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妹がツンデレ過ぎてまともな恋愛が出来ません! 第30話

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第30話「私が側にいるから」

 文化祭当日。俺は栞と学校の門前で待ち合わせをした。
 『リア充死ね』と言う以前の非リア充の仲間達からは壮絶に冷たい目を向けられる。
 ──だが、俺はそんなものを気にしている場合ではない!
 折角親父の粋な計らいでこんなにも可愛い彼女が出来たのだから、青春ライフを楽しまないで何が高校生だ。幸い、こないだなんとか先輩と仲良くやってきたそうだし、いいんじゃねえか? これで麻衣のお小言というか冷たい目線から解放される。

「忍、お待たせ」

 T高校の制服は胸元に青のリボンがつけられており、白のセーラー服と可愛らしい感じだ。冬服バージョンはそれに青のブレザーが支給されるようで、今日はセーラー服に同系色のブレザーを羽織っていた。
 スカート、やけに短くないか?
 栞のパンツが見えそうで怖い。今も非リア充共が栞を遠くから羨ましそうに見つめている。あまりにも強烈な雄の視線に気づいたのか、栞は「こんにちは!」と雄の群れに手を振った。
 その瞬間、今まで「麻衣サマ最高」と言っていた男共はころっと栞の笑顔にノックアウトされ、俺に対する恨みつらみをぶつぶつ言いながら地面を叩き泣いていた。

「えっと、私って何処で着替えたらいい? それに、ミスコンって何時から?」
「あぁ、全然時間あるし、ゆっくり俺が学校の中案内するよ」
「やった。他校の中回れるの超嬉しい! ありがと忍」

 可愛い笑顔のまま、きゅっと腕に抱き着いて来る栞にドキドキしてしまう。ああ、麻衣にもこういう一面があればどれ程可愛いか──って、また俺は麻衣と比較して……。

 これじゃあ、俺の方が余程シスコンじゃねえか。

 余計な雑念を振り払い、俺はにかっと栞に笑顔を向けた。

 まずは最初に露店を開いているスポーツ部の方から案内する。T高女子は頭だけではなく、顔のレベルも高くて有名らしい。
 栞を見るなり、運動部の奴らはみんな俺達に色々な食べ物を恵んでくれた。金も浮くし、ありがたい。

「えへへ。みんな優しいね~。なんか、得しちゃった」

 嬉しそうに笑い、熱々の焼きそばを食べる栞は可愛いと思う。風にふわふわツインテールが揺れる。俺はぼんやりしたたま、栞の横顔を見つめていたのだが、ふと視線に気づいた彼女は「あっ」と声を上げると、俺の頬についていた焼きそばの残骸を指でつまんで取り、それをぺろりと舐めた。
 あまりにも自然とそんな行為をするものだから、俺もどきりとしてしまう。もしかしたら、顔まで赤くなっていたかも知れない。何たる不覚。

「ねぇ、今日麻衣ちゃんは?」

「麻衣のこと考えるなって言うくせに、どうしていつも俺に振ってくるかねえ……」

「ん~。忍の忍耐力調査かな?」

「訳わかんねぇ。俺は今栞と居るんだから、麻衣は関係ねぇだろ」

 麻衣の名前を出すと栞は異常にムキになる。多分、羽球のライバルってのもあるだろう。多分、それだけじゃない気はするが、麻衣がどうして栞にだけやたら敵対心を持つのか分からない。

「忍、麻衣ちゃんと私がミスコンに出たらどっちを応援する?」

「はぁ? 麻衣は中学生だから出ないだろ」

「そうじゃなくって。二人が居たらって意味」

 更に念を押されて俺は困惑しか無かった。大体、麻衣と栞ではそれぞれの魅力が違いすぎる。
 どう返すのが正しいのか分からないが、俺は正直に答えた。

「ん~。栞は俺の応援なんて無くても勝てそうだけど、そりゃあ彼女の応援するよなあ、普通は」

「──だって、麻衣ちゃん」

 何だって? 麻衣!?

 俺は慌てて栞が声をかけた方向に視線を向ける。すると、紺色のニット帽をかぶり、こないだ買った紺のニットワンピースにショールを巻いた麻衣が立っていた。
 今日、麻衣がここの文化祭に来るなんて話は聞いていない。最近すれ違いが多くて全然話もしていないから来るなんて知らなかった。文化祭の日程自体は多分雪ちゃん経由で聞いたのだろう。

 少し目を伏せた麻衣は何も語ることなく踵を返した。思わずそっちを追いかけそうになったが、俺の肩をぽんと叩いた弘樹に麻衣を任せることにした。



 今年も松宮先輩が圧倒的な強さを見せて優勝をさらった。しかし、外部からのエントリーもあり例年よりも盛り上がったらしい。感謝を込めて参加した25名全員壇上で名前を呼ばれた。

 そして、俺と一緒に文化祭を回る予定だった弘樹は最後まで戻って来なかった。連絡もない。俺は麻衣がどこかへ行ったのではないかと不安になり、栞を家まで送ってから弘樹と合流して麻衣を探すことにした。

 帰り道、横を歩いていた栞がポツリと寂しそうに話す。てっきりミスコンで全然優勝できなかった事かと思いきや、全然違う話だった。

「……麻衣ちゃんってさぁ、忍のこと大好きだよね?」

「ああ?それはねぇぞ。いつもツンツンしてるし、暴力的だし、怒るポイントがさっぱりわかんねえ」

 ははっと笑いながらそう答えると、栞はさらに寂しそうな顔をした。

「──最初はね、麻衣ちゃんを大事にする忍が好きだったの。羽球で麻衣ちゃんに声かけたでしょ? あの時の忍、メッチャカッコ良かった」

 ああ、確かに麻衣に喝入れたっけ。無我夢中だったから覚えてねえけど、カッコ良かったと言われるとついつい頬が緩む。

「でも、麻衣ちゃんの悲しそうな顔を見てたら、私が忍を独占するのダメだなって」

「だから、麻衣は関係ないだろ。大体、あいつと俺は兄妹で……」

「それでも、きっと麻衣ちゃんはそう思ってないよ。だから、ね、忍。私達は『友達』でいよう?」 

 それって、爽やかに恋人としては無理ってことですか。

 冬に向けてイベントは沢山だ。クリスマス前に何たるショック。鉛よりも重い言葉を受け入れられないでいた。
 マジか。
 いや、友達でいてくれるのはありがたいんだけど、それじゃあ手も足も出せないってことだろう。

「えっと……それって、つまり」
「うん。忍とはこれからも友達で居たい。忍のこと、本当にメッチャ大好きだけど、麻衣ちゃんを悲しませるのも同じくらい辛いの」

 涙を拭い、笑顔でそう言う栞を抱きしめたかった。それなのに、俺達は友達から先へ進めないと。──前回、甘いキスまでしたのに、これはあんまりだ……!

 今まで妹だから、と渋々受け入れていたが、こうなると麻衣の中途半端な態度に苛立った。

 俺のことが嫌いならばはっきりそう言えばいい。
 それなのに、好きでも嫌いでもない。実に中途半端だ。
 その所為でこれから先も俺に彼女が出来ないなら、高校を卒業したら父さんの下に付いて1人暮らしをさせてもらおう。その方が気兼ねなく女と遊べる訳だし。

 ああ、ショックだ。
 栞の友達発言がショックで完全に抜け殻になっていた。あの後麻衣を探すつもりだったのに、気がついたら家に足が向かっていた。弘樹からしつこいくらい連絡があったのに、LINEに向かう気力もない。
 俺がソファーで屍と化しているのが気になるのか、後から帰宅した麻衣はニットワンピースから着替える様子もなく俺の近くをウロウロしていた。
 まさかお前の所為で栞に振られたとは言えない。それに麻衣が原因ではなく、他にも言いにくいダメな理由があったのだろう。そう思わないとやってられない。

「俺、栞に振られたんだ。情けないなぁ~やっぱり麻衣にも嫌わてるくらいだから、やっぱ彼女は出来ないってことだ。ははっ……」

 焦っていたのかも知れない。確かにちらほら周りで他校の彼女作って幸せそうにしている光景はあったけど、別に彼女が居なくても幸せそうな弘樹がいるじゃん。
 非リア充連合の奴らだって推しに命をかけてリア彼女なんて要らないとか言ってるくらいだ。
 やっぱり、俺に彼女は早かったか。自嘲的に笑っていると、無言のまま麻衣が俺にきゅっと抱きついてきた。

「麻衣……?」
「兄貴には、私が側にいるから」

 まさか妹に慰められるなんて。俺は抱きついてきた麻衣の背中を恐る恐る触る。
 そういえば、麻衣は俺好みのニットワンピースを着て文化祭にわざわざ来てくれたんだった。

「兄貴の事……き、嫌いじゃないから」

 はい終わり、という具合に麻衣はあっさり俺から離れて着替えに行った。おしゃれなワンピースのまま夕飯作りをするわけにはいかないのだろう。
 多分、麻衣が改めて嫌いじゃないと言ったのは、俺が『麻衣にも嫌われている』と言った部分を訂正したかったのだろう。
 じゃあ素直に好きだから、と言ってくれたらいいのに。

 やはり麻衣の本音は分からないままだ。


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