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世界をみるレンズを得た日
#読書感想文 というものを日々自分のノートに書き記しているが、最近は自分の時間を取るということもままならず、新しい本へ冒険にでる機会がめっきりと減った。おかげでなかなかノートに新しい冒険譚のページは増えず、寂しい毎日を送っている。
そんななか見つけたこの「#読書感想文」というテーマ。
なるほど。心に今も強く残っている過去の冒険譚をここに書き記していくことは、新たな「読書」という冒険に出かける人へ繋がることにもなるかもしれない。
そんな一種の思惑を抱えて、「読書感想文」という私なりの「冒険譚」を書き記してみようと思う。
精霊の守り人 上橋菜穂子
さて、前置きが長くなってしまったが、今回の冒険譚で紹介したいのはこちらの本である。小学生の時にこの書籍に出会ってから大人になった現在まで、ずっと私の中で一番大切な本であり続ける一冊である。
まず私がこの本を誰かに紹介する際に必ず伝えること。それは
児童文学書に推薦される本でありながら、大人だからこそ楽しめる面を多く持っている
ということである。
初めて私がこの本を読み終えた時、世界の鮮やかさを知った。
まさしく、【自分を取り巻く目に見えない景色】というものを知ったのだ。
物語の中ではナユグとサグという言葉で表される≪こちら側≫と≪あちら側≫(実際はもっと深く重みのある表現である)が、私を取り巻く≪身の回り≫と≪知らなかった世界の存在≫という現実世界の認識を、ぐっと身近に引き寄せた感覚だった。
著者である上橋氏は、アボリジニ民族を研究されている。
その影響であるのか、この一冊には、並みのファンタジーでは到底表しきれないであろう世界の広大さと、底知れなさが鮮やかに描かれている。
それまで「日本人」と「外人」程度にしか認知していなかった現実世界が、一気に細分化された「なにか」であるということを、この一冊を読んで知った。
まさに、世界をみるレンズを得たような感覚だった。
この、「自分が見る世界が一度に広がる広角レンズ」を得る感覚は、「精霊の守り人」に限らず、「守り人シリーズ」読了後全てで得られるものであるが、やはり私は原点であるこの一冊を強く推したいのだ。
なぜなら、この冒険は「世界を知る」ことに留まらず、まさしく「本を読む楽しさ」を純粋に伝えてくれる一冊であるからだと感じているからである。
ここに、この本が児童文学として推薦され続ける理由があると考えている。
「本を読む楽しさ」というのは、人ぞれであると思う。
異世界へのトリップ感覚であったり、自分ひとりでは得られなかった思考の獲得であったり、主人公や登場人物への感情移入や同感にて得られるドキドキやハラハラする感覚……。
この一冊はそれすらも贅沢に味わうことが出来る。
ファンタジーというジャンルは、私達が生きている現実上では絶対に触れることの出来ない「なにか」と私達をより近づけてくれるツールであると考えている。
「精霊の守り人」では、繊細で重厚な世界観でありながらも、鮮やかな描写で、読者をバルサの隣へとぐっと引きずりこんでくれる。本を開いて数秒後には、目の前にごうごうと音を立てて白霧を上げながら流れる青弓川が広がっている、と錯覚するあの感覚は何度読んでもたまらない。
物語の冒頭部分ですでにバルサの隣に立っている錯覚に陥いるのだ。
目の前で展開されているのが映像による視覚情報なのではないか、と感じるほどの分かりやすい描写ながら、心に直接訴えてくる表現は、確実に読者をファンタジーの世界へ引きずり込んでくること間違いなしである。
また、この一冊を語るうえでアクションシーンは欠かせない。
主人公であるバルサは女用心棒であり短槍の使い手である。
そんな彼女が命を掛けた死闘を追手と繰り広げるシーンは、本当に心の底から冷や汗をかき、また興奮しながら読む手を進めることになるだろう。命のやり取りをしながら走り抜けるスピード感と、ページに印刷された文字列からあふれ出る殺気は、この本の醍醐味といっても過言では無い。
私は、「守り人シリーズ」の中で一番、アクションシーンが大好きだ。
上橋氏の世界観や人物像の全てがぎゅっと詰まっていると思う。
主人公や登場人物が感じる葛藤や決意も、決して現実離れしていないところがまた、この本への共感を生みやすいところだ。
チャグムが「なぜ私だったんだ」という葛藤を抱く描写は、誰もが感じたことがある自分の意思ではどうしようもない何かへ対する怒りであり、チャグムへ感じる愛おしさや人間味が増していき、最終的には彼がぐっと身近な存在になる。
宮殿しかしらない皇子が、だんだんと人間臭さを得ていく成長は何度見守っても心が温かくなる。シリーズを経て、そんなチャグムがどのような人生を歩んでいくのかを知ることも、「守り人シリーズ」の楽しみ方であると思う。
私はこの本を、現実逃避したいときに必ず開く。
初めて読んだ小学生の時に得た感動は、今もなお色あせない。
バルサやチャグム、タンダ、トロガイと出会えるこの世界は、私にとって、心の中での避難場所であり、何度訪れても、そのたびに「世界の鮮やかさ」を教えてくれる場所なのである。
そうして得た「レンズ」を通してまた広大な現実へと旅立つのである。
「読書感想文」という名の「冒険譚」を読んでいただいた方が、いつか、「精霊の守り人」という世界へ冒険へ出かける日が来たら、私は諸手を上げて狂喜乱舞する。
ようこそ、「世界を見るレンズ」を得る旅へ。そして、現実世界を暫し忘れ、思いっきり冒険を楽しめる旅へ。
どうか、この「冒険譚」が、誰かの心苦しさを変えるなにかのきっかけになればと思っております。
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