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わすれな草
登場人物
ナツメ
ユリ
ひとりぼっちになった。
今までもひとりぼっちだったけど、君と出会ったこの数ヶ月は、私はそうじゃなかった。
毎日が満ち足りていた。毎日が輝いていた。それまで確かに不幸でしかなかった私の人生が、一気に華やいだ。
でも、君の身体はもう、ぼろぼろだった。私と会うずっと前から君は病に冒されていたんだ。
君が生きているとき、
「ねえ、ナツメ」
「何?」
「私が死んでも、ずっと、覚えててくれるよね?」
君はもう、自分の命は長くないと悟っていたんだ。だからこそ、そう聞いたんだ。
でも、私はこう応えた。
「そんなこと言わないで。もっとユリと一緒にいるの」
今思えば、なぜそう返してしまったんだろう。
うん、ユリのこと、忘れるわけがないよ。
なぜそう返せなかったんだろう。
なぜ、なぜ・・・・・・・・・
考えれば考えるほど、後悔が止まらない。もっとあのときも、別の時も、もっと、たくさんの思い出を彼女と作るべきだった。自分を勝手に追い詰めるよりも、もっとやるべきことがあったのに。
今更悔いたって、もう帰ってこない。そう私に諭すように風が吹く。わかってる。わかってるけど。でも、もっと私は君といたかった。誰よりも、君と。君と笑い合って、肩を寄せ合って語り合いたかった。好きな音楽、本、花、そしてこれからの将来を。
涙が雨のようにポタポタと私の膝をぬらす。止めようと思っても止まらない。
どんなに泣いたって君は帰らないのに。
君がいない世界なんか、もう・・・
そう思って涙をぬぐおうとしたときだった。胸のところのポケットから何かが落ちてきた。見ると、ピンクと青のわすれな草の押し花がラミネートされた、栞だった。
最後に会ったとき、「これあげるよ」と、君からもらったものだった。
「これ、何の花?」
「確か、わすれな草って看護師さん言ってた気がする」
「へええ。花言葉とかあるの?」
「あるでしょ?わかんないけど」
そんなたわいのない会話を思い出して、私はスマホを取り出した。そして「わすれな草 花言葉」で検索をする。
【花言葉:私を忘れないで】
その文字列を見たとき、涙がとめどなくあふれ出した。
忘れない。忘れるわけがない。私が君を、忘れるなんて。
私は栞を抱きしめた。この栞は、君が私に遺した形ある財産であり、思い出。去って行く自分の代わりだと、私に託してくれたに違いない。
君のいない世界には、もう私は生きる価値がないと思った。でもこうして君が姿を変えて存在してくれているのなら。
私は生きる。君が笑いながらお疲れ様と迎えに来るその日まで。
了
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