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めだか日記:めだか

「ボクは、「めだか」に生まれたことを後悔している。」

メダカの学校ではみんながボクを避けていた。
ボク一匹だけ「めだか」だからだ。
学校はボクを異端者だと言う。
そんなボクを可愛がってくれたのは
飼い主の海斗君だけだった。

ある夏の日、うだるような暑さの中、
彼はボクを選びこう言った。
「僕、この大きい子がいい!
お母さん、この子にしようよ!」
生まれて初めて自分が認められた気がした。
生まれて初めて自分が肯定された気がした。
生まれて初めて【幸せ】を知ったのだ。

その後、彼はボクのために水槽まで用意してくれた。
毎日愛おしそうに餌をくれた。
時々水槽の掃除もしてくれた。
夏休みの宿題に観察日記があるらしくて、
ボクの身体の大きさを水草と比べていた。
たまに水槽越しに定規で測ってくれた。
だけどボクは気づいていなかった。
彼の目が好奇から嫌悪へと変わっていることに。
今思えば、どんどん大きくなっていくボクが
不気味だったのだろう。

ある日、海斗くんは言った。
「こんなのもういらない。気持ち悪い。」
「だから言ったでしょう、変なモノ飼うからよ。」
ショックだった。悲しかった。
自分で育てておいて「こんなの」だなんて、
「気持ち悪い」だなんて。
この子は、生命も玩具のように弄ぶんだ。
(ボクの気持ちなんて考えたこともないんだろうな)
そう思った、その時だった。
悲しみは絶望に変わり、やがて憤りに変わっていった。

代わればいいのに、あいつがボクの代わりに
捨てられればいいのに。
ー代われ代われ代われ代われ代われ代われー
ふと、自分の目線がいつもより高いことに気が付いた。
「僕」は水槽を見下ろしていた。
その中の、一匹のメダカに目が行った。
見慣れた姿だった。改めて見てみると確かに気持ち悪い。
大きすぎて、見た目も醜い。明らかに異常な個体だ。
(あれは「ボク」だ。いや、もう「彼」というべきか)
僕は迷いなくそれを生ごみに捨てた。
(今日から僕が、雨野海斗だ。)

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続編が6/9日曜日の18:00に出ます。
お楽しみに。

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