人間ドックは受けるべきなのかっていうお話
今回は人間ドックについて簡単にまとめてみます。
マニアックなことを専門としている自分の医療ネタとしては比較的万人向けの話題です。
ほんとは専門のマニアックなことをどんどんまとめたいけどせっかくなら正常な体の仕組みなどまとめつつ病気の話に持ってくほうが自分でも理解しやすいなと。
留学前まで臨床・研究業務に加えて、健康診断や人間ドックの診察・検査・面談などにも携わりバイトしていました。少し細かい話もできると思ったので今回取り上げます。
よくあるネット記事・ブログと同じことを書いても仕方がないので、少し違った視点からお話しします。
相変わらず口は悪いです。
人間ドックはなんのために受けるの?
一番大事なのは、そもそも人間ドックはなんのために受けるのかを理解しておくことです。
「40歳超えたし、周りの人が受け始めたから」「会社のサービスで受けることができたからなんとなく受けている」
「知り合い・有名人が癌でなくなって怖くなったから」
きっかけはいろいろあるかと思います。
ただ根本的には次が一番ではないかと思います。
「健康な状態で人生を楽しみたいから」
別の言い方をすると、
「痛みや苦しみを伴わずに人生を終わらせたい」とも言えます。
これは健康寿命を伸ばすなんていう言い方をします。
このあたりの考え方は意外と意識していない方も多いのでいずれまとめてみようかと思っていますが、今回は逸れずに話を戻します。
結論をいうと、人間ドックの一番の目的は
「なんらかの体のつらい症状が出現する前に病気を見つけ出し、早めに対処すること」です。
人間ドックを受ける前に知っておくべきポイント
先に述べたとおり、人間ドックの目的は症状が出る前に病気を見つけることが目的です。
しかし、その前に通常の病院受診と人間ドックの違いを理解しておきましょう。
いうなれば人間ドックは通常、無症状だけれども体の中に隠れた病気がないかどうかを確認するためのとのであって、症状がある方がその原因を知るために受けるべきものではありません。
しばしば、「最近胸が痛いことが多いから心配」「歩くと息が苦しい」「足の先がしびれる」などの訴えがあり、人間ドックを検査する方がいます。
しかしそれは一般的な内科受診をして原因を探るべき状態であって、全身チェックして病気をフルにみつけにいく、というものではありません。
内科を受診したけど原因がわからなかったから人間ドックに来ました。という方もいますが、残念ながら人間ドックじゃほぼ分かりません。
人間ドックは体の隅々まで調べることができる万能の検査、と勘違いしてる方が非常に多いので注意が必要です。
狭く深く、ではなく、浅く広くが人間ドック。
続いての注意点は、
強い症状があるときに人間ドックをうけてしまうと、隠れた病気がマスクされ見つかりにくくなる。
たとえば、
熱がある、咳があるときに検査を受けると、血液検査の異常が見つかり、本来体に隠れた病気のせいで異常になっているのか、風邪のせいでそうなっているだけなのか、その区別が付かなくなってしまいます。
したがって、可能な限り体が元気な時に検査を受けましょう。
コロナワクチンを摂取していた方が多い2021年〜2022年頃、特にワクチン直後に人間ドックにきた方はPET検査で炎症結果が出てきてしまい、癌との判読に困る場面がよくありました。
「癌がなかったから安心」ではない
結果を必ず見直しましょう。
人間ドックを受診された方のうち一定数の確率で、「癌が見つからなくてよかった、健康で安心した」と言いながら、
たばこを吸い、内臓脂肪はたまり、脂質異常症・高血圧、挙げ句の果てに肝機能障害・腎機能障害・糖尿病など生活習慣病がひどい方がいます。
生活習慣病の怖いところは20・30年後に脳梗塞・心筋梗塞などの大きな病気につながることです。だいたい50-60歳頃から始まります。
ラーメン毎日食べてもなんともないぜ、なんて言ってる方をたまに見かけますが、数年じゃ何ともなりません。怖いのは10年放置してから。
そして、生活習慣病があるといろんな種類の癌もできやすくなります。生活習慣病はいうなれば体の中の小さな炎症です。段々と細胞が老化していきます。
年をとって大きな病気になる前に、生活習慣病をきちんと改善していくよう、健康診断や人間ドックの結果とにらめっこをして頑張りましょう。
とはいえ、症状が全くないからみんなそこまで頑張れないんですけどね。
知らなかった医療知識・健康知識を手に入れよう
自分で気づいていないことを病院で指摘されて、行動に起こすことができるのが人間ドックの一番のメリットです。
例えば、胃癌の90%以上はピロリ菌が原因なのでピロリ菌の検索を早めにしましょう、とか、子宮頸がんはHPVワクチンを接種で予防できる、肥満の原因はお菓子などの甘い物、脂っこい物だけではなく、糖質(パン、麺、ご飯)も大きく関わっていること、など知って得する情報は色々あります。
意外と知っているようで知らない(あるいは偏った知識を持っている)という方が多いのが医療知識です。義務教育で習わないので仕方ないです。
そして、知っていても実践できていない人が非常に多いです。
「たばこを吸ってるから肺癌にならないか心配」「太っていると脳梗塞や心筋梗塞になりやすいと聞きました。今ないかしらべてほしい」など言ってる人が多いのが現状です。
人間ドックはもちろん病気をみつけることも大事ですが、本来は大きな病気になる前に自分の体の状況を認識することが目的の検査です。
「肺癌になる可能性があるとわかっているのであればたばこをまずはやめる」
「太っていることがよくないとわかっているならまずはダイエットをする」
頭で認識できていることはまず行いましょう。
人間ドックを受けるべき人とは?
まずは自分の病気のなりやすさを知っておきましょう。
家族歴が特に重要です。
おじいちゃん、おばあちゃん、お父さん、お母さん、兄弟・いとこ、がどんな病気を持っているか知っていますか?
人間ドックは闇雲にうけてもしかたありません。家族みんなが元気な家庭の10歳の子供が大金をはたいてドックをうけても何もいいことはありません。
ある程度、病気が存在する可能性が高いと想定される場合に受けるのが人間ドックです。
じゃあ、そもそも病気ってなんでなるの?ということですが、
一般的には下の6つです。
1. 生活習慣病(不健康な生活習慣)
2. 親からの遺伝
3. 遺伝子の突然変異(先天性)
4. 遺伝子の突然変異(後天性)
5. 外傷や事故によるもの
6. 感染症
7. 環境要因(大気汚染、化学物質)
2. 3. については、残念ながら避けようのないイベントでもあり、そして親戚を呪っても仕方がありません。
ですが、逆をいうと、自分が同じ病気になる可能性が高いからそれを事前に把握し、対策をとることも可能です。
残念ながら、高血圧や糖尿病、脂質異常も家族の遺伝が強いです。ただなぜかここで遺伝だからと開き直って放置してる人も多いのが不思議なところ。
食生活や運動体質なども遺伝していて生活習慣病になりやすいんでしょうか。
そして4の後天性の遺伝子変異というのが一部の癌や神経疾患、老化に伴うものなど。
原因が何であれ、自分がかかる可能性がある病気をあらかじめ予想することは大事です。
今後の自分がどういう病気になりやすいのか把握するために、まずは自分の親・親兄弟姉妹・祖父祖母まではどういう病気を持っているか、突然死をした親戚がいないか、など十分にチェックしておきましょう。
加齢による病気の発症については比較的人間ドックで対応可能です。しかしながら、まれに10-20代から重病を患ってしまう方も一定数いて、それに対しては残念ながら人間ドックは無力です。
体の不具合がでたら早めに病院受診して対処するしかありません。
40歳を超えたら一度受けておいてもいいかも?
生来健康で過ごしてきた方は、おそらく一度も全身の画像検査をうけていない方もいると思います。
自分も体幹のCTやMRIは一度も受けたことがなく、ほんとに全部内臓あるのかチェックしたことはありません。
もちろん早めに人間ドックに受けるに越したことはないのですが、どうしても検査の内容によってレントゲン、CT、PET/CT検査など放射線を使う検査もあります。
放射線による発癌の影響については年齢が若ければ若いほど正常細胞が傷つきやすく、また年齢があがるとその影響は減っていきます。
レントゲン数枚やCT一回程度でどうなるってことではないですが、もちろん少ないに越したことはないですからね。
大半の病院では40歳より若い方に全身放射線を使う検査を受けるメリットは少ない、と設定してドックの検査を組んでいるところが多いです。(40歳を超えると放射線被曝のデメリットよりも検査をうけるメリットのほうが上回る)。ただ、この年齢の根拠は大してありません。
どういう人間ドックがおすすめ?
いろんな種類の人間ドックがあり、どれを選んだらいいのかわからない、そんな方も多いかと思います。ただ、基本的には先に述べたように、
自分がかかりやすい病気に対応した検査が含まれているものを選びましょう。
たとえば、
・大腸癌が多い ⇒ 便潜血検査は必ず、余裕があれば大腸カメラをしましょう。
・脳出血が多い家系 ⇒ 脳MRIが必須です。動脈瘤がないか確認しましょう。高血圧があるなら塩分制限、内服開始も視野に。
・親戚が乳癌、子宮癌になった ⇒ マンモグラフィーや超音波を受けましょう。遺伝子検査もいまはできます。
・生活習慣病が多い ⇒ 本来は健康診断で十分ですが、年来が50を超えているのであれば、心臓の検査をしながら、食事・運動に気をつけた生活を行いましょう。
もちろん、お金に余裕があれば最近は全身のMRI検査(DWIドック)なんていうのもありますので、全身チェックするのもいいかと思います。
人間ドックの検査では診断はつけられないことが多い
少し前に触れましたが
人間ドックはあくまで異常がないかどうかを全身チェックする大まかな検査です。その異常に対して、正確な病気の種類や重症度などを評価できる物ではありません。
いうなれば、「癌の可能性が0ではない」ことは言えるが、「癌」と確定はできない。という検査です。
サンタクロースからプレゼントが来ていることはわかり、もしかしたらゲーム機が入っているかも!まではわかっても、実際になにが入っているのかは開いてみないとわからない、というのと同じ感覚です。
例えが悪い。
診断には、さらに深い検査が必要となります。その疾患を疑った血液検査、造影剤を使った検査や、直接組織をみる生検、胃カメラ・大腸カメラなど。
いずれにせよ、人間ドックの結果で病院受診をお勧めされたからといっていきなりびっくりする必要はありません。
およそ9割の方はその後の検査で良性(心配いらない)という結果が得られます。
人間ドックの結果をみて行動しよう
結果をきちんとチェックし、指示に従いましょう
結果についていろんな情報が書かれているかと思います。
「脂質異常症があります。内科を受診しましょう」
「甲状腺結節があります。内分泌科を受診しましょう」
きちんと指示に従い、病院受診していますか?
これらの内容は、数ヶ月以上放置していると大きな病気につながる可能性がある項目をこのように記載してあります。
もちろん9割方は問題ないことが多いですが1割の方にハズレが隠れてます。
この指示に従うことが究極的には人間ドックで一番大事なことです。人間ドックをうけた事実に満足しても仕方がありません。
そして、何度も言いますが、癌の検索のために受けた人間ドックで生活習慣病の悪化など認めた場合は、症状がないからといって放置せず、必ず次回検査の時の改善を目指して、食事・運動を頑張りましょう。
どのくらいの頻度で人間ドックは受けるべき?
本格的に人間ドックを受け始めた場合は、基本的には1年に1回をおすすめしています。逆をいえば、1年以内に何度も受ける必要はありません。そして全身フルの検査を必ずしも毎年うける必要もありません。
しかし、例えば胆嚢ポリープ、甲状腺の結節、乳腺石灰化などなど、それ自体はたいした病気でない(良性)けれども、実はその良性のなかに今後癌になる病変が隠れていて、1年後に大きくなっている可能性が0ではない、といった場合は、1年後にも受けることが理想です。
もちろん確率は低いので2年後、3年後でもいいかもしれませんが、万が一実は癌だったら…と後でわかったとき後悔してしまいます。
まとめ
梅干しのように口を酸っぱくして患者さんには説明していますが、人間ドックは結果をみてからの行動が一番大事です。
めちゃくちゃおデブな糖尿病専門医がいたりするくらいなので口で言うのは簡単だけれども実行するのが難しいというのが現状ではあります。
ただ、数十年前に比べて医療知識も確立されつつあり、薬や治療の選択肢も増えた現在では、少しの努力でなんとか最悪な事態になるのを予防することも可能です。
生活習慣病については若いうちに早めに対応し、病院受診がお勧めされた結果については積極的に受診をして、大きな病気に進行しないように心がけましょう。
好きなことをして好きなものを食べて死ねれば本望なんていうことを若い方はいいますが、なかなか甘い考えです。楽には死ねません。このあたりの医療の黒い部分はまたいずれ。
人間ドックは保険診療ではない分、高額です。使ったお金以上のものが得られるよう検査報告書とにらめっこすることをおすすめします。
よろしればぜひお願いします。 いただいたサポートは大好きなコーラ代になります!