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めだか日記:雨野海斗

「僕の何がだめだったんだろう。今になってもわからないや。」

学校ではみんながボクを讃えていた。
文武両道、おまけに顔も良いからだ。
だけど僕には誰にも言えない趣味がある。
「僕は、生命を弄ぶのが大好きだ。」
蟻を潰して遊んだり、蝶の羽を毟ったり、
蛙に石をぶつけたり…そんなことをしている時間が
一番【幸せ】だ。
自分が他の生命とは違う、
上位の存在であることを再認識できるからだ。

僕には一つ、疑問がある。
他の生命は感情を持っているのだろうか?
犬や猫には感情があることを知っているが、
蟻にはあるのだろうか?蝶にはあるのだろうか?
蛙には?魚には?とても気になる。
(もしあったとしたら、僕に殺された瞬間、
みんなどんな感情だったんだろう)

夏休み前、学校から観察日記の宿題が出た。
僕は母と共に、ペットショップに向かった。
できれば仲間からも虐げられていそうな
異常な個体を見つけたいと思った。
その時、見つけたのだ。
【絶望】を感じていそうな「めだか」を。
他のメダカより一際大きいが、
まだ成長途中だという。
おまけに、小さなこぶがある。
「僕、この大きい子がいい!
お母さん、この子にしようよ!」
これが、全ての始まりだった。

その後、僕は「めだか」のために水槽を用意した。
毎日餌をやった。
水槽の掃除もやった。
死んでもらうと困るからだ。
夏休みの宿題の観察日記のために、
「めだか」の大きさを水草と比べた。
だんだん大きくなってきて、
水槽越しに定規で測るようになった。

僕はうきうきしていた。
「めだか」はどんどん醜くなっていくのだ。
母は気味悪がっていたが、そんなことなどどうでも良かった。
(お前は、一体いつになったら【絶望】を見せてくれるんだ?)
しかし、いつまで経っても、「めだか」は絶望しなかった。
今思えば、家の環境が快適すぎたのだろう。

夏休みが終わる頃、僕はもう「めだか」に飽きた。
(こいつはだめだ。【絶望】が感じられない。)
そして、僕は最高に絶望を煽るシチュエーションを思いついた。
「こんなのもういらない。気持ち悪い。」
「だから言ったでしょう、変なモノ飼うからよ。」
これでどうだ?
思った通り、「めだか」はショックを受けていた。
ようやく終わったのだ。僕の壮大な「実験」が。
魚にも「感情」があったのだ。

悦に浸っていた刹那、それは起きた。
ふと、自分の目線がいつもより低いことに気が付いた。
(なんだこれは、水の中か?なぜ呼吸ができる?)
「あいつ」は僕を見下ろしていた。
(ふざけるな!下等生物の分際で!僕の身体を返せ!)
そう言っても、水の泡になるだけだった。
水槽のガラスに反射した僕の姿を見て衝撃を受けた。
(なんだこの姿は!気持ち悪い!気持ち悪い!!気持ち悪い!!!)
僕は持ち上げられた。息ができない。苦しい…
薄れていく意識の中でも、僕には反省などという
気持ちは湧いてこなかった。
(これでもう、終わりなのか。)
僕は生ごみに棄てられた。

ーーー
これで「めだか日記」シリーズは終わりです。
生命は大切にしましょうね。
次のシリーズは6/16日曜日に出ます。

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