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果てしない花粉症との闘い

「鼻の粘膜を焼くと花粉症に効く。騙されたと思ってやってみた方が良い。」

僕の重度の花粉症を見かねた同僚からのアドバイスもあり、昨夏、自宅近くの耳鼻科で「鼻粘膜焼灼術」を受けた。
鼻の粘膜を焼く…聞くからに痛そうな感じがして、そういう手術があることは知っていたが、注射を打つだけでも少しブルーになる僕にとって、「手術」なんてもってのほかだと思っていた。そして、もし効き目がなかったら目も当てられない。ずっと受けるつもりがなかったが、一日の痛みや苦しみが快適な春に変わるならと花粉症のない世界を想い、果敢にも「手術」に挑戦することにした。

そういえば、加入していた医療保険は手術対応だった。と喜び勇んで保険会社に電話をするとどうやらこの手術は保険対象外らしい。つくづく保険商品というのは保険会社の都合の良いようにできているらしい…

指定された日に耳鼻科に向かう。
診察室に案内され、麻酔の説明を受ける。
まずは鼻の中に麻酔液を染み込ませた綿を入れる。この綿がめちゃくちゃ長い(多い)。絶句している僕をよそに、耳鼻科の先生がおおよそ、入るはずがないと思っていたその綿をピンセットで無表情のまま、半ば無理やり僕の小さい鼻の穴に詰め込んでいく。
「先生、あなたは血も涙もないのですか…」
もうこの時点で後悔している。
苦しさで嗚咽にも似た声が自分の口から出てくる。目から涙が出る。それでも先生の手は休まることなく、あんなに長かった綿が鼻の中に収まっていく。
それから麻酔が効くまで待合室で待つように指示を受ける。
待合室でも苦行は続く。
麻酔液が鼻の穴を通って口の中に落ちる。
「あぁ、鼻の穴はやっぱり口と繋がっているんだな。」なんて、人間の身体について実感しながらも、麻酔液を飲み込んでしまったことにも不安を覚え、「これ、大丈夫なんですか?」
声にならない声で、受付のお姉さんに助けを求める。どうやら大丈夫らしい。そして麻酔が効いてくる。麻酔液で口の中までも感覚がなくなる。
この気持ち悪さったらないが、麻酔が効かないで鼻の粘膜を焼くのはとてつもない恐怖なので、少し安堵する。


20分ほどだろうか。再び、診察室に呼ばれ、綿を取り除いたら、いよいよ手術開始である。
先生が私の鼻にレーザーを入れる。
痛みはない…が、肉の焼けるにおいがする。これは焼肉屋さんのにおいだ。自分の鼻の粘膜の焼けるにおいに食欲をおぼえる僕は多分サイコパスなんだろう。

でも当分焼肉は食べたくないな…などと考えているうちに、手術は終了した。

手術費用は保険適用で1万円程度。
これで、晴々とした春を迎えられるなら安いものである。

……………
そして迎えた花粉症シーズン。
今年の花粉の飛散量は報道によると昨年の2.7倍らしい。
この期に及んで、まだスギを植樹し続けている人間がいるのか…それとも今年は風が強くて飛散量が多いのか…昨年までの僕なら絶望感に苛まれていただろう。
でも今年は大丈夫。最強の鼻を手に入れたのだから…

そう思っていた。

確かに鼻水の量は例年に比べて少ない。効果はしっかりとあった…でもこれまで気にしていなかった目の痒みと喉のイガイガが酷く感じる。
盲点だった。鼻の粘膜を焼いたところで、目と喉の対策にはならない。むしろ鼻水が緩和したので、目と喉がいやに気になる。
そして、鼻水も例年よりは間違いなく改善されたが、完全に良くなったとは言い難く、しっかりと花粉症と認識されるくらいの鼻水の量は維持されている。

結局、花粉症とはこれからもずっと付き合っていくことになるのだろう。

誰かこの国のスギの木を一本残らず切り倒してください。

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