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「コイザドパサード未来へ」 第14話

クリスマスがやって来た。

この時期になると師走特有の慌ただしさを感じるとともに、
街のあちこちでイルミネーションが灯り、クリスマスソングが流れ出す。
クリスマスはたくさんあるイベントの一つだし、特別な意味があるのか分からないけど今年は去年と違い、父さんがいるから特別といえば、特別だ。
最後のクリスマスは僕が小学3年生だったから、実に5年ぶりに家族で過ごすことができるクリスマスになる。

親にクリスマスに何か欲しいものはないか、と聞かれたが、特にほしいものは思いつかない。それでも何かないのか、と聞かれ続けるので、ついに「いつもより高級なお肉が食べたい」と答えた。
両親は中学生らしくない返答にあきれ果てている。
もう少し子どもらしい、プレゼントをお願いできたら良かったのだけど。
ほしいものがないのだからしょうがない。
誕生日プレゼントなら分かるけど、クリスマスだからプレセントをもらうというのも正直よく分からない。

アキラにその話をしたら「聖人君子かよ」と笑われた。
そして「前から思っていたけど、ミライは人生何周目なんだよ。素直にクリスマスを楽しめばいいのに。中学生にしては考え方や行動が老成しすぎている」とも言われた。
前世の記憶はないから、人生は1回めだよ。と心の中でつぶやく。
要するに僕がおじいさんみたいってことだね。
ティーンエイジャーに向かって失礼だな。とアキラに少し腹を立てたけど、否定できない自分もいる。
多分、僕は普通の中学生に比べて、落ち着きすぎているのかもしれない。
言われなくてもそんな自覚はある。

アキラはマウンテンバイクを買ってもらったらしい。
クリスマスプレゼントの話をした時のアキラの嬉しそうな顔が浮かんでくる。お父さんにちゃんと甘えられて良かったな。

クリスマスは家族で過ごすこともあって、どうしても横井さん家族のことを思ってしまう。父さんから横井さんのことを聞いて以来、横井さんとその家族についてどうしているか、何ができるだろうか、とついつい考えてしまう。クリスマスからお正月って家族と過ごすイベントが目白押しだから、寂しく感じるだろうなあ。だって僕と母さんがそうだったから。
クリスマスって家族や恋人、友達、自分の大切な人と時間を共にする日なんじゃないかなあ。
日本ではいつの頃からか恋人と一緒みたいな日になっているけど、本来なら
自分が会いたい人と会って一緒に楽しく過ごす日なんだろうなあ。

会いたい人に会えますように。
いつか横井さん家族も横井さんと再会できますように。
クリスマスが聖者の夜なら、願いごとがいつかきっと叶うような気がした。

サンタクロースがいるなら、横井さんをトナカイのソリに乗せて横井さん家族に届けてほしい。
僕はそんな子どもみたいなお願いを心の中でしてみた。


年が明けて、アキラと神社に初詣に来ている。
夏休みにアキラのお父さんのことを聞いたあの神社だ。

年末からお正月にかけて、かなりのんびりと家族で過ごした。
ずっと家でご馳走ばかり食べていたので、こうして外に連れ出してくれるのはありがたかった。
寝正月とはよく言ったもので、食べて寝てばかりいたので、久しぶりに外の空気を吸って体を動かすのは気持ちがいい。
吐き出す息は白く、冬の雲ひとつない空に向けて息を吹きかけてみる。
少しだけ曇った青空が遠方に広がっている。

何十人もの人が並んでいる列に加わり、境内の手前でお参りする順番を待っている。まだ正月三が日なので、いつもより参拝客が多い。
並んでいる僕たちの周りでは新年の挨拶を言い合う人々の声が絶えず聞こえており、新年を祝うムードに包まれている。
静かでひと気のない神社もいいけど、今日みたいな人で溢れた、普段よりも活気のある神社もいい。
新しい年をみんなでお祝いしているみたいだ。

「アキラの弟か妹、いつ生まれるの?」
「4月初めだって」
「僕と同じ誕生日月だ」
うん、と頷きながら、アキラは一言
「弟だって」と落ち着いた声のトーンで教えてくれた。
この前まで分からなかった赤ちゃんの性別が、とうとう判明したらしい。
弟が生まれるんだ。

「母ちゃんに言われたんだ。生まれてくる赤ちゃんと関わるのも関わらないのもあなたの自由だから、私に遠慮しないでね。
あなたの弟なんだからねって」

アキラはどうしたいんだろう。

「弟が生まれたら会いたいと思わないの?」
「まだよく分からないんだよ。全然実感が湧かなくて」

どうしたらいいか、分からない人の顔をしている。
困っているわけではなく、ただただどうしようか迷っている感じだ。

お母さんのことを考えたら、会わない方がいいと思っているのかな。
母思いのところあるし。

僕たちの番が来て、神様に新年のご挨拶をした。
手を合わせてひたすら神様に祈る。
隣のアキラは、真剣な顔で何かを呟いている。
赤ちゃんが無事生まれることをお祈りしているのかな?

僕の願いはただひとつ。
横井さん家族が今年こそ、再会できますように。
もし、この願いが叶ったら、お礼を言いにまたここに来よう。

それにしてもこの時期の神様はきっと大忙しだろう。
みんなの新年の願いを叶えるなんて相当な大仕事に違いない。
あれ、そもそも神様にお願いってしていいんだっけ?
神様にはお導きください、とか見守っていてください、が正解なのかも。
新年に無礼なことはしたくないから、お導きください、と心の中で
言い直して、神社を後にした。

僕はアキラのことを想った。
今はどうすればいいか分からなくても、きっと時間が経てばそのうち自分で答えを出すんじゃないかなあ。
少し楽観的かもしれないけど、そんなには心配していない。
自分で考えて決断できると思うから。

神社の帰り道、「またね」と手を振りながら、それぞれの家路に向かった。
すぐに学校が始まって、日常がそんな僕たちを待ち構えている。

別れた後、その後ろ姿に向かって
「アキラはアキラのままでいいんだよ」って心の中で話しかけた。

青空の下、アキラとそのまっすぐ伸びた長い影はどんどん離れていく。
僕はその影が小さくなるまで、角を曲がるまで見送った。


(つづく)

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