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レモンの花が咲いたら

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生まれつき目も見えず、自力で歩くことが出来ない少女、小野美月。両親も友達すらも居ない彼女の元に現れたのは、自閉症とうつ病を併発した男性、屋敷玄だった。
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2021年7月の記事一覧

レモンの花が咲いたら 最終話

レモンの花が咲いたら 最終話

最終話 あるLIVEのトークより

 こんばんは。屋敷玄です。今日は、僕のLIVEのために足を運んでくれて本当にありがとうございました。こんなにも広い会場が満たされるほどの人々が来て下さったことに、僕はとても感動しています。僕はほかのアーティストと比べてLIVEに出る数が少ないとは思うのですが、それでもこんなに僕の音楽に耳を傾けてくれる人がいるのは、嬉しいことです。

 こんなにもたくさんの人が訪

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レモンの花が咲いたら 17

レモンの花が咲いたら 17

17 玄

 長い長い夢を見ていたのだろうか。あの日まで見ていた景色に、現実味がない。夢だと思えばすべて合点がいくようにも見えた。

 それでも、あの日から、あの瞬間から思うように息が出来ない。

 ずっと心の中に潜み、時に大きく俺の前に現れては、大きなスクリーンのようになってそこに思い出を映し出す。そのたびに涙が止まらなくて、体がしびれる。

 そして思う。

 俺は、あの子に何もしてあげられな

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レモンの花が咲いたら 16

レモンの花が咲いたら 16

16 玄

 手術が終わってから3日が経つ。未だに美月さんの意識は戻らない。

 季節はもう春も終わりごろで、梅雨の足音が聞こえてきていた。

「美月さん」

 そう呼び掛けても、彼女は眠ったままだ。いつもなら、「どうしたの?」とくりくりと丸い目をこちらに向けてくるのに。雪のように白い瞳をこちらに向けてくれるのに。今ではその目ですらも包帯にふさがれたままだ。

 最近雨が続いていたが、今日はようや

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レモンの花が咲いたら 15

レモンの花が咲いたら 15

15 玄

 次の日。病院に行くと、先に診察室へ呼ばれた。

「おはようございます」

「おはよう。屋敷君。さっそくだけど、今日これから手術をすることになったわ」

 あまりに急で俺は驚いた。

「えっ」

「あの後眼科の先生に相談したらちょうど眼球のドナーで新しいのがきたから、せっかくならもうやってしまおうってことになったの。本当はもうちょっと様子を見てからがいいんだけど・・・ね」

 先生も分

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