【短編小説】素敵な公園

3月の今日。
私たち家族は夫の転勤の為、新しい街へと引っ越してきた。
以前住んでいた街と比べると少し田舎ではあるが、緑が多く、閑静で、子供を育てるには良い環境である。
そして何と言っても、マンションの前に、とても大きな公園がある。

荷物をひと通り片付け、私と娘は気分転換に公園へ散歩に行くことにした。

「わー!ママー!広いよー!」

「よかったね。これから、ここでたくさん遊ぼうね」

娘は公園を見るなり大喜びで、遊具のところまで飛んでいってしまった。

「気をつけてねー!」

まったく、と呆れながら、あんなにはしゃぐ娘を久しぶりに見た気がして、安心のため息をついた。

ベンチに座り、滑り台で遊ぶ娘を眺めていると、3人組の女性たちが声をかけてきた。

「あの〜。もしかして、引っ越しされてきた方?」

「あ、はじめまして。今日そこのマンションに引っ越してきました」

私は立ち上がり、挨拶した。

「見かけない顔だな〜って思って!はじめまして〜。私たちも、このマンションに住んでるの。
これからよろしくお願いします〜」

「そうなんですね!よろしくおねがいします。
それにしても、とても大きな公園ですね」

「ね〜。子育てママにはほんと助かるわよね〜。
私たちもしょっちゅう子供たち遊ばせてるの」

「前住んでたところは、公園なんてなくて。娘も喜んでます」

「あら、そうだったの〜。この辺りのことで分からないことはいつでも聞いてね〜。
また色々お話ししましょう」

「はい!ありがとうございます!
それでは、片付けの続きがあるので、そろそろ失礼します」

私は少し遠くにいる娘を呼び、会釈をし、マンションへと戻った。

「それでね、とっても大きい公園だったの。写真で見てたのよりも想像以上!マンションの人たちも優しかったなぁ。よく遊びに来てるみたいだから、ママ友もすぐにできそう」

そう話す私に、夫は安心したように笑った。

「田舎だから心配してたけど、気に入ってくれたみたいで良かったよ」

「とても素敵なところね」

次の日も、私と娘は公園へ遊びに行った。
昨日来た時は気づかなかったが、公園には4つの花壇があり、それぞれ札が立てられていた。

「チューリップ、アジサイ、コスモス、ポインセチア、、、へぇ、いろんな季節の花が植えられてるのね」

「花はお好きですか?」

突然の声に、私の肩は大きく飛び跳ねた。
振り向くと立っていたのは、軍手をはめ、大きなハサミを持った作業着姿の年配の男性だった。

「いやぁ。驚かせてしまってすみません。
この花、私が植えたんです」

「あ!いえいえ!少し驚いただけです。
昨日、この街に引っ越して来まして。お花もあって素敵な公園ですね」

「そうでしょう。実は私、よその街で花屋をしていたんですがね、この公園に惹かれて10年前に店を畳んで、引っ越して来たんです」

「そうなんですね。でも、この公園に惹かれるのは分かります。1日中座って、日向ぼっこしていたいです。なーんて、夫に怒られちゃいますね。ははは」

「いやぁ。ほんとその通りです。それでね、花があればいいなぁと思って、売り物にならない苗をたまに植えに来てたんです」

「そうだったんですね。私、花大好きなので、とても癒されます」

話していると不思議と心が落ち着く素敵なおじさんだった。

マンションへの帰り道、昨日の奥さんと出会った。

「あの方、素敵なおじさんですね」

「あ〜!あの方ね。この公園をもっと素敵にしたいって、ボランティアで花を植えてるみたい。
皆からは、花咲か爺さんって呼ばれてるわよ。愛想も良くて、素敵な方よね〜」

私たちは毎日、素敵な公園へ遊びに行った。
今日も花咲か爺さんは草木を整え、奥さんたちは立ち話をしている。

「こんにちは」

私は、作業をしていたおじさんに声をかけた。

「聞きましたよ。皆から花咲か爺さんって呼ばれてるって。ヒーローですね!」

「いやぁ、まいったな。老人をからかわないでくださいよ」

そう言いながらも、おじさんは照れくさそうに頭を掻いた。

「今日も草刈りですか?」

「いやぁ、そろそろ4月になるし、久しぶりに新しい花を植えようかと思ってねぇ」

「花が綺麗な季節になりますね。これからの時期だと、スイートピーとかも良さそうですね」

「いいですねぇ〜」

今日は3月中旬にしてはとても天気が良く、喉が渇いた私は水筒を取りに行くことにした。

娘を呼びに行く途中、奥さんたちと出会った。

「どう〜?少し慣れました?」

「慣れるだなんて。とても素敵な街で、ここに来れて良かったです」

「ねぇ〜。あそこと比べると治安もいいしねぇ〜」

「あそこ?」

「そう〜。10年くらい前かしら、隣の県で子供の連続誘拐事件があったらしいのよ」

「え、そうなんですか」

「子供たちも犯人も、まだ見つかってないしね。私も夫から聞いた話だから、よく知らないけど。3ヶ月ごとに1人ずつ誘拐されたみたい」

「3ヶ月ごと?」

「確か、3、6、9、12月だったかしらね。怖いわよねぇ〜〜。ま!この街ではそんなことないから安心だけど」

「本当、そうですね。
あ、娘呼びに行くとこだった」

「今日はもう帰るの?」

「いえ、喉乾いたんで水筒取りに行こうかなって」

「花咲か爺さんも近くに居ることだし、大丈夫じゃない?」

見ると、娘はおじさんと楽しそうに話していた。

「本当ですね。じゃあ、ちょっと行って来ます!」

私は、おじさんと娘に「水筒取ってくるねー!」と伝え、マンションへ向かった。

こんなに治安も良くて、いい人たちにも出会えて。

素敵な公園のあるこの街にきて、本当によかった。


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