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STAN.デザインのひみつ(グラフィックデザイン編)

TENT青木 前回まではプロダクトデザインをメインにお話してきましたが、ここからはロゴやネーミング、グラフィック関連のお話にはいりたいと思います。

種市さん、お願いします。


種市さん 了解です。

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TENT青木
 まずは種市さんが登場する以前の話からになりますが、象印さんからの最初の依頼の段階ではシリーズ名を提案するという話ではなかったように記憶していますが、そのあたりから、堀本さんいかがでしょう?

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堀本さん そこからお話しますか。そうですね。すでに紹介させていただいた通り、弊社では2004年に発売したZUTTOというシリーズがありました。

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堀本さん やはりZUTTOシリーズは、現在それなりの年齢になった社員達にとって思い入れのある製品群でしたから。それらと関連するネーミングをつけたいという人が、かなりいました。

そういうわけで、社内公募したネーミング案の Zütto!(ズーット!)など、以前のシリーズを踏襲したような名称のロゴデザインのみをお願いさせていただく予定でした。



TENT青木 そのロゴデザイン依頼を受けて、僕たちは実は、ちょっと違和感を持ってしまったんですね。

ZUTTOというシリーズ名称自体は、その言葉の持つ「ずっと愛用していただける」という意味合いも含めて、とても素敵だと思っていました。
だからこそそれを少しだけいじった名称は避けるべきではないかとも思ったんです。

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TENT治田 さらに、今回に関しては当時とは状況が変わったのではないかとも思いました。

ちょうど2018年には、象印さんが100周年ということで新しいスローガンを発表されていたタイミングだったんです。そのスローガンが「ずっと、もっと、象印らしく」というものでした。

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今回のシリーズはこれを受けての101年目の第1歩と位置付けられるものだったこともあり、「ずっと、もっと、象印らしく→ずっと。」だと、何がしたいのかわからなくなってしまう。

やはり、「ずっと、もっと、象印らしく→◯◯していきます!」の◯◯に当てはまる言葉のほうが、101年目の第一歩にはふさわしいんじゃないかという話も上がりました。

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TENT青木 そこでTENTから種市さんへ声がけさせていただくにあたり、ロゴデザインだけでなく別のネーミング案についても検討したいと無理を言いまして。


種市さん っていう話を2018年3月に聞いたんですよ。

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種市さん 僕はTENTさんのことは知っていたし、DRAW A LINE とかidontknow.tokyoの製品とかめちゃめちゃ使ってたんで、これは嬉しいなと思って、気合をいれて沢山のネーミング案をTENTさんへ持って行きました。

そしたらその場でTENTさんとネーミングのブレインストーミングがはじまりました。

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TENT青木 散々案を出した上で最終的には、もともと種市さんから提案いただいたSTAND(スタンド)っていう案がすごく良いねと盛り上がったんですけど


種市さん
 最初にプロダクトデザインを見させていただいた時に「象の足みたい」「地に足をついている」という印象が強くて。「立つ」という意味でSTANDは良いのではないかと提案させていただきました。


TENT青木
 その案を聞いた時に、僕の頭の中に出てくるのは当然、漫画「ジョジョの奇妙な冒険」の「スタンド能力」という言葉だったんです。

※「スタンド」とは
スタンドは、荒木飛呂彦の漫画作品『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズに登場する架空の超能力。Part3『スターダストクルセイダース』で初登場し、以降のシリーズでも設定が引き継がれている。
Wikipediaより

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TENT青木 その漫画の中で「スタンド」という言葉の由来として、スタンドバイミー = そばに立つという意味を挙げていたことを思い出して。

 すぐに脳内でBen E.Kingの「Stand By Me」が再生されて。これは、何かしっくりくるぞ!と。


種市さん さらに、待機・準備などの意味での「スタンバイ」もいいよねって話してましたよね。


TENT青木 そうですね。「いつでも暮らしのそばにいて”スタンバイ”し続けてくれる家電って、良くないですか!?」と大興奮でお話したことを覚えています。

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TENT治田 僕もプロダクトデザインを行う上で、高性能を主張するというよりは、インテリアに馴染む、暮らしに馴染むことを目指していたので側に立つ、寄り添うなどの言葉の方が似合うとは思いました。

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種市さん  ここで名称のアイデアだけでなく、それを展開したアイデアまで広がっていきました。

まず「暮らしにスタンバイ」する家電シリーズであること。さらに、ちょうど製品の同梱物にレシピブックが含まれることがわかっていたので、ホットプレートで作れる料理のレシピも、単なる料理ではなくたとえば「子供とスタンバイ」する料理みたいに、ストーリーが描ける。

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TENT青木 ここが種市さんすごいなと思ったんところなんですけど、僕がイメージするアートディレクターというお仕事って、もっと派手なもの、たとえばWebだったり広告キャンペーンだったり、製品とは別の場所でいろいろ仕掛けていくイメージがあったんです。(※ 青木個人のイメージです)

一方で、レシピブックってこれまでは、どちらかというと製品についてくるオマケのように捉えられがちなものだったと思うんです。 (※ 青木個人のイメージです)。

まさかそれを、製品を使う人に世界観やストーリーを伝える上でとても重要なものと位置付けるとは想像してなくて。

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種市さん 僕ももちろん、青木さんがイメージする「製品とは別の領域」のお仕事もしていますけど、今回のSTAN.については、やっぱり製品を実際に使ってくれる人が手にするものにこそ、最も力を注ぐべきだと思ったんです。

長く愛用される道具ってそういうことだと思うので。

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TENT治田 そうして「STANDBY」という名称を軸に、どんどん盛り上がって
・シリーズの新しい名称提案
・ブランドコンセプトムービー(音楽付き)
・ポスター展開イメージ
・レシピブック
などなど、モリモリの形でプレゼンテーションを作りこみましたね。


TENT青木 というわけで、依頼されたネーミングのロゴデザインを納品するタイミングだったのに、全く別案のプレゼンテーションをがっつり用意させていただいたわけなんですけど、、、その時は堀本さん、実際のところ、いかがでしたか?

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(提案資料のごくごく、一部)



堀本さん 僕は事前に青木さんから「責任を持って代案も提案させていただきたい」とメールいただいていましたから、腹は括っていたんですけど

まさか依頼したロゴデザインの内容よりも、それ以外の代案がこんなに作り込んだ形で提案されるとは思っていなくて「こう来るか!?」と驚きました。

なによりプレゼンテーションの場に居合わせた他の社内のメンバーには事前情報なしで聞かせてしまって…。



種市さん
 渾身のプレゼンテーションをさせていただいた後、数分間「ポカーン」という間がありました。あれは今でも忘れられません。

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TENT治田 そもそもロゴデザインの依頼でしたからね。依頼したものと違う、という、まっとうな反応だったと思います。

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堀本さん ただ、プレゼンテーションのあと数分経ってから、ちょうどターゲット世代にあたるうちの若手の人間から「スーッと心に入ってきました」「納得できました」とポジティブな意見が次々と上がって。

これでいきたい!という意思が、あそこで定まりました。

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堀本さん ところがですね。それから数日後のことです。

残念ながら、提案いただいたSTANDBYとSTANDという名称について、商標などの問題でどちらもNGであることが発覚して。


TENT青木 それぞれ弊社でも社内でできるレベルで調査はかけた上での提案だったんですけど、それだと足りなかったわけです。力不足で本当に申し訳なかったです。

そこで、代案のブレインストーミングがすぐに行われた。


堀本さん 辞書を持ち寄って、近い言葉を調べて。STANCEはどうか、いや、ちょっと変えてSTANSという造語はどうか、などなど、みんなでまた案を出し合いましたね。


種市さん 僕の方では電話越しで遠隔で、すぐに代案をラフなロゴデザインに落とし込んで、リアルタイムで様々な案の検討が行われました。


堀本さん そうして出てきたのが、スタンバイとスタンダードとスタンスの3つの意味を含んだSTAN.(スタン)という言葉。

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種市さん スタンバイは、ユーザーさんへ寄り添うという意味。スタンダードは、製品そのものの歴史と安心感。そしてスタンスは企業としての姿勢。

それぞれに言うべきことがあることから、この案にまとまった時は、すごく納得感がありました。

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堀本さん ちなみに、レシピブックのイラストについて、お伺いしたいんですけど、そもそもどうしてイラストを使おうと思ったのかや、小池さんへお願いするきっかけなど、聞かせてもらえますか?

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種市さん はい、では次は小池さんのことをお話しますね。




3段ロケットのように


種市さん レシピブックって通常は料理写真とレシピが掲載されているものになるんですけど、今回のSTAN.に関しては、それだけでは足りないような気がしたんです。


TENT青木 足りないと言いますと


種市さん STAN.シリーズに関しては「お父さんやお母さんだけでなく、お子さんを含む家族みんなで親しみが持てる道具」というキーワードを、すでにTENTさんから頂いていたました。

であれば、家族みんなで読みたくなるような絵本のような佇まいを持ったレシピブックが作れたら最高だなと思いまして。

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堀本さん なるほど、そこからイラストを小池さんへ依頼する話になるわけですね。


種市さん はい。料理の写真とレシピだけでは表現できない、雰囲気であったり、暖かさであったりを表現できるイラストを描ける方は誰かいないかな、、、

と考えたところ、僕の大学時代の後輩の小池ふみさんのことを思い出し、声がけさせていただきました。



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ー2019年1月31日、表参道で、STAN.シリーズの発表会が開催されました。この会場で小池さんへインタビューすることができたので、お話を伺っていきたいと思います。

TENT青木 2019年2月11日まで表参道で開催している期間限定のコンセプトショップSTAN.TABLEでは、小池さんのイラスト原画が展示されているんですけど、

今日はその会場で、原画の前でインタビューさせていただけるということで。最高のロケーションですね。よろしくお願いします。

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小池さん こんにちは、よろしくお願いします。


TENT治田
 僕たちTENTは、今思えば小池さんのイラスト自体は様々な場所で見ていたとは思うんですけど、すみません、当時は小池さんのことを存じ上げていなくて。

種市さんから「こんな人がいて、今回のシリーズに絶対に合うから、イラストをお願いしてみましょうよ」って提案いただきました。


種市さん 小池さんがこれまでに書かれたイラストをTENTさんと象印さんにも共有したところ「ぜひお願いします」と快く回答をいただくことができ、まずはホットプレートのレシピブックのイラストから依頼させていただきました。

まずは中目黒のTENTさんの事務所に集まって、今回のコンセプトやプロダクトデザインなんかを共有したと思うんですけど、どう思いました?

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小池さん まさに自分もターゲットの世代だし、子供も育てていて。しかもその時、ちょうど炊飯ジャーを探していたタイミングだったんです。だから、スケッチを見させていただいた瞬間に「あ、これ欲しい!」って思えました。


種市さん レシピブック用のストーリーの文章がすでにできていたので、小池さんには「文章から思い浮かぶシチュエーションをイメージして描いてください」とお話して。


TENT青木 具体的に「これを描いて」などの指示ではなかったんですね。


種市さん はい。小池さんって、暮らしやストーリーが見えるちょっと抽象的というかアイコンっぽい絵を描くのが得意な人だと思っていたので。

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小池さん 今回、プロダクトデザイナーであるTENTさんと直接お会いしていたので、最初は「自分が考えた形を、変なふうに描かれたら嫌だろうなあ」と思って緊張してたんです。


TENT治田 え!自覚が全くなかったです。こっちも緊張していたから。でも確かに、プロダクトデザイナーとイラストレーターが直に会ってお仕事する機会って、あんまり多くないかもしれないですね。

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小池さん でも、種市さんが「製品が持っている雰囲気とか時間を伝えたいイラストなので、製品をズバリ説明的に描く必要はないです」って言ってくれたんで、リラックスして描けたと思います。


種市さん 小池さんのイラストが上がった時、僕もTENTさんも象印の皆さんも「これは良い!」ってすごく盛り上がりました。ほぼ一発で、本当に最適なイラストを仕上げていただけました。


TENT治田 このイラストができた時、実は僕はすごく感動しました。プロダクトデザインから始まって、そこに最適と思えるネーミングとグラフィックデザインがハマって。

さらにこのイラストができたことで、3段ロケットと言いますか。そういった、全てが組み合わさって、突き抜けたものができたなあと。

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小池さん やっぱり大きな企業さんのお仕事で、関わる方の人数も多い場合って、最初に「ズバリ説明的に描く必要はない」と言われても、提出後に何度も何度もやり直しが入ってしまうみたいなことってあると思うんです。

でも、今回のSTAN.のイラストについては、わりとスムーズに楽しくできて。感覚的に近い部分が多かったのかなあと思いました。

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TENT青木 これからSTAN.を使う人に向けて、何かメッセージはありますか?


小池さん 製品が素敵なので、まずはそれを使う時間を楽しんで欲しいです。

そして、何かそういう人たちの時間に、共感するようなものを、このイラストからも感じとってもらえたら、私的には幸せかなって思います。

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ー発表会場では、僕たちTENTに加えて、種市さん、小池さんからのプレゼンテーションも行われました。

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TENT青木 さて、そんなわけでレシピブック用に描かれた小池ふみさんのイラストですが、その後、評判が評判を呼び、様々なものに展開されています。

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種市さん そうですね。あのイラストが、あまりにもシリーズのコンセプトを体現できているので、カタログやWEBなどでも多用させていただく流れになりました。

さらに店頭什器のために、小池さんのイラストが追加で書き下ろしされました。

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TENT青木 ネーミングのお話といい、このイラストの話といい、依頼とは異なる新たな提案を無理を言ってさせていただいた部分もあったと思うんですけど、それを綺麗に受け止める象印さんの懐の深さ柔軟さというか、そのあたりが本当にすごいと思いました。


堀本さん 弊社の通常の業務からすると、かなりイレギュラーなことばかりのプロジェクトでしたけど。

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堀本さん 治田さんも「3段ロケット」と喩えてられたように、製品だけではなく、広報や販促含む、コミュニケーション全般が1つにまとまった形に仕上げることができた良いプロジェクトだと、僕も実感してます。ただ、あとはこれをお客さんにどう伝えるかですね。


TENT青木 たしかに、そこはこれからですね。 僕たちが力になれるなら、ぜひ引き続きよろしくお願いします!

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TENT青木 まだまだお話は尽きないんですけど、最後にSTAN.を買っていただいた方、あるいはこれから買おうかと思っている方へ、皆さんからメッセージをお願いできますか。


種市さん 僕はホットプレートは絶対に買います。2個買う予定です。それくらい、関わる自分たちにとっても、本当に欲しいと思える製品を作ることができたと思っています。

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種市さん それで、スタンダードで安心できるものって、僕は同世代の結婚とか出産のお祝いにも良いなあ!と思っています。贈りものとしてもお勧めしたいです。


TENT青木 治田さんは、いかがですか。


TENT治田 90年代以降ですね、無印良品さんで家電が出て。00年代にデザイン家電ブームというものがあって。それがひと段落して、様々な選択肢が出てきているのが現在だと思います。

そんな中で、新しい特別な機能があるわけではない「ふつうの白物家電」を、デザインが牽引する形で出していくって言うのは、やりがいがあるものの、とても難しくもあり、何度も「これで本当に良いのか?」と自問自答する日々が続きました。

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TENT治田 でもカタログの撮影立会いを行ったときに、キッチンとの馴染みがすごく良くて。普段使いできる良い落としどころのものができたなと。「ああ、これがやりたかったんだ」と思えた瞬間でした。

ですから、皆さんの家でも奥にしまわずに、普段使いの道具として安心してガンガン使ってもらえると嬉しいです。

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TENT青木 なるほど。今の治田さんの話を聞いて、今更ながら気づいた事がありました。スペック的に特殊なことをしているわけではない、デザインとしても、見たこともない曲面や素材や加工方法を採用したというわけでもない。

そんなSTAN.が、一体何を目指していたのかと言うと、実は「安心して使えること」だったんですね。

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TENT青木 象印さんの101年の歴史に、馴染みの良いシンプルな形状、色や質感、ボタンの日本語表記。象さんのマークやレシピブックのイラスト。

これらみんな、家族みんなで安心して使ってもらえることを目標にしていたんだなあと、今更ながら思いました。


堀本さん それで言うと、開発途中にも、ユーザーさんを呼んでご意見聞いたりしていますし。決してデザイナーの唯我独尊でできたものでは無いんです。

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堀本さん 安全性であるとか使い勝手であるとかも、通常の象印製品と同様、厳しい条件をクリアしていますから。まずは使っていただいて体感していただけると、本当に嬉しいですね。


TENT青木 それでは、話もまとまってきましたのでこのあたりで。
本日はありがとうございました。



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ホワイト編に続く)



象印マホービン株式会社さんの粋な計らいにより、TENTのストアでSTAN.シリーズが購入できるようになりました!



STAN.シリーズは全国様々なお店でお取り扱いがありますが、つまらないものではございますが、デザイナー自ら梱包発送するのは、ここTENTのストアだけ!

つまらないものではございますが、直筆サイン入りお礼状も同梱して発送させていただきます。

よろしくお願いします!

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