見出し画像

おかしのいえ(K.Iくん)

この記事は2019年8月9日にホームページにて掲載したものです。

Kくんがなにやら嬉しそうに本を持ってきた。
どうやら自由工作の本みたいだ。
「先生、今日はおかしの家と、イルカの貯金箱を作りたいんや」
付箋でブックマークしたページを指差してKくんが言った。
よしきた。子どもたちの作りたい気持ちには100%で答えるのが僕の信条だ。

どっちを作る?という僕の問いに、どっちもとKくんが答えるので、まずはどっちか一つを選んでくれと僕は頼んだ。Kくんはしばらく悩んだ後で、おかしの家を作ることを決めた。
Kくんはおかしの家のページの作品例を見て、これのとおりに作りたんやけど、できるか?と訊いた。僕は、もちろんと答えた。

まずはダンボールで家の土台を作るところから。
ダンボールを5歳の力で切るのには少し時間がかかりすぎるようだったので、安全も配慮して僕が代わりに切ることにした。
まあ、ここだけの話、家を作るのなんか大人の手にかかれば、ちょちょいのちょいです。床と壁と屋根をなんとなく目分量で切って貼りあわせればいいんです。
そんな軽い気持ちでダンボールを切っていると、Kくんが僕の手を止めた。
「ちがう。これだと高さが足りん。」
大丈夫だよ、と僕は返事をした。なんとなくやればなんとなくそれっぽいのができるよって。
すると彼は真剣な目をして「それじゃだめだ。この本の通りにやってくれ」と強く言ったのだ。それから、本の末尾の展開図のページを開いて、「この大きさのとおりに切ってくれ。ここに大きさが書いてある」と言った。展開図には一辺一辺の大きさがcm単位で細かく記されていた。僕は心からゲッと思った。(笑)
しかし、そこまで頼まれると僕も男だ。100%答える信条だ。

定規と製図用のステッドラー鉛筆を取り出して、1mmの狂いもなく展開図どおりの寸法で土台を作った。なかなか骨が折れる仕事だった。しっかり測って、まっすぐ切るのは、僕は苦手だ。(笑)

そのあいだKくんは、装飾のお菓子づくりに励んでいた。
色画用紙を厳選して、絵の具の色も本どおり忠実に再現できるように混色していた。
形や数なんかもしっかりと数えながら作っていた。
ハートのクッキーが4個…、まるのクッキーが8個……というふうにね。
出来上がったクッキーをダンボールに貼り、それを切りとるのは僕の役割になった。
これが本当にくたびれて(笑)、途中ゆっくり休憩なんかしてると「先生、ぜんぜん働いとらんやんか。もっと切ってくれ」と厳しい指導が入る。

クッキーは全部で20数個出来上がった。1つ1つ、丁寧に作り込まれたいいクッキーで、これだけでも見ごたえのある作品だ。
さぁあとはこれを家に貼り付ければ完成だ。
Kくんはクッキーのひとつひとつを、配列を気にしながらこれまた丁寧に貼っていった。本当に気をつかう作業で、「疲れた〜疲れた〜」を口癖のようにつぶやきながら貼った。僕もとても疲れたので、一緒になって「疲れた〜」を言った。
最後のひとつのクッキーを貼り終えたとき、Kくんと僕は大きな達成感を味わった。それから、なんだかいつのまにか深い絆にも結ばれているようだった。(笑)

そのあとで、Kくんは僕の顔を見て言った。
「よし、じゃあイルカの貯金箱やな」
僕は「勘弁してくれ」と心から断ったよ。(笑)


彼の作品を作りたいという意欲、集中力、そして完成させるまでの力。そしてあの達成感。僕は本当に驚かされた。

自分も作品と向き合うとき、あんなふうに感じて取り組めるだろうか。とても良い刺激をもらいました。


イルカの貯金箱、また次回作ろうね。


画像1


この記事が参加している募集

オンライン展覧会

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?