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鳴らない携帯

 私の携帯は昔から鳴らない。壊れているわけではない。鳴る必要がないと携帯が勝手に判断しているらしい。それに関して、私は困ることがないことがまたすこし悲しい。

 もちろん、携帯が鳴らないために不便はある。たとえば、携帯に来るメッセージに対して返信がとても遅くなる。でも、そもそも私にはメッセージが来ない。社会から切り離されて生活することはここで実感できる。

 私の職業はニートだ。職業と言ってはいけないかしら。言い方を変えると、無職だ。それも、完全に無色な無職だ。特に趣味はないし、恐ろしく友達が少ない。少ないというか、いない。学校には行っていたが、私はあまりに集団行動が向いていないらしく、すぐにドロップアウトしてしまった。ニートになるべくして生まれたと思い込むことで日々鳴らない携帯を眺めている。

 またいつものように携帯で虚無を生み出している最中、画面上部からあるメッセージが届いた。携帯料金の延滞を告げる携帯会社からのメッセージだった。鳴った携帯から鳴らなくなる予告をされてすこしムカついたので、そのまま携帯を風呂に沈めてみた。少しだけスッキリして、私は孤独じゃなくなった。

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