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800字日記/20221124thu/138「冬晴れとうろこ雲と冬の夕焼け」

目覚める。昼前。快晴だ。が、体が重い。部屋探しの疲労が取れない。かれこれ四日も本稿にふれていない。シーンは頭にあるが、書けるか不安だ。そうじをしてネコと遊ぶ。今日は投げる綿棒に食いつく。洗濯機をまわす。

恐る恐るパソコンをひらく。書けた。驚くべきことだった。レジュメは引き返せないポイントまで詰めておく。急病や別の仕事で中断されてもすぐに再開できるとはこのことか。だが、すっかり安心したとたん、筆がとまった。三時をまわっていた。

米を研いでいると、電話がきた。富山のアパートの件だ。彼に諏訪の物件は審査で万が一がある、と伝える。大丈夫です。こちらも進めますと返事をもらう。好青年だ。新潟の不動産屋のFさんのように実直で、断るときまた気苦しくなりそうだ。

電話を切ってタンドリーチキンを焼く。夜の弁当を作って、残りを昼食にする。せんたくものを取り込んで、出かける。

冬晴れで暖かい。春の陽気だ。ロードバイクに跨って外の空気を吸う。気持ちいい。日常はこんなふうに過ぎればどんなにいいか。畔には十月とはちがう種類の猫じゃらしが生える。掘り返されたばかりの畑にカラスが三羽クチバシでついばむ。田畑を抜けて、部落に入る。二人の少年が路地に手をついて、寝そべっている。

トラクターに耕された畑にゴイサギが六羽、舞い降りて、むき出しになった土を競ってつつく。西の峠へ太陽がしずむ。

空を見上げる。絵に描いたようなうろこ雲だ。これをするすると文章でかけたら、と思う。

陽が落ちると、瞬く間に冷える。寒い。家に帰ろう。また、立ち止まって空を見上げる。高い空に浮かぶ冬の夕暮れ。真っ赤に染まる夏とはちがう。

郵便局の角を曲がった団地の庭で草刈りをしていたおばさんと立ち話をする。

「若いねぇ」と言ってくれた。
「いくつに見えます? 」と訊く。
「三十かい」
「四十五」
「へえ、ウチの息子と同い年じゃ」
おばさんに歳を訊ねる。母と同じ歳だった。
(797文字)


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