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丸山健二文章レッスン第二回「美しいと思う文章を」(ドラマチックに!) 一部有料

3219文字・60min


2024年3月16日(土)
予習「美しいと思う文章」(ドラマチックに!)

◉元原稿:
浜。寄せる汀に少女はよこたわる。
近づくと全裸だった。
ひざをつき、少女のくちびるに触れる。
少女は怯えて身震いをする。
「寒いか」
上着を掛けると水面に光が現れる。
僕と少女は光に包まれて消える。

丸山健二先生のことば:
浜。だけでは芸がない。どんな浜なのか?
平凡な修飾ではダメ。
重油の海。
正しい日本語を使え。

「寄せる汀」は日本語では正しくない。
汀(みぎわ)=海・湖などの水の、陸地と接している所。みずぎわ。なぎさ。

「寄せる」を使いたければ、「波が寄せる」あるいは「寄せる波」という表現が適切である。

⑴声を出して書くこと。音読をせよ(黙読はダメ)。自分が書いた文章は完璧じゃないことに気づくこと。
⑵ぼくの文章はシンプルすぎる。芸がない。文章に色気を出せ。
⑶ルビで悩むなら文章に悩め。
⑷正しい日本語を使え。
⑸文章は絵画的(映像的)に考えろ。
⑹平凡な修飾はダメ。ズバッと象徴的な修飾をせよ。
⑺丸山メソッド:其の①
❶対比法:陽光が虚無を放っている。
❷擬人法:風が踊り狂っている。
❸とつぜんの否定:いや、誰かがいる。娘だ。そうではない、少女だ。
❹丸山健二流、時間経過の妙技:しばしの沈黙が重苦しい。
❺視点を操れ:目のやり場に困る(僕)
❻ストーリーに引きずられない。文章が疎かになる。
❼文章は自由に書け。ジャズだ。アドリブ奏法だ。明日のことは考えない。笑。
❽文に「静」と「動」を=「黒い波が寄せては返す」
❾音楽的、絵画的、匂い、五感(映像的)を使え。

「波打ち寄せる浜」「白い砂浜」など、平凡な表現は厳禁だ。
象徴的な突拍子もない表現でズバッと書く。

カラスが焚き火の後の流木に着地をして啼いた。蟹が歩く。その横には潰された蟹がいる。重油がまき散らされた浜。

★丸山健二流の冒頭:目と匂いと色を使え。
(絵画的な文章を意識せよ)

重油の匂いに溢れかえった浜。黒い波が寄せては返す。
➡︎重油の匂いに溢れかえった浜なのだから波は黒色のはずだ。

登場人物「少女」:

いきなり少女を出さない。重油で黒くなった浜にほかに人間はいるのか?

カモメの代わりにカラスが群れている。
★ここで一発目➡︎一種、異様な雰囲気を読者に与える。

丸山先生のダメ出し(初出かぶりはダメ!):汽笛が鳴る(⬅︎平凡な表現でダメ!)

重油の匂い、黒い波、カラスの群れ、読者への印象を絵画的に。
➡︎普通の浜だったら白いカモメがいるが、ここには黒いカラスがいる。

★ここで二発目➡︎悍ましい印象を読者に伝える)
(二発目には、風、大気、太陽、雲、波、自然現象を出せ)

丸山先生のダメ出し(初出かぶりはダメ!):黒い獣(黒色でかぶる)、獣のような海獣が(生き物かぶり)、見えない衝撃が(エンタメチック? でダメ)

陽光(=太陽の光)が虚無を放っている。

★ここで三発目➡︎読者へのだめ押し(風、大気、太陽、雲、波、自然現象を出せ)だ。

風が踊り狂っている。

丸山先生のダメ出し(初出かぶりはダメ!):黒い雲が割れるように光が射し(黒色がかぶった)、風が激しく(激しい⬅︎平凡な表現でダメ)

◉元原稿:
近づくと全裸だった。

★丸山健二流の空間描写(空間の中に「打ち消し」や劇的な「序破急」をいれる)。
辺りには人っ子ひとりいない。
いや、誰かがいる。
娘だ。
そうではない、少女だ。
穢れた砂の上に横たわっている。
(近づくと)全裸だ(った)。
(シーンを劇的に見せる、「近づくと」を省き、「だった」を省き、時間を縮める)

人称の問題:僕(読者)の視線のあつかい方:
★丸山流創作術:「時間の劇的な省略」と「視点=カメラワーク」

★ここで、人称(カメラワーク)をあやつる「僕の視線」=「読者の視線」
「僕の視線」は「知らず知らずに」少女のくちびるに迫っている動的なカメラワーク。

◉元原稿:
ひざをつき、少女のくちびるに触れる。

「僕の視線」=「僕の心のうごき」=「心のゆれ」=「知らず知らず」「少女のくちびる」「に迫る自分に」=「ハッと気づく」
⑴ひざをつく。
⑵まじまじと顔を
⑶のぞき込む。
⑷知らず知らず
⑸(少女の)
⑹くちびるに
⑺迫っている自分
⑻に気づく。

◉改稿後:
僕はひざをつく。まじまじと顔をのぞき込む。知らず知らずくちびるに迫っている自分に気づく。

★丸山健二作劇術マジック「人称の逆転!」
とつぜん、ここで「怯える少女の視点」になる。

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