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「太宰治へ」(八)連載小説

 自分はこんな事書くために死ぬのではないです。しかし、書いてしまうのはこんな事を書く機会がなさすぎたせいでもあります。今から自分は死にます。書かなければならないことがあります。
 中学二年の夏の頃のことです。ある出会いをしました。あの人にあったのです。あの人の文学で、おびえながらのぞいた世界はまさに、新世界でした。

 初めてその人の小説に触れたのは、友人からのすすめでありました。面白い本であるとは言われませんでした。たしか、読書感想文の題材にしたらよいのではと言われただけです。おおよそ二週間後に本屋に行って、ふと気づいて買いました。価格は約四百円でありました。その四百円は、自分の人生のこの変わり様を考えると安すぎたかもしれません。
 それからの事はおそらく、私はだらだら、梅雨の曇天のように、書くでしょう。ひょっとしたら、自分はまだ死にたくないのでしょうか。いいえ。それは、ない!
 私がこの小説を書くにおいて、これは遺書とも言えるでしょう。また、この小説の主人公に名前などない。題は、新世界。

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