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レモンの花が咲いたら
登場人物
屋敷玄(やしき げん) 主人公。ボカロPをやっている。
小野美月(おの みづき) 生まれつき目が見えず、また体が弱い。
水原佳恵(みずはら かえ) 美月の主治医。
小田洋平(おだ ようへい) あるロックバンドのボーカル。玄の師匠。
はじめに
この作品はプリ小説『レモンの花が咲いたら』のリメイクです。
登場人物の名前など、一部改変しています。
1 美月
人間は、9割の情報を視覚から得ているらしい。
顔を見て感情を判断したり、言いたいことを読み取ったりすることが出来る。また、目で文字を見てそれを解読し、絵を見て状況を判断したりして、昔を懐かしんだりすることが出来るのだという。
愛する人の顔や姿の変化も、そうして目に焼き付けて愛でていくのだ。
私は、生まれつき目が見えない。光の加減で何かがあるかが少しだけ分かる程度だ。体も弱く、足も不自由なのでベッドか車いすにいる生活を送っている。17年くらい生きているけれど、私はその人生のほとんどをこの病院で過していた。
そして今も入院中である。
外に出たい、とは思わない。昔は思っていたし、学校とかにも行ってみたい、と思っていたけれど。今はそれを思わなくなった。退院してもすぐにまた体のどこかに異常が出て、すぐにまた入院する。退院するだけ無駄なのだ。
「美月ちゃん。体、冷やしちゃうわよ。早く病室に戻りなさい」
主治医の水原先生の声だ。私が幼い頃からずっとこの人が私を看てくれている。
「もうちょっとだけ!」
私は今、病院の中庭にいる。私のいる病院は花壇が綺麗に整備されているので有名らしく、患者さんやその家族、先生や看護師の談笑の声が溢れている。
・・・・・・・・・最も、その状況とかは何も見えないんだけれど。
それでも、ここを吹き抜けていく風は爽やかでとても好きだ。心地よくて暖かい。誰かが私を抱きしめてくれるような、優しい風に感じるのだ。
そのとき、いきな強い風が、驚く間も与えずに吹いてきた。そしてその瞬間に膝掛けがなくなる。どうやら飛ばされたらしい。「ほらもう!」と取りに行く先生の声が聞こえてきた。
「ごめんなさーい!」
そう軽く謝って取りに行こうとすると、
「はい」
男の人の声だ。初めて聴く声。低くて、優しい声。春の風のように優しくて暖かい。まるで私の好きな風のようだ。
「あっ、ありがとうございます!」
こんな声の人、病院にはいなかった気がする。初めての人に私はドキドキしながら言った。
「いっ、いえ・・・・・・」
その声音は明らかに戸惑っている感じがする。向こうも緊張しているのかな。私も先生や看護師さん以外とはあまり話さないからとても新鮮だ。
でも、これが全ての始まりだったんだ。
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