官能ショートショート『帰り道』

暖炉の前。
彼と寄り添い、素肌に同じ一枚の毛布をまとい、炎を見つめていた。
ラジオからは、数十年振りに襲った寒波の状況が繰り返し聞こえてくる。
でも、太い丸太でできた壁は、完全に外界の気配を遮断し、今感じられるのは暖炉と彼の温もりだけだった。
都心からほど遠い山中に十五戸ほど建つ高級貸しコテージ村に、私たちはお互いの家族に偽りのスケジュールを告げ、たどり着いた。
彼の肩にもたれかかりながら、雪が張り付いた窓に視線を向ける。
「帰るとき、大丈夫かしら?」
「大丈夫だよ。僕の車は四駆だし、雪用のタイヤも履いているから、どんな雪道だって心配ないよ」
彼が私を見つめる。
「君と二人でこんな家で暮らしていけたらいいのにな」
「何言ってるのよ、そんなこと……無理よ……わかってるでしょ」
若くない二人。
それぞれの家族があり、それぞれの生活がある。
それを捨てて二人で暮らす覚悟は私にはなかった。
多分、それは彼も同じ。
ひとときだけの逢瀬、それだけで満足なはず。
でも、彼の体温を肌に感じていると、この時間がいつまでも続けばいいと思うのも確かだった。
近づく唇。
毛布がお互いの肩から落ちる。
暖炉の熱が直に横から当たる。
毛布の上に横たわった。
彼の身体が自然に私の脚の間に収まる。
彼のものは二度目だというのに、既に硬さを取り戻していた。
嬉しかった。
腰を少し動かしただけで、もう私の入り口を見つける。
ゆっくりと私の奥まで入り、舌を絡ませると同時に彼が動き出す。
私は目を閉じ彼の背中に腕を回した。
二人で夕食を作り、笑いながら今日一日の出来事を語らい、そして夜は、彼の体温を肌に、中に感じながら愛を確かめ合い、寄り添って眠る。
そんな毎日が……。
望むべくもない未来だとわかっている。
今の家族、今の生活なくしては成り立たない自分。
でも、せめて今だけは……自分の思うままに……。
彼がせっぱ詰まった声で私の名を呼ぶ。
かまわない……未来がなくても……今、この時があれば……。
彼を促す。
私の中で彼の力強い脈動が始まった。
ああ……今だけ……明日になれば、また平凡な日常に帰るのだから。
同じ道を辿って……。
不意にラジオから違う声が聞こえた。
「ただ今、○○市の山中において雪崩が発生し、国道○号線が不通になり、この影響でその先にある貸しコテージ十数棟が孤立……」

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