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旅の歌

記憶と音楽は、密接な結びつきがあるらしい。

ある曲を聴くと、自分でも忘れていた思い出がぱぁぁっとよみがえる、ということもあるし、何度も聴いていた曲はもはや思い出の一部として、記憶を強化してくれている気もする。

思い出と深く結びついた音楽の中で、一番古いもの。

それは、「旅の歌」と(幼少期の私に)命名された歌で、名前の通り、どこかに出掛ける時によく聴いていた音楽たちだ。

私の両親はアウトドア派で、幼い子供3人を連れての旅行は、車での移動がほとんどだった。片道3時間の道のり、だいたい両親の趣味で決まった音楽がかかっていた。アーティスト名も曲名も知らなかったけれど、何度も聴くうちに歌詞を覚えて、一緒に口ずさんでいた。

大きくなってから、テレビの音楽番組やラジオで偶然耳にするたび、「旅の歌だ!」と心が沸き立った。風景がよみがえり、未だに自分が歌詞を覚えていることに驚く。

『ZARD』の歌は上信越道のイメージ。緑の木々の中を抜けて、川の流れる音と混ざり合って、風のにおいがして、キャンプ場へ向かう。

『Every Little Thing』の歌は関越道か東北道。トンネルを抜けて窓を開けると潮のにおいがして、坂の向こうにキラキラの海面が見える。

妹は、「小さい頃いろいろ連れ回されるの、好きじゃなかった」と言っていたけれど。私の「旅の歌」と共によみがえる思い出の中にはいつも、ワクワクする気持ちがある。

そうして家族で出掛けるのが、大好きだったんだなぁ。

正直、その時観光した場所などは、ほとんど記憶にない。断片的に記憶に残っているシーンもあるけれど、親からしたら、連れて行った甲斐のない程度だろうと思う。

それでも、「旅の歌」のおかげで私は、あの、知らない場所へ向かうワクワクする気持ちや、みんなで出掛けられる嬉しい気持ちを、覚えていられた。

観光は何度でも出来るけれど。そのときの感情は一度きりしか経験できないものだから。幸せな感情を覚えていられることは尊い。「旅の歌」が、音楽の力が、私の思い出を宝物にしてくれた。

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