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邪悪なのはいつも人間 | 映画「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」感想

 ⚠️ ふんわりとネタバレ気味です

 映画「鬼太郎誕生」ってことなので、悪い妖怪退治しつつ鬼太郎の出生の秘密に迫るような話の映画かなと思っていたんだね。だけど、出てる情報を見るとちょっと違うようだ。しかも、見た人の評判がいいってことで見に行ってみた。

あらすじ

廃墟となっているかつての哭倉村に足を踏み入れた鬼太郎と目玉おやじ。
目玉おやじは、70年前にこの村で起こった出来事を想い出していた。
あの男との出会い、そして二人が立ち向かった運命について...

昭和31年―日本の政財界を裏で牛耳る龍賀一族によって支配されていた哭倉村。
血液銀行に勤める水木は当主・時貞の死の弔いを建前に野心と密命を背負い、また鬼太郎の父は妻を探すために、それぞれ村へと足を踏み入れた。
龍賀一族では、時貞の跡継ぎについて醜い争いが始まっていた。
そんな中、村の神社にて一族の一人が惨殺される。
それは恐ろしい怪奇の連鎖の本当の始まりだった。
鬼太郎の父たちの出会いと運命、圧倒的絶望の中で二人が見たものは―

公式より

 本編は昭和31年の田舎の村が舞台。戦後、田舎の因習が残る村で一族が跡継ぎ争いしている。っていうと、もう横溝正史の世界って感じがしてワクワクするよね。実際そう言う感想をポストしてる人もいたので、これは見に行くしかないって突撃したわけなんだ。

 上映時間は2時間よりちょっと少ないぐらい。アニメだから90分とかそういうこともない。内容が大人向けだから長めなのかな。

感想

 めちゃくちゃ良かった! 面白かった! 

 って書くとなんかとても良い話のように思われるかもしれないけれど、あらすじにとある通り、この映画は横溝的だから本当に酷い話なんだよ。救いも何もない。ひたすら陰惨で、血みどろで、残虐で、ゴミみたいな人間ばかり出てきて、嫌になるぐらい胸糞悪いんだ。

ポスター画像が内容を象徴してる

 だけど、鬼太郎の父親と、主人公である水木の視点から物語を見ると、決してバッドエンドではないんだね。二人とも目的を果たしているし、未来への希望は繋がっている。本当にどうしようもない悪人ばっかりで嫌になるけどね。

人間の主人公水木

 水木って名前がついているので、当然、原作者水木しげるの戦争体験を反映させた人物になっているんだと思う。戦争で南方へ行って、米兵陣地に玉砕突撃を命じられたけど、なぜか生き残ってしまった。そして、無茶な命令をする権力を持った人間を信じられず、使い捨てにされないためには自分が権力を持つしかないと、社会でのし上がろうとしている。野心家。

 僕もあまり詳しくは知らないけど、水木しげるが太平洋の島で酷い目にあったって言うのは有名な話だし、それを作品にもしているよね。(総員玉砕せよ!)

鬼太郎の父親

 目玉のオヤジにまだ体があった頃の姿。カッコいい。名前は出てこない。水木からはゲゲゲのなんとか(忘れた)と呼ばれている。鬼太郎の父親だから幽霊族。人間と見た目の違いはほとんどないけれど、めちゃくちゃ強い。身体能力がとんでもねえ。そしてカッコいい。鬼太郎と違って大人の体だから肉弾戦が映えるんだよね。他に戦えるのがいないので概ねバトルシーンは鬼太郎の父親が担当。

 この鬼太郎の父親はさらわれた妻を探しに探しにきてるんだね。奥さんも幽霊族なんだけど、回想シーンではかなりの美人さんで、鬼太郎の父親もベタ惚れなんだ。そして、この奥さんへの愛こそが、この救いのない映画の中でも唯一の光になっていると思う。再会したひどい姿の奥さんに、普段と変わらない嘘のない言葉をかけるところ、血で汚れたきったこの作品を洗い流すような清流だよね。

悪いのは人間

 この映画、邪悪な人間ばっかり出てくるんだね。龍賀一族はみんなどうしようもなく吐き気のするクソばかり。龍賀一族に飼われている陰陽師の集団も殺人を当たり前に行う暴力装置。村に住んでいる人間たちも殺人を受け入れて、龍賀一族の悪事に協力している。水木の所属する血液銀行も龍賀の秘密を得ようとしている悪巧みしている。

 ここに出てこない人間だって、間接的に幽霊族を地上から追いやり、絶滅に追い込んでいる。もちろん、地球上の生存競争と考えると人間が悪というわけでもないだろうけども。

 ここまで醜悪に人間を描けるのは、マイノリティである幽霊族を主人公にしている作品だからだろうか。水木しげるの思想的な何かがあるんだろうか。鬼太郎のアニメシリーズも人間の悪い部分を皮肉るような話は多いけど、この映画ほど振り切ったものはなかったよね。

それでも人間に託す鬼太郎の父親

 最後の最後、奥さんとお腹の中の子供を水木に託して逃がそうとするんだけど、鬼太郎の父親からすると、幽霊族は人間から本当に酷い目にあわされてるんだよね。いくら行動を共にした水木とはいえ、人間に自分の1番大事なものを託すのかという感じはあった。だけど、大事な子供が生きていく世界には人間が大量にいるわけで、結局のところ、まれにいる良心のある人間を信じて託すしかないんだろうね。

 未来を信じて託した結果、最終的に現代において出会うのが、あの可哀想な時弥くんっていうのが、もうマジで泣いてしまった。つらい。

特典

特典

 この特典の中身は映画見てから見ると、これは鬼太郎の父親の叶えられなかった願いなのかな、って思うとなんかもうなんとも言えねえって気持ちになるね。

おわりに

 鬼太郎だから妖怪退治って安直に考えがちな自分をぶん殴ってやらなければいけない。もちろん、妖怪とは戦うけど、話の流れで妖怪が敵に利用されて出てくるから、戦うしかないというだけで、妖怪退治が目的ではないんだよね。

 横溝正史的な舞台の作品が好きな人には原作をそんなに知らなくてもおすすめです。

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