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セフレが欲しい! 第2話 LINEのID教えちゃダメ!絶対!

 大好きな入浴剤を入れ、軽快に好きな西野カナを口ずさみ気分が高揚していた私はやけに携帯がうるさいことに気がついた。
 友達の居ない私に電話してくるやつなんてまず居ない。そもそも、私は顔を見ないで会話するのが嫌いだ。言葉というのは平然と人を裏切る。目は口ほどにものを言う。いや、むしろ口よりも目が全て語る。それの見分けがつくのは私が土偶だからだろう。

「なんだようるせえな……」

 今ちょうどサビ部分だ。基本好きな曲は粗方無音でも歌えるので携帯のブルブル音が私の幸せカナちゃんワールドを破壊した。
 LINEだって家族以外から殆ど来る事はない。
 驚いた事に、メールの件数が100を超えていた。おいおい、ウイルスメールかと思い削除に追われた頃、ふと題名を見る。

はじめまして! プロフィールを見て来ました。ガンダムはどれがお好きなんですか?

はじめまして。一緒にカラオケいきませんか?

40代独身です。趣味が近いのでメッセージ送らせていただきました。

 何だこれ??一体何があった?
 私は風呂に入りすっかり出会い系サイトに登録した事を忘れていた。

「ああ! こうやって連絡が来るのか!」

 何ともアホな事に、フリーメールではなく自分の携帯メールを登録していたので、男性からのメッセージが全て携帯に届いた。とてもじゃないがこんなの鳴り続いたら私のiPhoneが悲鳴を上げてしまう。
 フリーメールに移動させようかと悩んだが、私は以前ホームページを運営していた時にHotmailを盗まれている。それ以来Hotmailは使えず、同時にそれでやってたFacebookは閉じ、LINEも全部変える羽目となった。
 あれからSNSは極力展開しないようにしている。またメルアドを盗まれてしまうと色々手続きに困るからだ。

 別にこれは出会い系。まあフリーメールでもいいかなと正直思ったが、やっぱりやめた。
 出会い系だからこそ、フリーメールのアドレス検索されて抜かれてしまったら本末転倒だ。

 壊れかけた座椅子に座り、どれどれとパソコンを開くと驚いた事にサイトのメールは更に増えていた。
 メールのアイコン部分に250の文字が。
 え、何これ、バグ?
 てか、もしこれ全部私への求愛だったら人生最高のモテ期じゃん!
 見ているか姉よ! 土偶と呼ばれた妹はついにモテ期到来したぞ!!

 なんて独り言とガッツポーズを作り、いそいそとメールを確認する。
 ただ、残念な事に殆どが俗に言う「ヤリモク」だった。何でそんなにヤリたいんだ? 出会い系で茶飲み友達を求めるのは変なのか?

 はっきり言って私は性欲が強い。これもまあ中学の時に親友から借りた一枚のB L CDが全て私の価値観を変えた。
 好きな男性声優さん同士の艶かしい喘ぎ。当時失楽園すら恥ずかしくて観る事ができなかった私の人生を180度変えたと言っても過言ではない。

 それから看護師になり、ひたすらB Lを漁った。でも田舎ではなかなか手に入らず、そもそも唯一、一件だけあるアニメイトが出来たのは私が東京に出る数年前だったと思う。
 もうとにかく買った。ひたすら買った。俗に言う『大人買い』ってやつだ。小説は200以上、好きな声優さんが出ているドラマCDは何でも聞いた。当時150枚くらいは買ったと思う。手に入らないものは通販にまで手を伸ばした。
 本当に、東京で結婚するまでは楽しい腐女子生活を謳歌していたと思う。

 そんな私だが、ヤリモクに対しては警戒する。だって初対面の男と会って、それが目的ならば私は有り金奪われて東京湾に沈められるんじゃないか? と考えた。
 大体、相手は男だ。いくら私が167センチある女の中ではまあまあの巨人とは言え、男性相手だと流石にサシで勝てる自信はない。
 一応、護身術は粗方頭に入れているが、あれを実践したのは新人の時に低酸素血症でとち狂って暴れた100キロの若いおっちゃんをベッドに羽交い締めにした時だけだ。

 残念な事に、私がウキウキしたメールの9割は「ヤリモク」だった。どう返事して良いのか分からなかったが、全てに丁寧に返信した。

はじめまして!メッセージありがとうございます!すいません、私は趣味と茶飲み友達を募集をしているので、ご期待に添えないと思います。大変申し訳ございません。

 すると数秒後にまた違うメールが届く。まてまて、私は明日も仕事なんだよ、こんなイタチごっこに付き合ってられない。

ご丁寧に返事ありがとうございます!ではお友達からではどうでしょうか?


茶飲み友達募集なら最初からそう書いておけボケ。


こっちは金払ってんだ。

 男性の反応はさまざまだった。
 どうやら、出会い系サイトにはサクラと呼ばれる女を装った業者が多く、大体お金を払って登録している男性側が女にひたすらメッセージ送り、運営が儲かる仕組みなのだろう。
 最初登録の際に男性は○○円、女性は無料と書いてあったのを思い出す。
 中には辛辣な人も多くいたが、全部に返信した。もう9時には風呂から出ていたのに、気がついたら0時を回っていた。
 出会い系サイトって、こんなに大変なのか……

 翌日、仕事の休憩中に恐る恐る携帯画面を開くとまたメールの通知が100を超えていた。多分、昨日とまた同じ事の繰り返しになるだろう。
 実は、この時もプロフィール作成の最初に登録したタグに気がついていなかった。
 茶飲み友達は欲しいけど、仲良くなったらセフレも欲しい!って事で大人な関係? みたいなのにチェックしてしまつまた事が要因だ。

 でも一度でいいから、経験値の豊富なダンディさんに抱かれたい! これもまあ散々読み耽ってヨダレを垂らしたB L脳が働いた結果なのだが。

 仕事を終えていそいそパソコンを開く。返信作業はノートパソコンでないととても追いつかない。返信しては酷いと1分以内に同じ人から連絡が来たりする。何この人たち、正座待機でもしてるのか? と疑いたくなる。

 レーシック手術をした事で土偶の目は一重から完全二重になり、一部の人には整形でもしたのか? と疑われた。でも目を細める癖を治さないと土偶に逆戻りだ。
 幸い一回のやり取りで消えてくれる人が多かったので、私は何度か連絡続いた人とメッセージのやり取りをした。
 その人は学校の先生で、41歳らしい。まあ年も近いし、教員という手堅い職種なら多分変な展開にはならないだろう。そう考えてメッセージを続け、ある日その人から

LINEの方にしたいのですが、難しいでしょうか?ご検討お願い致します。

と返事が来た。
 なんだか知らないが、ポイントってのは凄まじい勢いで溜まってたが、そのポイントが貯まると現金換算とか出来るらしい。
 でも、結局は男性がシコシコメッセージ送った大金の何%のレベルなわけだから、結局男性をこのメッセージでいかに惹きつけるかが勝負なんだろうな。
 正直、3000ポイントなんて貯められるわけ無かったし、毎日続くメールラッシュにも少し疲れたので彼にLINEのIDを教えた。

 この人とは結局会うには至らなかったのだが、理由は2つ。


 会話がつまらない。



 性格なのか、職業柄なのか、とにかく会話がつまらなかった。それに趣味も全然合わないので会話が噛み合わない。この人は一体なぜ私に連絡してきたのか尋ねると不思議なLINEがまた来た。

お小遣いは必要ですか?

 いや、もう36歳っす……。お小遣いなんて貰えるレベルじゃないでしょ。
 しかしこの業界のお小遣いは子供のお駄賃とは違う制度というのを私は知らなかった。

私と付き合う条件は以下の四つ。
1、週2回、必ず会うこと
2、他の男と連絡を取らない
3、お小遣いはその時の状態で
4、会う場所は○○


 めんどくせえ。
 なんだこれめんどくせえ。


 束縛されてみたい! なんて漫画みたいな事を思ったが、1だって仕事と体調次第で達成出来そうもない。3は意味わからないし、4は行けるのかもわからない。
 どうせLINEだからわからないだろうと思い承諾したものの、この人から来た翌日のLINEがあまりにもつまらなかったので、私は速攻お別れの返事を書いた。

ごめんなさい。○○さんとはちょっと趣味が合わなくてしんどいです。出会い系サイトですし、他にも沢山女性が居ますから、どうぞ私ではなくそちらをお探し下さい。ご期待に添えなくて申し訳ありません。

 我ながらつまらない男に真面目に返信したつもりだった。しかしフラれた事が癪に触ったのかこの教師は激昂した。一度も通話して来なかったので、多分相当な陰キャだったと思う。
 長文LINEで散々私は罵られ、挙句お前のような人の気持ちが理解出来ないクズに生きる価値がないとまで言われた。いや、会った事も喋った事もないのに屑呼ばわりされたのは初めてだよ。
 お前本当に学校の教師なのか? と疑いたくなるくらいの展開だ。反論しようかと思いこういう血が上った人間に何を言っても無駄と思い。ごめんなさいと入力した数秒後、最後は吐き捨てるようにブロックされた。
 まあいいやと放置していたらその翌日から知らない人が私のLINEに急速に増えた。まさかウイルスかと思うと、ある知らない一人が

あなたのLINE ID、○○に晒されてますよ?

と教えてくれた。
 それがアングラ系サイトだったのは言うまでもない。怖くて確認はできなかったが、100人近い人間をブロックし、慣れないLINEの IDから登録をブロックするのに苦労して、その日は疲れ切って眠りについた。


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