見出し画像

宮沢賢治を読み返す季節

昨年のこの時期を思い返す。

還暦を機に大人の休日倶楽部に入会し、目的だった年三回発行される大人の休日倶楽部パスを購入した。

JRの大人の休日倶楽部入会する。そして、フリーエリアで乗り降り自由のおトクなこのパスを使って旅行に行く。最低でも年一回、出来たら三回全部購入して東北エリアを制覇し、その後北海道も新幹線で行く。それが今後の目標、老後の楽しみってもんだ、と決めていた。

旅の計画を練る。一度で全部は無理だから、目的地はしっかり絞っていこう。旅は計画的に進めるのが好きなタイプだ。歳も考えて、無理は禁物。時間的にも余裕をもって、目的地も欲張らずにいこう。スマホ片手に電車やホテルを捜して、旅の計画をノートに整理していく。

そんな中で、立ち寄った本屋で出会った、宮沢賢治「銀河鉄道の夜」。貧しく孤独な少年ジョバンニが、親友カムパネラと共に銀河鉄道に乗って旅をするというこの物語は、天の川について学ぶ教室でのようすからはじまる。昔の本だから、きっと読みにくいだろうという予想は見事外れて、一瞬でその柔らかな文体に惹きつけられていく。

子どもの頃読んだ時は、大した感動もなく、さらりと流してしまった記憶しかない。どこかの外国の子どもの話、七夕の夜の話、とそんなことしか浮かばない。しかも銀河鉄道999と混同していて、いや、全く違う話だという事はわかっているけれど。

そして誰にも聞こえないように窓の外へからだを乗り出して力いっぱいはげしく胸をうって叫びそれからもう喉いっぱい泣き出しました。(銀河鉄道の夜より)

旅の目的を岩手県花巻市(イーハトーブ)に絞って、はりきって出かけた東北旅行からもう一年。曇天の夜空に、来年も来よう、冬もいいね、と決めたはずだった。結局あっという間に一年が経ってしまっていた。

そして今年、このコロナで、第一回は発売中止となった。

旅人たちはしずかに席に戻り、二人とも胸いっぱいのかなしみに似た新しい気持ちを、何気なくちがった語(ことば)で、そっと談(はな)し合ったのです。(銀河鉄道の夜より)

いつになったら気軽に旅行へ行けるのだろうか。徐々に通常に戻りつつある最近ではあっても、まだまだ先の見えない状態で、ただ気晴らしに、旅行へ行くなんてできない。

また読み返してみよう。またちがう別のあたらしい思いに気づくかもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?