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脚本 どうかこの花を受け取って

 こんにちは、山野莉緒です。

 劇団浅葱色の解散公演で上演した「どうかこの花を受け取って」を公開します。
 加筆・修正のため、上演台本とは内容が一部異なりますのでご了承ください。


 暑いのは苦手ですが、夏になると否応なく活動的になるので生き物の性かなと思います。
 初演当時は#平成最後の夏だったので、平成の真ん中2003年が舞台のお話になりました。書き出しの「マスク=体調不良」というのを見て、たしかに平成だなと思いました。

 脚本はいつも当て書きですが、この話は特に俳優からインスピレーションをもらって書きました。解散するのがさびしかったんだと思います。

 わたしは嘘をつかれるのがすごく嫌いです。子どもだったからきっと背伸びをしようとして、嘘とわかる嘘をとりあえず片っ端から暴いていたんだと思います。大人になるほど自分も嘘つきでした。
 本当に嫌なのは、話をしてもらえないことかなと思います。
 嘘でも信じるって言うと難しいけど、その人のこと、信じたいと思うなら、話してくれることは何でも聞こうと思うようになりました。

 OPには宇多田ヒカルの「花束を君に」、EDにはSUPER BEAVERの「ことば」をお借りしました。ぜひ聴いてみてください。

 楽しんでいただけたらうれしいです。


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「どうかこの花を受け取って」山野莉緒


【登場人物】
清水 志保(しみず しほ)
吉沢 春(よしざわ しゅん)
沖田 日和(おきた ひより)
神谷 トオル(かみや とおる)
小野 和泉(おの いずみ)


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第一場 コンビニ

 炎天下には不似合いなマスクをつけた志保と、カメラを提げた肩で荒く息をする吉沢が、立て続けに来店する。
 吉沢は真っすぐドリンクコーナーに向かい、炭酸水を掴み取ると、次にアイスが陳列された棚へと向かう。近くにいた志保は自然と道を譲った。

吉沢 「あ、すいません」

 志保、会釈。吉沢は一瞥してレジに向かい、彼女も小さなサラダを手に後に続く。
 先に会計を終えた吉沢は、早速店先でキャップを開け、喉を潤す。店に目を戻すと、志保は入口近くの雑誌コーナーで足を止め、ファッション誌を立ち読みしている。吉沢、それをまじまじと見る。
 やがて顔を上げた彼女と、ガラス越しに視線が交わったとき、彼は思わず叫んだ。

吉沢 「清水志保! ……あ、やべ」

 志保、走って店を出る。

志保 「すいません」
吉沢 「清水志保さん?」
志保 「そうなんですけど」
吉沢 「やっぱり。雑誌と同じ顔がついてるから」
志保 「え? あ、そっか」

 ふたり、笑い合う。

吉沢 「びっくりしました」
志保 「でも私、今」
吉沢 「あー、そうですよね。休業中」
志保 「できれば、騒がないでもらえると」
吉沢 「すいません。あの、ファンなんです、俺」
志保 「ありがとうございます」
吉沢 「すげーショックだったんで、つい。興奮しちゃって」
志保 「ごめんなさい」
吉沢 「いやいや、そんな。無期限でしたっけ?」
志保 「はい」
吉沢 「辞めちゃったり、とか」
志保 「まだわかんないですね」
吉沢 「ご病気ですか?」
志保 「理由は公表してないんです」
吉沢 「ですよね。あの、でも心配で。お元気ならいいんですけど」
志保 「元気です。これ、ただの変装。大丈夫です」

 志保はマスクを少し引っ張って見せた。

吉沢 「そうですか。よかった」
志保 「ありがとう」

 間。

志保 「もしまた見かけても、次は叫ばないでもらえると、助かります」
吉沢 「ほんと、すいません」
志保 「それじゃ」
吉沢 「あ、待って!」
志保 「はい?」

 間。

吉沢 「あの、これ」

 吉沢、レジ袋からパピコを取り出す。志保、やや呆気にとられたが、一拍置いてくすりと笑う。

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