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【超短編】雨に真似る

窓際に立っていたM教授に、完全オリジナルで作ったイヤホンを見せたところ、彼はいかにもつまらなそうに鼻をほじった。

「オリジナル、とかいう前置き、いらんで」

今度はケツを掻きながら、大きな欠伸をひとつした。

「イヤホンでもメガホンでも、それを100に分解できるとして、そのなかの1/100でも、オリジナルってものは存在せんでな」

そう言ってこちらを振り向いたM教授の顔は、窓からの逆光で真っ暗だ。


「特許とるやつはアホや」

「そうでしょうか。技術を安全に活かすためには必要な手段でしょう」

「1/100ずつ、アイディアをどっかから頂戴してきただけのもんや。それが文明とかいう大それた名前で脈々と受け継がれとるだけや。サルでも真似るでな」

手持ち無沙汰なのか、両腕でしきりにコマネチのポーズをとるM教授は、果たしてまともに会話すべき相手なのか今更ながら疑い始める。

「お前もな、自分は唯一無二のオリジナルな人間や思とるやろ?」

ふと、コマネチする手を微妙な位置で止め、こちらをじっと見る。暗くて表情はわからない。

「けどな、お前は、窓の外を降り潰してる雨でもあるんやで」

そう言って窓の外を見遣ったM教授に続いて、同じように外を見遣ると、さっきまでカンカン照りだったはずの天気が、急に嵐のように土砂降りに転じた。

「見てみ、どんどん降りよるでな。明日には洪水やで」

キャンパスに降りしきる雨は、みるみるうちに池だまりと化し、水嵩(みずかさ)を増していく。

天気予報を見ようと、胸ポケットからスマホを取り出そうとしたが、腕は消えて胸も無かった。

M教授に向って何かを問おうとしたが、何かを問おうとする頭はもう消えかけていた。

もう一度、窓の外を見ようと視線を動かしたが、そこに雨の降りしきるキャンパスはなかった。



豪雨となった僕らしきものが、M教授のいた第2校舎の窓ガラスを、しきりに撫でていた。




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