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厄介映画 | 映画「関心領域」感想

 この映画の情報を見かけた時、アウシュビッツの隣の家っていう設定がすごい興味を引いたんだよね。その上、アカデミー賞のナントカ部門で取ってるし、もうこれは絶対面白いやつだと思って、公開されたらすぐにワクテカ(死語)しながら見にいったわけ。


あらすじ

空は青く、誰もが笑顔で、子どもたちの楽しげな声が聞こえてくる。そして、窓から見える壁の向こうでは大きな建物から煙があがっている。時は1945年、アウシュビッツ収容所の隣で幸せに暮らす家族がいた。



どこにでもある穏やかな日常。しかし、壁ひとつ隔てたアウシュビッツ収容所の存在が、音、建物からあがる煙、家族の交わすなにげない会話や視線、そして気配から着実に伝わってくる。その時に観客が感じるのは恐怖か、不安か、それとも無関心か? 壁を隔てたふたつの世界にどんな違いがあるのか?平和に暮らす家族と彼らにはどんな違いがあるのか?そして、あなたと彼らの違いは?

公式より

 この映画にはあらすじっていうわかりやすい何かはないので、公式にあった紹介文を抜粋。多分予告動画を見た方がわかりやすいと思う。


感想

 予告編以上の情報をまるっきり入れてなかったから、この映画を勘違いしていたんだと思う。ここまで何も起きないとは思わなかった。ひたすらにホームビデオを見させられているような感じだった。退屈で画面が埋め尽くされていた。スクリーン上で起こっていることだけを読み取るなら、あまりにもつまらない映画だった。寝る人さえいるんじゃないかと思うぐらいに、面白みのないホームビデオだったよね。

 もちろん、この映画はあえて観客の目を引くようなドラマが起こらないように作られている。大虐殺が行われていたアウシュビッツ強制収容所の隣では、こんな退屈な家族の日常が繰り広げられていた。そう対比させるのが狙いなんだろうね。そして、この映画は画面外で起こっていることを、収容所で起こっている恐ろしいことを想像するように求めてくる。「関心」を持って映画を見ているのであれば、後ろで流れる音や、登場人物たちのセリフや、画面の端々に映るものから想像できるよね? 刺激的で面白いものにしか「関心」が持てないのであれば、あなたはあのいけ好かない奥様と同じだよね? そうやって映画が観客をぶん殴ってくる。

 困っちゃうよね。厄介な映画だよね。ボクはもうちょっと娯楽性のある映画だと思ってたんだけど、観客に接待してくれるような甘い映画ではなかったね。

 この映画は音が主役とよく言われている。画面の外で起こっていることを音で表現している。実際に起こっていたアウシュビッツの虐殺を一切画面上には映さず、人々の怒鳴り声、悲鳴、よくわからない叫び声、銃声など、一家の日常の裏側に当たり前のように入ってくる。あまりにも不穏すぎる。

 この異常な音の中で、平然と日常生活を送っていた一家のヤバさが際立つ。収容所の所長である夫のルドルフ・ヘスは当然何が起こっているか知っていたし、夫人のヘートヴィヒ・ヘスも知っていたらしい。そうなると使用人たちも知っていたのだろうね。子供達がどう思っていたのか、一箇所だけ男の子が収容所の声に反応してセリフを言うシーンがあったぐらいで、詳しい心情まではボクは読み取れなかった。たぶん、おかしなことが起こっていることは分かっていても、両親が平然としているから慣れてしまったんだと思う。

 そして、観客であるボクも割と音に慣れてしまっていた。銃声や悲鳴も割と頻繁に鳴っていたので、また鳴ってると思うぐらいには慣れてしまった。映画を見ている最中でさえ、関心が低下してしまった。ボクもヘス夫妻側の人間ということなのかな。

関心を持つということ

 この映画の制作には10年ぐらいかかっているらしいので、ウクライナの戦争も、イスラエルとパレスチナのゴタゴタも起こっていなかったので、特定の事象に対するメッセージが込められているわけではなさそうだ。だけど、イスラエルがめちゃくちゃやり始めたタイミングでこの映画が公開されて、アカデミー賞も受賞したんだから、偶然ではあるけど皮肉が効いてて面白いね。

 しかし、迫害されることの痛みを知っているはずのイスラエルがこんなことをやり始めたんだから、あらゆる蛮行に人種なんて無関係で、人間という生き物の本質が終わってる、ってことなのかもしれない。

 で、この映画のメッセージらしきものは、関心を持て、眼の前で起こっていることから目をそらすな、関心領域を広げろ、そんな感じだとは思うんだけど、なかなか難しいよね。ボクは映画の中でさえ、音に慣れてしまって、半分ぐらいは飽きていたので。

おわりに

 ボクはエンターテイメントが好きな人間なので、この映画は面白くなかったと思う。もちろん、面白さを一番に評価するような映画ではないことは分かっているんだけどね。描かれていない部分を想像させるという手法は面白くはあるんだけど、映画の最中ずっと音に注目するっていうのはしんどかった。一家の生活にイベントや事件を起こして、面白くしても良かったんじゃないかなと思う。まあ、面白くすると肝心な音から意識がそれてしまうから、あえてやらなかったんだろうけどさ。

 で、こういうことを書くと、お前は面白いことにしか関心が持てない最低なやつだ。ヘス夫人と同じ関心領域しかない。ろくでなし! と殴られるんだよね。

 この映画の批判が目につかないのは、そう言うメタ的な意味で反ユダヤ主義とレッテルを貼られないようにしているのかもしれないね。特に欧米の人たちは。

 本当に厄介な映画だよ。

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