台風の目をずらした女

今日の朝５：５０分の時点では、灰色の雨が降っていた。
このままだと遠方から出勤するスタッフ二人が厳しいかもしれない。まして上長も確か１時間以上通勤にかかっているはず。そうなると動けるのはチャリ組の看護師・葵、キンチャン姉御、ほんわか先輩、お風呂のおねーさん（こう書くとなんとなくえっちぃから嫌だね）の４人とドライバーのおっちゃん一人のしかいない。

ううむ、仕方がない。今日は早く出勤しよう。
そう思ったわたしは昨日から準備していたリュックサックにいつも使用しているショルダーバックに貴重品をつめこみ、エコバックの中にビニールとタオル、肌着とパンツ、ブラジャーに替えの靴下まで準備して詰め込んだ。

一体どこに行くのだろうわたし。

雨合羽を着ていざ出勤。

「呼んだ？」「いや、きみのかっぱじゃないよ」

あれ、おかしい。７時半過ぎの時点でもバケツをひっくり返したような雨が降ったりやんだりを繰り返していた。わたしの装備は万全だ。靴は職場にもう１足あるので、ついたらそっちに履き替えたらいい。２９８０円の優秀な甲高靴はそんじょそこらの長靴よりも水はけと乾きがいい。

雨合羽で出勤するわたしは焦った。この程度の雨だったら、普段の準備でよかったじゃん！！
背中に背負ったリュックが暑い。背中が汗でべとべと。
そして明らかに浮いている。周囲に普段は戦友として走るチャリ軍団がこういう時に限って夏休みかお盆で不在ときたもんだ。

米津さんのメドレーを聞きながら心の中は焦っていた。やべえ、こんなにムダな準備して何も使わなかったらあほじゃん。天気予報では間違いなく昼から直撃だったのに。

せっかくのカッパさん、出番がなかった( ﾉД`)ｼｸｼｸ…

職場到着。まだ雨はうっすらと小雨レベル。なんてこったい！！

泣く泣く持参した着替えを持ち、結局トイレでひとりストリップショー開始。いや、だってせっかく持ってきたんだし、ここで替えないとムダでしょ。まさに替えるのは今でしょ！！

しかし靴下はほとんど被害なし、ブラは汗かいていたので交換、パンツもいつも通り汗だくなので交換。肌着も持ってきたのは正解だったかな。
あと首にタオルを巻いてスパッツを履いて準備OK。その上からユニフォームとジャージ。

あまりにも雨に滴るいい女……じゃない、水も滴る～になりたかったのに、全くなれなかったくやしさから、いつも仲良い８６歳のお客さんに報告した。

今日台風直撃だって言うから、パンツまで着替え持ってきたのに、
神様が「お前のヌードなんて見たくないから」って雨を全然降らせてくれなかったんです。

それは仕方がないな。神様だって、若くて可愛い子がいいに決まっている。

でも、わたしが完璧に着替えを持ってきたから、台風の目がずれて東京は被害少ないよ
（練馬区限定）

そうか、今度から大雨と台風の予報がある時は、あんたに着替え準備してもらうしかないな！
みんな濡れなくてよかったじゃないか！わっはっは。

結果論として、確かに足の悪い８０オーバーの女子たちをお迎えに行くのにやっぱり雨なんて降ってない方がいいんですよ。
だから、わたしの準備は彼彼女らの為になったと肯定的に考えてました。

途中、何度かやっぱり土砂降りになり、イケメンの上長が一人で車を置きにいったりする時「だけ」尋常じゃない雨が降ってました。若干濡れてかっちょよくなっていたので激しく嫉妬した←

※変態的観点から見ると、イケメンがタオルで濡れた髪をがしがしやってるところを見ると萌えるんですよ(*´Д｀)ﾊｱﾊｱ
マスクの下で「葵さん、鼻の下伸びてますよ？」といつか誰かに言われそうで、結局マスク生活から脱却した時が恐怖で堪らない。

「呼んだ？」「イケメンが濡れた話でカッパ君じゃないよ」

最終便を送った後に少し雨がぱらついてきた。これは……！チャンス（？）

やっと水も滴るなんとやらになって帰宅するんじゃないか！
もはや変態です。朝に準備してきたからには、濡れて帰りたい←ただのドМ

変態たるもの、ミッションコンプリートしたいんです。だから、いそいそと着替え、またリュックを背負い、雨合羽を着込んでウキウキと外に出た。

あ、あれ……おかしい。空を見上げると明らかに流れのはやい雲。雨を呼ぶ雲がそこいらに広がっている。台風の目があれている影響なのか、いつもより雲の流れも乱れていた。通常であれば「土砂降り」コースのはず。

わたしはそのままキコキコと電動自転車をこいだ。下石神井の時点でも全く雨が降らず、途中で雨合羽をしまうか悩んだ。
だが、ここで逃げたらミッションコンプリートができない。雨合羽を濡らしたいんだ。←#なんのはなしですか

上石神井を抜けても全然雨が降って来ない。お、おかしい。空は明らかに雨を呼ぶ雲だ。色も違う。この後に雨が来るはず。そう願うものの、家が近づく度にカッパすら着ていない人が楽しそうに歩いている。

台風は、逸れたらしい。

千葉や神奈川、東京練馬区以外の場所には被害を被っておりますが、残念なことに、この雨合羽と自分を濡らしたいという欲望を抱いたまま一日過ごした女のせいで、台風はずれたようです。

わたし、水も滴るいい女になりたいの。どうしたらなれるかしら？

なんのはなしですか

お家に帰る寸前まで雨を願ったが、残念なことに雨合羽は汗でしっとりした程度で、全くミッションが達成できなかった。
そして、迷惑なことに、マンションの斜め向かいにある段ボールの上にバイキングの小峠さんをおじいちゃんにしたような人がいつも座っている。しかも半裸で。

今日もそのおじいちゃんを目撃してしまった。今日は蒸し暑いし、雨だからきっと半裸だろう。そう思っていたのに、

なんでこんな時に白いシャツ着てるんだよ。しかも見たくないビーチクがうっすら透けて見えていた。

「なんて日だ！！！！！」

ただこの帯小説のやつを使いたくて書いたというね。
小峠じいちゃん、お願いだから半裸も嫌だけど、服はすけないやつでお願いします。

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