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ひとのかずだけひとがいる


生活の音が聞こえる、ベランダ
夏の夜、風が通ると涼しい夜
生活の音に耳を傾ける

私は生活の音が好きだ
お隣の風呂場の音、台所の音、
なにかわからないけれど日常の音

生活の空気が好きだ
生活の明かりが好きだ
生活の溢れるこの街が好きだ
生活のあるこの日々が好きだ

75年前の今日、
人々の生活は、日常は、命は、
慈悲もなく、予告もなく、
粉々に砕け散って消えた

体がなくなった体が、どれほどの体が、
言葉を持たない体が、どんな体が、

そこにあったのだろう

そこに、血の通った人間が、
一人ひとり、ドラマを背負った、
くもりのない笑顔をした人間が、
いたのでしょう
それでも、
今では戦争を終わらせるためと、
より多くの犠牲を出さないためと、
一度決めたことだからと、
いのちもなにもかも捨てて
砕け散ってしまうまで
進んだことさえ、
なんらかの理論によって
生きているなにも知らない人間によって、
生み出されている「史実」

真実は、どこ?
死人に口なしと言いますが、
今でもどこかで聞いてほしいと泣く声
こだましているよ
私には
まだ聞こえないけれど
聞こえます、と言いたいけれど
まだ聞こえないのです

人間に血が通っていることを、
温かな臓器を持っていることを、
忘れた人から順番に
お金がもらえます。
お金をもらったら、
もっと忘れます。
耳で聞こえることしか聞かないし、
目で見えることしか見ません。
それ以外に信じません。
信じたことさえ、
なかったことにしてしまうのが
愚かな人間の性のよう

けたたましく鳴るサイレン、
祈りだけでは響かない鐘、
血眼になって手繰り寄せた平和を、
手放してもいいかなと思わせる空気、
それを打ち破ろうとした勇気ある人間から、
磔へ

生活の音がする
生活の音が自分を鈍らせる
生活の音が好きだ
これを、守るには
自分から磔へ
自分で自分を守る道へ
誰も通らない道へ
誰も見えない道へ

知ろうとしなかったことがあります
忘れていたことがあります
私の体の中には、
あたたかな臓器が動いています
あたたかな、やわらかな臓器
あなたの中にも
あの人の中にも
テレビの中の、人間の数字にも、
あたたかな臓器が、
一人ひとり動いています
一人ひとりの速度で、一人ひとりの重さで
動いていること
その重さに、気づいていない人にも
あたたかな臓器

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