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シファン・ハッサンが皆の姐さん化している件

 パリ五輪で長距離3種目(5000m、1万m、マラソン)に出るシファン・ハッサン。3年前の東京五輪では1500m、5000m、1万mの3種目だったけれど、さらにパワーアップした。
 昨日5000m決勝で銅メダルをとったハッサンは「今回は私はメダル無理だと思ってたでしょう」と、してやったりの表情だった。
 記者会見でもいつものハッサン節が炸裂した。

「今回一番自信がなかったのは5000m。以前は1500mのスピードがあって、私はスピード型だったけれど、今はマラソン練習に注力しているからスピードはイマイチ自信がなかった」
 
ここまでは普通の、ごく普通の回答である。

「マラソンが本当に心配で心配で怖くてたまらない。家に帰りたくなったりもする。今日も5000mのレースが始まってからもマラソンのことが気になって気になって、でも2000mくらいで『あ、今は5000mの決勝だから集中、集中!』って切り替えた」


 違うことを考えながら決勝レースを走っているのは、世界広しといえどもハッサンくらいだろう。
 金曜日夜に1万mを、それから37時間後くらいにはマラソンを走る予定だが、「夜のレースを走って、すぐに朝のレースなので、調整がとても大変」とぼやく。
 昨日はレースの後に抗議があったため、記者会見やドーピング検査の時間が押したため、選手村に戻ったのは午前2時過ぎ。その後もなかなか寝付けず、眠りに入ったのは明け方5時くらいだったという。
「眠くてたまらないの。9時に起きて朝食を食べた」
 ほかの選手なら一日中寝ていても問題ないだろうが、ハッサンは1万mとマラソンがあるため、起床時間や食事の時間も気をつけなければならない。
 メダル授与式も疲れた表情だった。できることなら選手村で寝ていたかった、というのが本音だったのではないだろうか。
 

一つ目のメダルを手にしたハッサン


メダル授与式後、セルフィの撮影の際は
キピエゴンは笑顔だったが

疲れた表情でミックスゾーンに現れたハッサンにケニアメディアから「お願い」が飛んだ。
記者  「フェイス(キピエゴン)がとても落ち込んでいるの。元気付けてもらえませんか」
ハッサン「え?どういうこと?一緒にメダル貰ったよ」

ケニア人記者からのお願いに驚くハッサン


記者  「感情がまだ整理できていないみたいで、さっきここで泣いたんです」
ハッサン「えー」
記者  「あなたはフェイスを擁護してくれていたので、それを話してくれたら元気が出ると思うんです」
ハッサン「分かった。任せて!」

 大仕事を任されてアドレナリンが出たのだろうか、姐さんの血が騒いだのだろうか。ハッサンはとろんと眠そうな表情からキリッとした表情になって控室に向かっていった。
 
 ケニア人記者とハッサンのやりとりに、2022年オレゴン世界陸上のことを思い出した。3種目に挑戦した田中希実選手が元気がなく泣いていたと話すと、ハッサンは「3種目挑戦したことがすごい。誇りに思ってほしい」と話し、ウォームアップエリアで田中に声を掛けてくれた。
 周囲がどんな声を掛けても落ち込んでいる選手には届かないことがある。でも、経験豊かなハッサンの言葉なら響くかもしれない。
 きっとそう思うのだろう。
 キピエゴンは1500mの準決勝、決勝を控えている。ハッサン姐さんの言葉で少しでも笑顔が戻るのか。ハッサンの手腕に期待したい。

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