意図があったのかなと。

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TENT治田 そうですね。今回のシリーズは、そういった「いわゆるスタイリッシュさ」を狙ったものでは無くって。家族みんなで親しみを持って使えるものというゴールイメージがありました。

それに加えてやはり、お爺さんお婆さんも含んだ3世代家族でも安心して使えることも理想としてはありました。

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TENT治田 そういった幅広い世代が使う時には、やはり長い歴史で培われた象印さんの家電のルールに従った、文字の大きさ、色などは準拠すべきと考えたんです。


種市さん ふむふむ


TENT治田 ルールに従いつつも、極力色使いをシンプルにして、文字のレイアウトについても微細な調整を行なっています。

その上で、実は工夫はそれだけじゃないんです。


TENT青木 ふむ、さらなる工夫が。


TENT治田 インテリアと馴染むプロダクトを成立させるために、実は形状で工夫した点があります。

操作ボタンや機能表記を上面に集約していて、その面を周辺より一段へこませています。こうすることで、離れて見た時には操作部が目に入りづらいようになっています。

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TENT青木 なるほど。離れて見た時、つまりインテリアの一部として見える時には極力シンプルになり、近づいた時、つまり使用するときには、これまで通りの「安心の家電」として使える。


堀本さん 使う時以外は静かな佇まいにしようということで、ボタン表記が光で浮き上がるタッチパネルなどの方法も開発途中では候補に上がりましたが、このシリーズはコストの面も重要でしたし、「使いやすさ」を意識して現在の仕様に落ち着きました。


TENT治田 はい、極力スタンダードな構成の中で、使う時と使わない時との二面性を持ったプロダクトができたと自負しています。


種市さん なるほど、そういうところも考えて、この形なんですね。

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TENT青木 そういえば、表面の質感についてはどうですか?底面には、当初はコルクなど全く別の素材を使うことを想定していましたね。


TENT治田 そうですね。素材自体も柔らかくすることで、より接地面に優しくするという意図もありました。


堀本さん ここの素材については、いろいろ検討しましたね。TENTさんが以前デザインされたNuAns NEOのように、本物のコルクを一体成型できないかだとか。印刷や表面の凹凸でできることはないか、などなど。

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NuAns NEOのコルクカバー
本物のコルクが樹脂と一体成型されている


堀本さん ですが、やはり今回は高熱になる器具ですので、そのあたりの条件は厳しかったですね。


TENT青木 今回の開発に関わる中で、電気調理器具は加熱に対する条件が本当に厳しいのだとわかりました。


TENT治田 最終的には樹脂そのものの素材を生かして、何ができるかというところに行き着きましたね。


堀本さん 黒い部分のシボ(表面の凸凹)と、茶色い部分のシボ、色合いを、それぞれ本当にいくつも検討しました。

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TENT青木 ということで、当初の予定と異なる素材にはなったんですけど、決して「やりたかった事ができなかった」ということではないですよね。


TENT治田 そうですね。今回は自分たちがターゲットユーザーということで進めているので、やっぱり自分のお金で買って、自分の家で長期に使うことを考えた上でベストを考えたい。

最終的な製品を見ても、安心して使える素材で、非常に満足のいく仕上がりになっていると思います。

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堀本さん 実はこういうところ、TENTさんとお仕事してて「譲るところは簡単に譲る人たちだなあ」ってびっくりしてたんですよ。


TENT治田 え?そうなんですか?


堀本さん デザイナーって、良いところでもあり悪いところでもあると思うんですけど、こだわりが強いことが多いです。

それに比べると、TENTさんは設計の段階での変更にも「そうですか」と素直に応じることが多くて、最初は正直不安な時もありましたよ。


TENT青木 ええー!本当ですか?気づかなかった。


堀本さん いや、本当ですよ。

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TENT治田 なるほど、それはすみません。。


堀本さん でもね、やっていくうちにその不安が無くなったわけなんですけど、例を1つお話していいですか?


TENT青木 はい、ぜひ。





譲ることと研ぎ澄ますこと


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堀本さん
 ホットプレートで、もう金型を削り始める直前だっていう段階でしたよね。社内の設計担当者から急遽大きな変更要望が入りました。

具体的に言うと、中の鉄板を取り外すために、本体ガードの形状を大きく変えなければいけないというところ。

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TENT治田 ありましたねー!そうです。当初はこの図のように、全体が均等の隙間があったんです。

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TENT治田 ここにミトンをつけた手でも使えるように、一部を広げなければいけないということで、このように変更したいという要望がありました。

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TENT青木 一部をちょっと、ムニっと変形させる案ですね。


堀本さん 我々としても、もちろん本意ではなかったのでいろいろ考えましたが、良いアイデアが浮かばず「TENTさんもNG出すだろうな」と思いながら状況をお伝えしたら

「なるほど、了解しました。ただ、いくつか変更案を考える時間をください」と回答があって。


TENT青木 治田さん、その電話をうけて、相当頭かかえてましたよね。


TENT治田 今日中に修正案を回答しなければいけない!という状況だったので、かなり困惑しました。

それでも最終的に、こんな風に、一部ではなく全体を広げるという案を思いついて。

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堀本さん みんなが「一部分を広げる前提で、形をどう整えたらいいか」を悩んでいるときに「全体を広げればいい」という回答を頂いて、あの時はなるほど!と感動しました。僕らにはない発想で。


TENT青木 あの時は僕もびっくりしました。後から見ればなんてことないんですけど、まさにコロンブスの卵というか。


TENT治田 制約や変更があったら、それをむしろプラスになる方向に修正したいと思っています。

1stのスケッチが必ずしも究極のものだとは思っていなくて。量産化のプロセスの中で様々な変更があるのは当たり前。

そういう時こそ大事なコアの部分はどこなのかを何度も確認して、そこを研ぎ澄ますことが大事なのではないかなと。

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堀本さん 他にいくつもこういうやりとりの例はあるんですけど、最初は「本当に簡単に譲るなあ、大丈夫かな」と思っていた不安も、

何度もやりとりを繰り返すうちに「譲るところと譲れないところがクリアになってるんだなあ」と思ったのと「 色んなアイデアを出していただけるはず」という期待感が出て、かなりスムーズにできるようになりましたね。

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TENT青木 ちなみに本体にちょこんと配置されている象さんのロゴについてですけど、通常の象印さんの製品では、こういった使い方はされていませんよね。


堀本さん 通常は、このマークに加えてZOJIRUSHIという英語表記を含むものを採用しています。ただ、弊社のステンレスタンブラーでは、すでに象さんマークだけの製品も存在していまして。

今回は「うつわ」がテーマなので、ステンレスタンブラーに近い存在感であるべきということで、象さんだけの表記に特別にOKが出ました。

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TENT治田 僕としても、やはり象さんって可愛いじゃないですか。今回の製品は小さな子供も含めた家族全員で親しめるようなものにしたいというゴールイメージがありましたから。

象さんのマークがここに入る事で、愛嬌というか、魅力が増すので、とても気に入っています。


TENT青木 まだまだ話は尽きないのですが、ハードのデザインに関してはこれくらいで。次はネーミングやロゴ、シリーズの世界観作りに関してお話していきましょう。 種市さん、お願いします。


種市さん きましたね。了解です。

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グラフィックデザイン編へ続く)




象印マホービン株式会社さんの粋な計らいにより、TENTのストアでSTAN.シリーズが購入できるようになりました!



STAN.シリーズは全国様々なお店でお取り扱いがありますが、デザイナー自ら梱包発送するのは、ここTENTのストアだけ!

つまらないものではございますが、直筆サイン入りお礼状も同梱して発送させていただきます。

よろしくお願いします!

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