官能ショートショート「言葉の効用」

「君は最低だな」
頭の中によみがえってくるのは、上司が私をののしった言葉だった。
身体がささくれ立っているような気がする。
私はひとりカウンターに座って強めのカクテルを何度も口に運んだ。
何杯目かの注文をバーテンダーに告げる。
カウンターの中から私を気遣う言葉が返された。
女ひとりで酒をあおる姿に対しては正常な言葉だ。
確かに落ち度は私にあったかもしれない。
でも、その言葉は仕事の仕方を責める話から始まり、私の性格、延いては人生観まで否定
するにまでに及んだ。
唇を開け、グラスを思い切り傾ける。
中の液体とともにオリーブが口の中に落ちる。
となりにスーツ姿の若い男が座った。
私を心配する言葉。
私は悪態をついたかもしれない。
でもそれはその若い男に向けてだったはずが、いつしか上司への言葉に変わっていた。
ろれつが回らなくなった。
男の手の平が私の手の甲に重ねられた。
同情、私を肯定する言葉。
男が微笑む。
男が立ち上がり私の両肩を支える。
私の身を心配する言葉。
私は促されるように立ち上がった。
男の身体にもたれかかる。
ふらふらする……。
私の身体が揺さぶられているのに気づく。
身体の深いところで何かが動き、そこから身体全体にけだるい快感が広がっている。
男が私の上で動いていた。
私を見下ろしている。
真っ白いベッドの上。
私のだらしなく開いた脚の間で、男の腰だけが動いている。
私は短い拒絶の言葉を吐いた。
男が私の耳元に唇を寄せ、私の中の締め付けを褒める。
何度も何度も褒める。
低い喘ぎ声が吹きかかる。
その途端、ぞくぞくと全身を鳥肌が覆う。
男の成すがままだった私の中が、自ら動き始める。
男のものを絞り上げ、その形をわからせた。
低い声がうめき、また私を賞賛する。
男が顔をゆがませ、私の身体のせいにしてもう自分が限界に近いことを告げる。
私の中で遂げたいと言う。
突き上げる動きが早くなる。
耳元で何度も何度も私を褒める言葉と、承諾を促す言葉が繰り返された。
私の口から出たのは、昇り詰めようとするときの言葉。
男の切羽詰った短い言葉。
男の速度が更に上がる。
男のものが動きながらも次第に硬く膨れ上がるのがわかる。
その変化に私も押し上げられる。
私から男の目的を促す言葉。
男の息を詰めたうめき声。
男の動きが止まる。
次の瞬間、私の中で違う生き物がいるのような力強い脈動が始まった。
私の口から言葉にならない声が吐き出された。
男がまだ荒い息で耳元に囁いた。
「君、最高だったよ」
私は大きくため息を吐くと、満たされたまま眠りに落ちた。

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