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予想外に面白いホラーエンターテイメント 映画『貞子DX』感想

以下、ネタバレには一切配慮していません。

雑感

見る予定はなかったんだけど、なんとなく見てきた。
正直、全く期待していなかった。前情報も全く入れなかった。どうせ、使い古したJホラーを劣化再生産した映画なんだろうと思っていた。完全に舐めきっていた。だが、それがどうだろう。完全に期待を裏切られた。思っていたのと違った。Jホラーだと思っていた映画は、ホラーに振り切らず、ホラーを基本線としながらも、ミステリーとサスペンスとコメディーが絶妙な配合で混ざり合っていたようなユニークな映画に仕上がっていた。最初は批判する目線で見ていたのだが、次第にあれこれ面白くね? と思い始め、最終的にはめちゃくちゃ楽しんで鑑賞できた。面白かった。見に行ってよかったと思った。

あらすじ

で、実際、どんな映画かというと、
まずは、めんどくさいので公式のあらすじを引用。

“呪いのビデオ”を⾒た⼈が24時間後に突然死するという事件が全国各地で発⽣。
IQ200の天才⼤学院⽣・⼀条⽂華(⼩芝⾵花)は、テレビ番組で共演した⼈気霊媒師のKenshin(池内博之)から事件の解明を挑まれる。呪いがSNSで拡散すれば人類滅亡と主張するKenshinに対し、「呪いなんてあり得ない」と断⾔する⽂華だったが、興味本位でビデオを⾒てしまった妹の双葉から⼀本の電話がかかってくる。
「お姉ちゃん助けて。あれからずっと⽩い服の⼈につけられてて……」
⽂華は「すべては科学的に説明できる」と、⾃称占い師の前⽥王司(川村壱⾺)、謎の協⼒者・感電ロイド(⿊⽻⿇璃央)とともに、<呪いの⽅程式>を解明すべく奔⾛する。
しかし24時間のタイムリミットが迫る中、仮説は次々と打ち砕かれ――。

https://movies.kadokawa.co.jp/sadako-movie/

この映画の世界では昔の映画版「リング」1998年の出来事が実際に過去にあった事実として存在している。過去の都市伝説として語り継がれている。そして、そのビデオが現在に蘇って、再び呪いをばらまいて人がバタバタと死んでいるところから始まる。

あらすじにあるようにIQ200(この設定いるのかなあ。わかりやすい天才って設定なんだろうけど)文華と周りの人たちが呪いのビデオを見てしまったことにより、呪いを解くためにトライアルアンドエラー(劇中の台詞)することになる。

昔のリングと比較して、現在2020年代になってSNSの時代だというのを大きく反映した作りになっていると思う。そうじゃなければ、呪いのビデオという設定の映画を蘇らせる必要もないのかもしれない。

良かった点:貞子で怖がらせようとしなかった

ホラーに振り切らなかった点だと思う。
僕の不安点として「貞子DX」とタイトルにある通り、貞子が出てくるのである。貞子といえば1998年のリングでは僕を恐怖のどん底に落とし込んだ凶悪な幽霊、怨霊である。僕はTVから出てくる貞子に心底ビビったものである。だが、あまりに貞子は偉大だった。怖すぎたから、続編だとか、スピンオフだコラボだと、よくわからないけど、映画やドラマにとどまらず、ゲームだとかマンガだとか様々なところに進出した。この24年の間に貞子はキャラクター化してしまったのだ。

幽霊のキャラクターなのだから妖怪みたいなもんだろう。白い衣装と長い髪の貞子は、現代の女幽霊の原型に近い存在になっている。女幽霊といえばの定番化している。そんな貞子がメインで出てくるのである。はっきり言って貞子はもう怖くない。妖怪化した貞子で怖がることはできない。鬼太郎の敵妖怪が怖くないように、キャラクター化したものは怖がれない。(もちろん現実にそれが現れれば怖いけど)だから、これが本当に純粋なホラー映画だったら、本当につまらなかっただろうなと思う。だって、怖くない貞子を怖がらせようと試行錯誤する映画なんて面白いはずがない。例えるなら、タクシーの後ろの座席がビショビショになる女の幽霊の怪談で、現在、誰かを怖がらせることができるだろうかということだ。

うちにあるリビングデッドドールズの貞子さん。大昔に買った。

この映画はその点を完全に捨てている。貞子で怖がらせようとしていない。なぜなら、呪いのビデオを見ると24時間後に死ぬことになるわけだけど、24時間の間ずっと貞子っぽい存在に追われることになる。貞子っぽい存在がずっと画面にいるのである。貞子がいるのが珍しくないのだ。もう怖くない。

また、妹が初めに呪われて貞子に追われることになる。貞子にずっと追われていると思いきや、その正体はハゲた親戚のおっさんだった。親戚のおっさんの姿をした幽霊だった。というシーンがある。あれは完全に笑わせにきている。効果音や間や演出もそれを狙っていた。貞子で怖がらせることを放棄しているのである。そこが本当に良かったと思う。貞子で怖がらせようとしなかったことが、貞子映画の別の可能性を提示したのではないかと思う。(貞子VS伽椰子は見たことないです)

怖さを台無しにしていたというと、クライマックスのシーンで4人が貞子の世界に取り込まれた時。4人並んで立って苦しんでいて、現実の世界にいる感電ロイドの視点から見る絵面が異常にシュールすぎた。あそこはおもしろシーンだと思った。そして、感電ロイドが「一回転しちゃだめだ!」とか言ってるところ、マジで怖がらせる気ない。あれは面白セリフだ。あの4人並んで一回転して死んだら、絶対ギャグにしかならないし、そもそも、なんで死ぬ時に一回転させられるんだよっていう。最後のシーンで、貞子に井戸の中に引っ張り込まれるのが、一回転に繋がっていると解釈したけど、それにしても、死ぬ時に一回転って怖がらせる気が皆無すぎる。占い王子の彼女が一回転したところも、Kenshinが一回転したところも怖さよりもヘンテコさが勝っていたし。

TRICK風味

なんか見ていてTRICKっぽいなあと感じていた。
具体的にいうと、連発される小ボケ小ネタ、間、効果音、主人公の冷静なツッコミ。そのツッコミがなんか主人公が山田に見えたのだ。さらに胡散臭い宗教家(Kenshinは霊媒師)の奇妙な儀式もまたそこはかとなくTRICK風味を感じた。オカルトに対して論理的な解決を試みる点なども似ている。(これは呪いなので隠されたトリックはないわけだけど)
もちろん、ホラーなのでTRICKほどコメディーに振っているわけではないのだけど、緊張が高まったらそれを緩和するように、小ボケや小ネタが挟まれる。これなんだろうなあと思って、帰ってきたら監督の名前で検索してみたら簡単に答えが見つかった。

監督の木村ひさしさんは、普通にTRICKの製作者だったのである。
僕はあまりドラマとか見ないので、もしかしたらこの木村ひさしさんの作風であって、TRICK風味なのではないのかもしれない。まあ、僕がTRICK風味を感じたということなので、それは嘘ではない。

とにかく、このTRICK風味がホラーに振り切らないために本当にいい味になっていた。シリアス一辺倒だったら見ていて辛いところを、緊張の緩和に役立っていた。相棒役、占い師の前⽥王司(占い王子)のボケと天然と小ネタと主人公のツッコミの心地よさがあった。主人公に近すぎるって何度も言われるところとか、何度もボディータッチをしようとして拒絶されるところとか、動きのキレがよかった。

占い王子

主人公の相棒役である占い王子は、序盤で死ぬ女の彼氏?として出てくる。呪いで死ぬ瞬間の動画を撮影する役割を担っている。後でまた登場した時は、呪いの効果を補強するために死ぬモブ役かなと思っていた。(僕がこの役者の人を知っていればそうは思わなかったのかもしれない。EXILEの人らしい)そうしたら、次第に存在感を増していって、相棒役のポジションまで昇格して、最後まで生き残っていて驚いた。

この占い王子が、この映画のコメディー要素の要になっている。占い王子はリサイクルショップを経営している? ようだ。いかにも流行ってなさそうな場所で、よくわからないガラクタがたくさんある店内。そして、その2階が彼の住んでいる部屋。部屋の中は物が散乱して汚れている。占いの入門書が複数目立つ場所に置いてあり(インチキ占い師)、占い王子の自作のポスターが貼ってあったり在庫が置いてあったり、配信用? リモート占い用? に王子っぽい椅子と、その周りだけきれいな空間があったり、もうすごい胡散臭い。この胡散臭さがいい味出してるし、TRICKのみんな胡散臭い感じと通じるものがある。

エンディングでもリモート占いをしているのだけど、それがもうまた胡散臭い。占いというよりは、病んだ女にいいこと言って口説いているようなもんである。このキャラクターが真面目な登場人物たちの中で異彩を放っている。占い王子がいるからこそコメディーになり得る。逆に、占い王子がいなかったら、時々小ネタが交じるホラー映画になっていたかもしれない。

Kenshinも十分すぎるほど胡散臭かったけども、彼は犯人という役柄だし、ボケたりツッコまれたりするキャラではない。

細かい部分

貞子のビデオは1998年だからVHSだ。現在にはそんな物を見れる環境のほうが少ない。主人公の家にも押入れの中にあった父親のVHSデッキを高校生の妹が引っ張り出して見ているのだけど、ビデオデッキの接続端子は3色のRCA端子である。(コンポーネント端子だと思っていたけど、RCA端子とは色が違うみたいだ)で、妹は高校生で平成後期生まれだろう。VHSとテレビの接続なんてできるのだろうかという疑問があった。そもそも今のテレビに3色端子ってついているのだろうか。僕の部屋にある2011年製造のソニーのテレビにはついているけど、価格コムで見てみると最近のテレビには付いていないようである。
まあ、どうでもいいことだけど、妹はVHSを視聴可能だったのだろうかという点は気になった。

あとは、主人公のポーズが気になった。
両手の親指で両耳の付け根あたりを押さえるやつ。あれは過去の記憶を思い出す時にやるポーズのようだけど、あれはどんな意味があるのだろう。何かの元ネタがあるのだろうか。イマイチわからなかった。
占い王子の鼻の下をこすってキザな決め台詞を言うやつもなにか元ネタがあるのだろうか。あれはなさそうな気がするけど。

他にも大量に拾いきれないネタがあったのではないかと思う
・テレビ局で出会い頭にキグルミに驚かされる演出が2回、大学で同じような状況で教授っぽい人びっくりする演出。なんか意味があったのだろうか。
・警察署で、警察官が2人いきなり現れて去っていくシーン。何かのネタだと思う。TRICKの警察の人?
・貞子から逃げたあとで、真っ白の服で黒髪の女にびっくりして文句を言われるシーン。あの女の人も何かありそう。
まあ、分からないネタがあったとしても、それは映画の楽しさを毀損するものではないし気にしなくてもいいと思う。

あとは、SNSで貞子の動画が拡散してパニックになった様子が描かれなかったなと思った。動画が拡散してみんな貞子が見え始めれば大騒ぎになるもんだろうけど、そういった描写がなかった。24時間という短い間に解決される事件だったので、そういったパニックが起きる前に解決したと言えばそうなのかもしれない。

結論

面白い。Kenshinが何度も言っていたように、これはエンターテイメント。ホラー映画ながらも多くの人が楽しめるような上質なエンターテインメントだったと思う。

おわり😁

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